*

ヘンリーSストークス『英国人記者からみた連合国先勝史観の虚妄』2013年祥伝社

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 出版・講義資料, 歴史認識

2016年10月19,20日に、父親の遺骨を浄土真宗高田派の総本山専修寺(せんじゅじ)に納骨をするため、山代の妹夫婦のところに行き、一晩厄介になり、翌日一緒に車で三重の一身田まで向かった。往復の道中に読む本を港区図書館で借りた。本書は、その時に借りた一冊であり、感想をブログに残しておいたので、手を加えて投稿する。

著者は1938年英国生まれ1961年オックスフォード大学卒の者で、日本人と結婚している。その著書の中に、ファイナンシャルタイムズ東京支局長で赴任してきた際、外務省報道課長が銀座のバーに案内をしてくれて、店の女の子をテイクアウトするように盛んにすすめられたこと、ホテルオークラの部屋に帰ったら、見たこともない女性が待っていたことを記述している(p.80)。オリンピックあたりからこの習慣もなくなったと記述している。買春防止法が制定されたからとあるが、同法制定は昭和31年であるから、少し混乱しているのであろう。

その延長上で、従軍慰安婦問題について、日本だけではないという視点で話を展開している。もちろん日本だけではなく、韓国での経験も紹介してバランスを取り、米軍もいかに兵士の性処理に心を砕いていたかを記述している。この話は、従軍慰安婦に代表される戦争と性の問題は、日本だけの問題ではないということで、韓国に反論することは、英国人であればできるところが面白い。日本軍がインドネシアでオランダ女性を従軍慰安婦にした問題もあり、全体としてこの話を日本人が否定をすると、火に油となってしまうのであろう。

南京大虐殺については、蒋介石国民党の欧米マスコミへの広報戦略が大成功した面を取り上げて、ほぼ完全否定している。日本国粋主義者が涙を流して喜びそうな話である。蒋介石に倣い、ゼレンスキー大統領も今その努力をしている最中である。 さて、戦時においての兵士の行為は、平時の感覚で論じることはできないと思っている。日本軍のほうが規律が良かったのかは、比較のしようがなく、国民党兵士の評判の悪さも、台湾では語り継がれている。そのことは50年前に台湾を旅行して肌で感じた。このことは、東京裁判の公式評価にもつながってしまう問題であり、歴史問題ではなく、政治問題である。父親の手記(『両忘』)にも日本軍の虐殺のことは記述されているから、戦地において虐殺行為が全くなかったわけではないであろう。今だって中東で米軍が誤爆をして死亡者が出ているくらいである。勝者が敗者を裁く点について、勝者の立場から反対してくれるのは、東京裁判否定論者からするとありがたい話であろう。著者の原体験に、英国での米軍兵士のことがこの本に書かれているから、手放しでアメリカを評価していないことは推察できる。東京裁判は天皇責任を否定した点で私などは日本の国粋主義者は足を向けて寝てはいけないと思うのであるが、昭和天皇にシニカルな見方をする一部の人物(具体的には服部時計店の服部一郎氏)との会話を記述し、軍部の言いなりなるのは小学校教師程度の知性であったという同氏の発言を紹介する。幼児教育の重要性がわかっていない点で問題があるある発言であるが、それよりも昭和天皇の評価が低いのは、チャーチルが天皇の戦争責任を主張していたことと関係があるのかもしれない。

ユダヤ人を救った杉浦千畝氏のことに関連して、2万人のユダヤ人難民を旧満州国が受け入れるか否かの判断のさい、ハルピン特務機関長樋口少佐が入国の許可を関東軍参謀長の東条英機に求め了解を得ていることから、東条英機も評価すべきと記述している。ユダヤ人難民救済は、杉浦千畝氏以外にも多くの日本人が救済に寄与しているのであるが、その一方で多くの中国人を巻き込んであることも忘れてはいけないであろう。

関連記事

no image

保護中: 書評『脳は空より広いか』エーデルマン著 冬樹純子訳 草思社

エデルマンは、Bright Air、Brilliant Fire、Wider than the

記事を読む

no image

聴覚   空間の解像度は視覚が強く、時間の分解度は聴覚が強い。人間の脳は、より信用できる方に重きを置いて最終決定する

人間の脳は、より信用できる方に重きを置いて最終決定する 聴覚が直接情動に訴えかけるのは、大脳皮質

記事を読む

no image

人流・観光学概論修正原稿資料

◎コロナ等危機管理関係 19世紀の貧困に直面した時、自由主義経済学者は「氷のように

記事を読む

『諳厄利亜大成』に見る、観光関連字句

諳厄利亜大成はわが国初の英語辞典 1827年のものであり、tour、tourism、hotelは現

記事を読む

no image

「温度生物学」富永真琴 学士会会報2019年Ⅱ pp52-62

(観光学研究に感性アナライザー等を用いたデータを蓄積した研究が必要と主張しているが、生物学では温

記事を読む

no image

ふるまいよしこ氏の尖閣報道と観光

ふるまいよしこさんの記事は長年読ませていただいている。 大手メディアの配信する記事より、信頼できる

記事を読む

no image

『満州事変はなぜ起きたのか』筒井清忠著 中央公論新社 2015年

日米戦争=太平洋戦争はかなりの程度、日中戦争に起因し、その日中戦争はかなりの程度、満州事変に起因する

記事を読む

no image

QUORAに見る歴史認識 香港国家安全法について、多くの中国本土の人々はどのように考えているのでしょうか?

私は初めて香港に行ったとき、深セン税関の前で大声で怒鳴っている香港人たちがいて、聞き取れたのは"香

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 リーマン予想  素数

  ゲーテルの不確定性原理 https://youtu.be/hEG1cWJD

記事を読む

no image

QUORAの再掲載 南京大虐殺のあった無かった論争はどの様な証拠があれば決着がつきますか?

南京大虐殺のあった無かった論争はどの様な証拠があれば決着がつきますか?Koike Kazuki,

記事を読む

no image
ロシア旅行の前の、携帯wifi準備

https://tanakanews.com/251206rutrav

no image
ロシア旅行 田中宇

https://tanakanews.com/251205crimea

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

→もっと見る

PAGE TOP ↑