東京交通新聞 2021年5月投稿原稿 タクシー運賃等とパック料金の関係を理解するには
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最終更新日:2023/05/20
ライドシェア, 東京交通新聞投稿原稿
特別寄稿 タクシー運賃等とパック料金の関係を理解するには
㈱システムオリジン 人流・観光研究所長 寺前秀一(観光学博士)
◎パッケージ・ツアー代金の不思議
食堂で定食メニューを注文すれば、同じ内容のものを単品で組み合わせて注文するより割安な料金であることが一般的である。パッケージ・ツアー代金も同様であり、利用者からの支持を得て普及してきた。しかし自由に価格が決められる食堂の料金と異なり、新幹線、航空等は約款や運賃・料金について各運送事業法の規制がある。政府登録ホテル・旅館の宿泊料金は事前届出制である。従ってパッケージ・ツアー代金に規制制度の適用があるとなると、自由に料金が決められないはずである。しかし、運賃法定の国鉄時代から、それには拘束されない様々な商品が販売されている。ましてやUberや自家用運送、コンドミニアムを活用した海外旅行のパックについては、様々な海外の価格規制をすべて受けると解釈すると、説明が不可能に近くなる。このことの制度的説明に興味が持たれ、いわゆるMaas料金などはすでに制度的に準備されていると解釈できるのである。
商品を販売すれば、販売する責任が発生する。旅行サービス商品についても、自社ブランドとして販売すれば、そのサービスを実現する責任が標準約款上発生する。特別補償責任も負うこととなる。パッケージ・ツアーは、旅行業者が自社ブランドとして自分で値段を決めて販売するものである。移動や宿泊に関する規制料金とは異なったものとして、自己の計算により包括代金(パック商品代金)で販売するものと考えることが素直である。
◎デジタル化に対応した商品開発
各運送事業法や国際観光ホテル整備法は、利用者保護を目的としたB2C(Business to Consumer)の関係を律する法律である。B2B(Business to business)の関係を直接は想定していない。従って、パッケージ・ツアーの場合、実利用者・運送機関、旅行業者・実運送機関、実利用者・旅行業者間の三つの関係に対して、同時に事業法等の規制がかかるとなると、全体としての合理的な説明に苦労することとなる。しかも旅行業法は、実体はないものの、旅行業者が実運送機関、実宿泊機関を下請け機関として活用する、利用運送、利用宿泊形態も規定しており、なおさら制度的な理解を難しくしている。このため、鉄道行政では運送規制はB2Bには適用がないとする運用がなされてきた。これに対して航空行政では航空運賃自由化までは、包括運賃割引制度の存在に象徴されるように、適用を前提とした運用がなされてきた。道路運送法(バス、タクシー)に関しては包括運賃割引制度がなく、歴史的に鉄道法制の影響を受けているとことから適用はないと考える方が素直である。しかし、料金規制のみならず安全規制を含めて全体を合理的に説明することが立法措置も含めて法治国家として求められるものである。
各運送事業法は沿革的理由もあり、思想的に利用者の平等取り扱いを原則としている。パッケージ・ツアーを販売する企画旅行業者にのみ有利な条件を提示出来る制度的担保規定もなく、旅行業法と調和していない。その原因は、パッケージ・ツアー(現在の名称は企画旅行)概念が法的に未成熟なまま制度に取り込まれてきたからである。しかしパック商品代金が我が国の規制緩和を促進したことは社会的に評価を受けている。これからも様々な工夫が期待され、内外を問わず、運送機関、宿泊機関等と旅行業との関係の総合的な検討が必要なのである。
標準約款制度は、特に海外旅行等の消費者保護には寄与してきたが、創意工夫を身上とする観光商品にはそぐわない面もある。国際物流は巨大利用運送業者のNVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier)とともに発展してきている。請負責任を回避してきた巨大人流プラットフォーマーの位置づけも見直されてきており、日本の観光人流産業も、変化の激しいデジタル化に対応して、利用運送、利用宿泊を具現化した商品開発を行わないと、旅行アプリ、配車アプリ等の海外プラットフォーマーに席巻される恐れがある。そのためにも、旅行業法の公的解釈の明確化が望まれる。
◎ 質問主意書による疑義の解決
国会議員は、国会開会中、議長を経由して内閣に対し文書で質問することができる。この文書を「質問主意書」と言い、内閣からの答弁は、原則として文書をもってなされ、これを「答弁書」と言う。答弁書は、各府省等で案文を作成し、内閣法制局の審査を経て閣議決定された後、議長に提出される。国会のHPでも閲覧できる。
旅行業と各運送法との関係について、議員が質問主意書を提出すれば、単なる旅行業や鉄道、航空、タクシー、ホテル等の所管部局だけではなく、厚生労働省、消費者庁等との協議の上、内閣法制局の審査を受けて回答がなされるから、法的問題はきちんと整理される。
なお、テレビ等で報道される予算委員会等での質疑は、その内容が議題による制約を受ける。これに対し質問主意書は、国政全般について内閣の見解を求めることができる。また、議員一人でも提出することができるので、所属会派の議員数等による制約もない。大いに活用されることが望まれる。

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