*

「世界最終戦論」石原莞爾

公開日: : 最終更新日:2023/05/28 出版・講義資料

石原莞爾の『世界最終戦論』が含まれている『戦略論体系⑩石原莞爾』を港区図書館で借りて読んだ。同書の存在は多くの人が知っていると思うが、実際に読んだ人は多くないのであろう。コロナで時間もあり、読んでみることにしたが、正直言って宗教的な部分も多く、また論文と言えるものでもなく、内容よりもはやり石原莞爾という人物の著作であるということが同書を有名にしているのであろう。しかし、AMAZONのカスタマー書評の投稿はゼロであるからほとんど読者はいなくなっているのであろう。戦争史が大観されている記述は、素人の私には新鮮であったが、おそらく専門家には極めて教科書的なものなのであろう。例えば、フランス革命では兵器の進歩はなく、傭兵から徴兵という社会の変化が、持久戦から決戦戦争になったこと、ナポレオンの軍事的才能は年とともに発達したが、相手もそれを覚えてしまったことが記述されているが、その分野では当時から常識だったのであろう。1940年のドイツの快進撃である「第二次欧州大戦」に関する記述を読んでいると、その名称を含め他人事のように書かれており、石原莞爾クラスの意識でもまだ日本が本格的に巻き込まれていないことが実感できる。その決戦スタイルが今日の戦争の本質ではないという結論を述べているが、そのこともほぼ常識であったと思われるが、それだけになぜ真珠湾攻撃をしたのか理解に苦しむのである。戦闘群の指揮単位が時代を追い、大隊、中隊、小隊、分隊と次第に小さくなり、最後は個人、即ち国民と記述する。従って総力戦になるとする。石原莞爾は成層圏での決戦までは予測し、その先は4次元でわからないとするが、現代は個人を超えて、ロボットとヴァーチャルに近くなっている。極限まで行くと、戦争はなくなるが、闘争心はなくならないので、国家単位の対立がなくなるという。すなわち、世界最終決戦戦争のあと人口は半減するものの、持てる国と持たざる国が一つになるという。戦争の発達の極限が戦争を不可能にするというのは、キューバ危機を経験した現代人には理解しやすい。戦国時代を統一したのは兵器の進歩の結果だとする点もわかりやすい。兵器が使えないから、はなはだ迂遠な方法であるが言論戦で選挙を戦っているともいう。この点は現代の国際社会を考えると、米国軍事力が不十分で、言論戦ではないということが理解できる。石原は核兵器的なものを予想していたようであるが、その破壊力や放射能被害を創造する段階までには至っていない。当然でもあり、米国はビキニ環礁で島民に死の灰を降らせたわけである。明治維新後民族国家を形成するため他民族を軽視する傾向が強かったと記述し、シナ事変に否定的であるが、満州事変がシナ事変の引き金になっていることを思えば、素直に同意もしにくい。最終決戦は、ロシア、ドイツ、アメリカ、日本とするが、現代の常識では、アメリカと中国、あるいはインドが参加するということなのであろう。石原は、最終決戦がいつ来るかは、占いのようなものというものの、30年を想定している。決戦のため、日本は昭和維新を断行し、そのための国策の重要課題は東亜連盟結成と生産力の大拡充とする。東亜連盟は、明治維新の廃藩置県のように、民族協和であり、満州国建国の精神とする。日本国は盟主ではないが、天皇は盟主であると記述する。天皇否定をすることができないであろうから、このような記述になったのかもしれないが、英国植民地の独立後、英連邦の各国が元首にエリザベス女王にいただいたことを思うと、先見の明があったのかもしれない。産業大革命については、あらゆるものが容易に生産できる第二次産業革命が起きているとする。当時でもその感覚があったのであるから、今日から将来を想定すると、モノの生産は問題ではなくなるのかもしれない。石原はこの後、宗教論を展開するが、私の理解を超えており、割愛した。

関連記事

『枕草子つづれ織り 清少納言奮闘す』土方洋一   紙が貴重な時代は、日記ではなく公文書

団塊の世代が義務教育時代に学修したことの一部が、その後の研究により覆されている。シジュウカラが言

記事を読む

no image

倉山満著『お役所仕事の大東亜戦争』1941年12月8日『枢密院会議筆記』真珠湾攻撃後に、対米英宣戦布告の事後採決

海軍が真珠湾攻撃のことを東条に伝えたのは直前のこと 倉山満著『お役所仕事の大東亜戦争』p.2

記事を読む

 『シュリューマン旅行記』 清国・日本 日本人の宗教観

『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳  シュリューマンは1865年世界漫遊の旅に出か

記事を読む

GOTOトラベルの政策評価のための参考書 『震災復興 欺瞞の構造』2012年 原田泰 新潮文庫

いずれ、コロナ対策としてのGOTOトラベル等の観光政策の評価が必要になると思い、災害対策等の先例を

記事を読む

『初期仏教』 馬場紀寿著

初期仏教は全能の神を否定 神々も迷える存在であるので、祈りの対象とならない

記事を読む

no image

『日本経済の歴史』第2巻第1章労働と人口 移動の自由と技能の形成 を読んで メモ

面白いと思ったところを箇条書きする p.33 「幕府が鎖国政策によって欧米列強の干渉を回避した

記事を読む

角川文庫『ペリー提督日本遠征記』(Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China Seas and Japan)

https://youtu.be/Orb9x7NCz_k https:

記事を読む

『諳厄利亜大成』に見る、観光関連字句

諳厄利亜大成はわが国初の英語辞典 1827年のものであり、tour、tourism、hotelは現

記事を読む

no image

Quora 微分方程式とはなんですか?への回答 素人の私にもわかりやすかった

微分方程式とは、未来を予言するという人類の夢である占い術の一つであり、その中でも最も信頼のおける占

記事を読む

no image

ウェストファリア神話

国際観光を論じる際に、文科省からしつこく、「国際」観光とは何かと問われたことを契機に、国際について

記事を読む

PAGE TOP ↑