旅行業法と道路運送法等の関係について 東京交通新聞2021年5月17日
公開日:
:
最終更新日:2023/05/28
ライドシェア, 東京交通新聞投稿原稿
5月17日
特別寄稿=人流・観光研究所所長、寺前秀一氏、「公共交通運賃とパック料金の関係を理解するには」※写真有・図表有□仁平
■パッケージツアー代金の不思議
食堂で定食メニューを注文すれば、同じ内容のものを単品で組み合わせて注文するより、割安な料金であることが一般的である。パッケージツアー(企画旅行)の代金も同様で、利用者からの支持を得て普及してきた。自由に価格が決められる食堂の料金と異なり、新幹線、航空などは約款や運賃・料金について各運送事業法の規制がある。政府登録ホテル・旅館の宿泊料金は事前届出制である。従って、パッケージツアー代金に規制・制度の適用があるとなると、自由に料金が決められないはずである。
しかし、運賃法定の国鉄時代から、それには拘束されない様々な商品が販売されている。ましてや、Uber(ウーバー)や自家用運送、コンドミニアム(自家用分譲マンション)を活用した海外旅行のパックについては、様々な海外の価格規制をすべて受けると解釈すると、説明が不可能に近くなる。いわゆる「MaaS」(マース=モビリティ・アズ・ア・サービス、移動サービスの連携・統合)の料金などは、すでに制度的に準備されていると解釈できるのである。
商品を販売すれば、販売する責任が発生する。旅行サービス商品についても、自社ブランドとして販売すれば、そのサービスを実現する責任が標準約款上、発生する。特別補償責任も負うこととなる。パッケージツアーは、旅行業者が自社ブランドとして自分で値段を決めて販売するものである。移動や宿泊に関する規制料金とは異なったものとして、自己の計算により包括代金(パック商品代金)で販売するものと考えることが素直である。
■デジタル化に対応した商品開発
各運送事業法や国際観光ホテル整備法は、利用者保護を目的としたBtoC(消費者向け)の関係を律する法律である。BtoB(企業間取引)の関係を直接は想定していない。パッケージツアーの場合、実利用者・運送機関、旅行業者・実運送機関、実利用者・旅行業者間の三つの関係に対して、同時に事業法などの規制がかかるとなると、全体としての合理的な説明に苦労することとなる。しかも旅行業法は、実体はないものの、旅行業者が実運送機関、実宿泊機関を下請け機関として活用する、利用運送、利用宿泊形態も規定しており、なおさら制度的な理解を難しくしている。
このため、鉄道行政では、運送規制はBtoBには適用がないとする運用がなされてきた。これに対して航空行政では、航空運賃自由化までは、包括運賃割引制度の存在に象徴されるように適用を前提とした運用がなされてきた。道路運送法(バス、タクシー)に関しては包括運賃割引制度がなく、歴史的に鉄道法制の影響を受けていることから、適用はないと考えるほうが素直である。しかし、料金規制のみならず、安全規制を含めて全体を合理的に説明することが、立法措置も含めて法治国家として求められるものである。
各運送事業法は沿革的理由もあり、思想的に利用者の平等取り扱いを原則としている。パッケージツアーを販売する企画旅行業者にのみ有利な条件を提示できる制度的担保規定もなく、旅行業法と調和していない。その原因は、パッケージツアーの概念が法的に未成熟なまま制度に取り込まれてきたからである。パック商品代金がわが国の規制緩和を促進したことは、社会的に評価を受けている。これからも様々な工夫が期待され、内外を問わず、運送機関、宿泊機関などと旅行業との関係の総合的な検討が必要なのである。
標準約款制度は特に海外旅行などの消費者保護には寄与してきたが、創意工夫を身上とする観光商品にはそぐわない面もある。国際物流は、巨大利用運送業者の「NVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier、非船舶運航業者)」とともに発展してきている。請負責任を回避してきた巨大人流プラットフォーマーの位置づけも見直されてきており、日本の観光人流産業も、変化の激しいデジタル化に対応して、利用運送、利用宿泊を具現化した商品開発を行わないと、旅行アプリ、配車アプリなどの海外プラットフォーマーに席巻される恐れがある。そのためにも、旅行業法の公的解釈の明確化が望まれる。
■質問主意書による疑義の解決
国会議員は国会開会中、議長を経由して内閣に対し、文書で質問することができる。この文書を「質問主意書」と言い、内閣からの答弁は原則として文書をもってなされ、これを「答弁書」と言う。答弁書は、各府省などで案文を作成し、内閣法制局の審査を経て閣議決定された後、議長に提出される。国会のホームページでも閲覧できる。
旅行業と各運送法との関係について、議員が質問主意書を提出すれば、単なる旅行業や鉄道、航空、タクシー、ホテルなどの所管部局だけではなく、厚生労働省、消費者庁などとの協議の上、内閣法制局の審査を受けて回答がなされるから、法的問題はきちんと整理される。
なお、テレビなどで報道される予算委員会などでの質疑は、その内容が議題による制約を受ける。質問主意書は国政全般について内閣の見解を求めることができる。また、議員1人でも提出できるので、所属会派の議員数などによる制約もない。大いに活用されることが望まれる。 @@@@
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