*

『2050年のメディア』下山進

公開日: : 最終更新日:2021/08/05 出版・講義資料

日本の新聞がこの10年で1000万部の部数を失っていることを知り、2018年4月より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として、講座『2050年のメディア』を立ち上げた下山進氏による。Amazonの書評には「タイトルで気になって買いましたが、お世辞にも良い本とは言えません。まったく2050年が語られておらず、釣りタイトルとも言えるかもしれません。過去の歴史を辿っているだけで発見はほぼありませんでした」と厳しいものもあるが、その歴史も、読売を中心に、ヤフーが対立軸で、日経が補足的に登場している点で、朝日が出てこないところが面白い。私なりにメモする。まず読売の渡邉恒雄氏の大学合同説明会での「朝日を読むなら赤旗を読め」という言葉を紹介しているところで、学生どころか私まで驚かされてしまった。次に北区の新聞販売店主が学校の現場に入って日本の民主主義を支えてきた新聞を手に取ってもらうための活動をすると、「新聞の切り抜きの授業はできません」と2008年に言われたエピソードが出てくる。運輸省の広報室勤務時代、職員が毎朝、新聞の切り抜きを作っていたことを思い出し、どうなっているのかと思わされた。以下、読売、ヤフー、日経のデジタル化と人事の話を、エピソードを交えながら時代順に期日されている。デジタル販売と紙販売のウェイトの置き方がテーマになるが、ヤマトが三越の百貨店貨物輸送を切り捨てて宅急便に乗り出したことを思い出した。後から振り返れば当然の判断であっても、その時点でのステークホールだーの意向を抑えて乗り出すには、相当のリーダーシップがいる。読売新聞の拡販の武器はジャイアンツ戦の切符であったが、アメリカの銀行のそれはトースターであることも記述され、面白かった。アメリカの新聞の危機は日本より10年早く訪れていた。ニューヨークタイムズのことが紹介されているが、Uberの調査に行ったさいに、同社を訪問したことを思い出す。すでにデジタル化にかじを切った後であったが。デジタル部門で働く人の将来のキャリアパスがないということが最大の不満であり、問題であった。この問題点を「タイムズ・イノベーションレポート」で指摘され、機構改革が行われている。下山氏の作成したグラフをみれば、2011年を境に広告料収入より購読料収入が増加している。ページヴューにとらわれないで購読者数を増加させたのである。バズフィード等無料広告モデルは、FacebookやGoogleに負けてしまうのである。私が広報室勤務の時代は、朝刊の締め切り時間が朝の2時。ギリギリまで記者さんは取材をしていたから、家庭崩壊も珍しくなかった。朝日出身の細川総理はそれを狙って夜中に会見を行っっていた。コメの開放もその一例である。しかし、電子版が普及し、順次ネットに掲載されるようになると、新聞社も夜には人がいなくなっているようだ。デジタル化とグローバル化。ヤフージャパンは米国ヤフーとの関係でグローバル化ができなかったが、そのくびきが解かれたと最後に記述。しかし、メディアのグローバル化は、英語、中国語の世界もあり、私には想像もつかない。

関連記事

no image

Quora Ryotaro Kaga·2019年8月1日Sunway University在学中 (卒業予定年: 2024年)なぜこんなに沢山の日本人女性が未婚なのですか?

Ryotaro Kaga·2019年8月1日Sunway University在学中 (

記事を読む

no image

『コロナ危機が浮き彫りにした日本の統治機構とその弱点』読書メモ 竹中治堅・手塚洋輔 公研no.695 2021.7

首相の権限は強くない例 安倍首相2020年4月6日にコロナ患者用の病床を5万床にすると発言、しかし

記事を読む

「世界最終戦論」石原莞爾

石原莞爾の『世界最終戦論』が含まれている『戦略論体系⑩石原莞爾』を港区図書館で借りて読んだ。同書の

記事を読む

no image

『芸術を創る脳』酒井邦嘉著

メモ  P29 言葉よりも指揮棒を振ることがより直接的  P36 レナードバースタイン 母校ハー

記事を読む

人口減少の掛け声に対する違和感と 西田正規著『人類史のなかの定住革命』めも

多くの田舎が人口減少を唱える。本気で心配しているかは別として、政治問題にしている。しかし、人口減少と

記事を読む

no image

1932年12月16日『白木屋の大火始末記』

関東大震災の始末が終了したころ 地下三階地上七階建てデパートの4階から出火 クリスマスツリーの豆電

記事を読む

no image

日本人の北朝鮮観光

他事考慮での観光交流の中断 日本人観光客の北朝鮮訪問数の増加は、両国観光関係者にとっては利害が一致

記事を読む

保護中: 『植物は未来を知っている』ステファノ・マンクーゾ  、動物が必要な栄養を見つけるために「移動」することを選択。他方、植物は動かないことを選び、生存に必要なエネルギーを太陽から手に入れるこにしました。それでは、動かない植物のその適応力を少しピックアップ

『植物は<未来>を知っている――9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』(ステファノ・マンクーゾ著、

記事を読む

『サイボーグ化する動物たち 生命の操作は人類に何をもたらすか』作者:エミリー・アンテス 翻訳:西田美緒子 白揚社

DNAの塩基配列が読破されても、その配列の持つ意味が分からなければ解読したことにはならない。本書の冒

記事を読む

no image

『AI言論』西垣通 神の支配と人間の自由

人間を超越する知性  宇宙的英知を持つ機械など人間に作れるか 人間は20万年くらい前に生物進

記事を読む

PAGE TOP ↑