世界の運営を米国でなく中露に任せる 2023年6月7日 田中 宇
https://tanakanews.com/230607armenia.htm
5月25日、アルメニアとアゼルバイジャンの首相が、ロシアの仲裁を受けてモスクワで会談し、冷戦終結時から25年近く続いてきた両国の対立(ナゴルノカラバフ紛争など)の終結を宣言した。話し合いで紛争を解決し、国交を再開することになった。
(Armenia and Azerbaijan reveal result of peace talks)
両国はかつてソ連の一部だった。ソ連政府は、自国の分解を防ぐ策として意図的に国内の行政区分の線引きを複雑にした。その結果、ソ連崩壊後、アゼルバイジャン国内にアルメニア人が多いナゴルノカラバフが飛び地として存在したり、逆の飛び地であるナヒチェバンが存在するようになった。
そこから派生する占領問題や領土紛争が起こり、両国は冷戦後ずっと対立や戦闘を続けてきた。
(コーカサス安定化作戦)
(近現代の終わりとトルコの転換)
プーチンの仲裁でアルメニアとアゼリが和解し、コーカサスは安定しつつあるように見える。だが、ここで話は終わらない。話がまとまりそうになると出てきて壊すいつものやつ。そう、それは米国だ。米国務省がアルメニアとアゼリの和解仲裁を手がける(前からやっていたのを強化する)と言い出した。
最近まで、アルメニアとアゼリの和解交渉は6月中に結実しそうだと言われていた。だがそれは延期され、年内に結実しそう、に変わっている。米国は和平を仲裁するふりをしてアルメニアに譲歩をやめさせ、対立構造を再燃させたいのでないか。
(US to host new round of Armenia-Azerbaijan peace talks this month)
その可能性は十分ある。アルメニアは和平に対する不満を表明し始めた。これはもしかして・・・。
だがアルメニアは、いまさら米国の好戦話に乗るほど馬鹿でもないだろう。ロシアがまとめた和平の話を米国が壊して事態を逆流させるとしても、大したものになりそうもない。
むしろ、もはや米国がロシア仲裁の和解策を壊すこともできなくなった覇権衰退を示す結果になるのでないか。もちろん、米国側のマスコミは本質を何も伝えないだろうけど。
(Pashinyan dissatisfied with results of talks with Russia on Lachin corridor)
▼いまだに政権転覆策をやりたがる米国
米国は、1990年代に無茶苦茶にしたコソボ・セルビアでも、事態を悪化させる策を再展開している。米国の肝いりでセルビアから分離独立したコソボでは最近、多数派のアルバニア人が、少数派のセルビア人を再びいじめる傾向を強めている。セルビア人が抵抗運動を展開し、アルバニア人との紛争が再発している。
(Ethnic conflict in Kosovo: Cutting the Gordian Knot)
セルビアだけでなく、親露なベラルーシでも最近、政権転覆を目指す「市民」の運動が再燃している。ポーランドやリトアニアが、運動家たちを訓練してきた。
セルビアもベラルーシも、ウクライナ同様、親露政権を倒そうとする政治運動は米ネオコンが黒幕だ。
ロシアがコーカサスを停戦させて安定化している時に、米国は東欧の政権を転覆して不安定化させようとしている。
もちろん米側マスコミはこの事態を歪曲し続け、軽信的(馬鹿)な「善良なリベラル市民」たちがロシアを極悪だと怒り続ける(そんな時代遅れな人は少ないか??)。
(Lukashenko claims West is preparing coup in Belarus)
そんな中、トルコはNATOの要請を受け、停戦監視のために自国軍をコソボに派兵する。アルバニア人はトルコ帝国下で改宗したイスラム教徒で、文化的にトルコ人と近い。
だからトルコ軍が行くのだと言っているが、トルコはNATO内で唯一の親露国だ。米国や西欧の軍隊がNATO軍として行くよりも、トルコ軍ははるかに公正な対応をする。
今後はトルコがアルバニア人の代理、ロシアがセルビア人の代理をやってコソボ紛争を解決していく。
米国と傀儡の欧州は傍観するだけになる。米国勢がいない方が国際紛争がうまく解決することが、ここでも示されていく。(マスコミは歪曲するけど)
すでに米国覇権がほぼ撤退した中東では、中国がサウジとイランの和解を仲裁し、ペルシャ湾岸地域を安定させた。中国は、米国が誘発したイエメン戦争も終わらせた。
イランとサウジは、UAEやイラクなど地域のアラブ諸国も入れた海軍どうしの協力体制を新設し、ペルシャ湾岸地域を共同で防衛しようとしている。米国が入れる余地が急速になくなっている。
米国は70年以上中東にいたが、事態はずっと不安定だった。米国が中東を不安定にしていた。
ところが中国が入ってきたら事態が急に安定した。世界の運営は米国でなく中国に任せるべきだろう。
イスラエルにとっても、米国より中露が中東の覇権国になった方が状況が改善する。
(Iran Says It Will Form Naval Alliance With Gulf Arab States)
コーカサスやバルカンでも、米国は事態を不安定にするばかりだった。だが、米覇権が低下してロシアとトルコが担当するようになると、事態は安定に向かう。
ロシアと中国は密接に連絡しあっている。米国よりも、中露の方がはるかにうまく世界を安定させている。「それは違う」と思った人はマスコミ歪曲報道の軽信者である。
世界の運営は米国でなく中露に任せるべきだ。べきだというよりも、すでにそれが現実になっている。世界の運営は、米国でなく中露(やその他の非米諸国)が手がけるようになった。
米国はいじわるを試みて失敗するだけだ。世界はすでに多極型になっている。
欧州や日本は米国傀儡から足抜けを許されない。しかし、東京にNATO事務所を作ってNATOと日本に中国敵視を強めさせようとする米国の案は、フランスのマクロン大統領が反対したので潰れた。NATOの決定は全会一致が必要なので、仏大統領の表明は拒否権の発動を意味する。
日本政府は内心ほっとしているだろう。そういう機微がわからない、わかっていても伝えないマスコミは日本を自滅させる。早く潰れた方が良い。
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