*

「ブラックアース~ホロコーストの歴史と警告」ティモシー・スナイダー著池田年穂訳 を読んで

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 出版・講義資料, 歴史認識

ホロコーストについても、観光学で歴史や伝統は後から作られると説明してきたが、この本を読んでさらにその思いを強くした。別に虐殺を否定するのではなく、文脈の中で理解しないといけないということである。

著書の最後に「訳者あとがき」があり、簡明にまとめてある。
エストニアとデンマークはドイツから命じられたにもかかわらず、極端な差が出たと記述がある。エストニアでは1940年にソ連に占領され、ドイツがやってきたとき99%のユダヤ人は殺害されていた。デンマークは市民権を持つユダヤ人の99%は生き延びたとある。エストニアのイメージが一変する史実である。二年まえ日帰りでタリンを旅行したが、その時知っていればもうすこし見方が変わったかもしれない。

🌍🎒シニアバックパッカーの旅 エストニア(国連加盟国65か国目)

著者のスナイダー氏への質問と回答も紹介され、その中で
・ホロコーストは戦前のドイツの国境線の外ですべて起きているということ、
・犠牲者の97%はドイツ国外の出身のユダヤ人であった
・ユダヤ人の、現実には死の穴の縁で殺害されたものが半数で、実際に収容所の中にあったというわけではない特別なガス殺の設備で殺されている
・殺害に携わったドイツ人の多くはナチスではなかったし、そもそもドイツ人でもなかった
・国家崩壊の地域で起きた特別な種類の政治を考えないとホロコーストは理解できない出来事(政治領域を超えている)
・ホロコーストは理解できるのもであり、理解しなければいけないこと
ということが強調されている。驚きの事実である。

ソ連に占領され、そこへドイツが侵入し、国家が崩壊を重ねた結果がホロコーストなのであろう。
バルト三国、東部ポーランド、ソ連領内(ウクライナがまさにブラックアース)でのユダヤ人が殺害されたのである。
杉原千畝氏がリトアニア勤務であったことも理解ができた。

私は、外人船員に頼り切っていた海運産業行政の経験から、日本社会が外国人を受け入れないことに反対してきたが、
考えてみると日本人こそが特殊な事態になった時、エストニアやポーランドのようになりかねないかもしれないのであると、この本読み思い直した。
原発事故の際に整然としてたと日本人は評価が高いのであるが、関東大震災での朝鮮人殺害を繰り返す恐れが無きにしも非ずと思ってしまった。
特に、韓国人に対する最近の接し方を見ると、日本社会に外国人の集団を受け入れた時、とんでもないことをする日本人が出てきそうな気がしだしたのである。

なお、ホロコーストについて日本の中でも戦後すぐには問題になっておらず、中東戦争あたりから話題になってきたことにつき、ユダヤ人側からの事情として書かれたものがある。黙って死んでいったユダヤ人を当初シオニズムは評価しなかったのであるが、それが変わりだしたのが、第二次中東戦争あたりからであるといことが書かれていた。確か岩波新書であったような気がする。

歴史認識と書評『ユダヤ人大虐殺の証人』河出書房新社

関連記事

no image

『金融資本市場のフロンティア 東京大学で学ぶFinTech、金融規制、資本市場』に学ぶべきMaaS

本書を読んで、アンバンドリングとリバンドリングという言葉に出会った。金融機能が、テクノロジーが導入

記事を読む

no image

「食譜」という発想 学士會会報 2017-Ⅳ 「味を測る」 都甲潔

学士會会報はいつもながら素人の私には情報の宝庫である。観光資源の評価を感性を測定することで客観化しよ

記事を読む

『幻影の明治』渡辺京二著 日本の兵士が戦場に屍をさらしたのは、国民の自覚よりも(農村)共同体への忠誠、村社会との認識で追い打ちをかけている。惣村意識である。水争いでの隣村との合戦 

「第二章 旅順の城は落ちずとも-『坂の上の雲』と日露戦争」 著者は「司馬史観」に手

記事を読む

no image

2022年8月ジャパンナウ観光情報協会原稿 アフターコロナという名の観光論 原稿資料

 ◎ジャパンナウ原稿案 2020年冬から始まった新型感染症は日本の人流・観光業界に

記事を読む

no image

『カシュガール』滞在記 マカートニ夫人著 金子民雄訳

とかく甘いムードの漂うシルクロードの世界しか知らない人には、こうした動乱の世界は全く想像を超えるも

記事を読む

GOTOトラベルの政策評価のための参考書 『震災復興 欺瞞の構造』2012年 原田泰 新潮文庫

いずれ、コロナ対策としてのGOTOトラベル等の観光政策の評価が必要になると思い、災害対策等の先例を

記事を読む

no image

国際連盟における中華民国代表顧維欽の演説(人流論) 渡辺銕蔵が戦争調査会で繰り広げる際に引用

満州には日本人はわずかしか入っていない。 朝鮮から日本に入った方が多いくらいだ。 なぜ

記事を読む

『庶民と旅の歴史』新城常三著

新城 常三(1911年4月21日- 1996年8月6日)は、日本の歴史学者。交通史を専門とした。1

記事を読む

no image

『動物の解放』ピーターシンガー著、戸田清訳

工場式畜産 と殺工場 https://www.nicovideo.jp/watch

記事を読む

no image

運輸省(航空局監理部長)VS東亜国内航空(田中勇)のエピソード等

https://www.youtube.com/watch?v=flZz_Li7om8

記事を読む

PAGE TOP ↑