シニアバックパッカーの旅 ロンドン配車アプリ調査② 前提となる予備知識とロンドンの配車アプリビジネス事情どう
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最終更新日:2023/05/26
シニアバックパッカーの旅, ライドシェア, 配車アプリ
○日本との違い
ロンドンのタクシー制度は日本と根本的に2点異なることを理解しておく必要がある。ロンドン市内を旅していると、ブラックキャブが目につくはず。これは流し営業がブラックキャブにしか認められていないことと、ミニキャブに代表されるPHV(Private Hired Vehicles)が予約配車を前提とした自家用車(公共交通として認識されていない意味)であり、外形的に区別されるのもではないところにある。
① 流し営業(street-hiring)
まず、taxiとは「流し営業」ができるものをいい、しかも日本でいえば個人タクシーの形態にしか実質認められていないものである。通称「ブラックキャブ」と呼ばれるものである。従って日本のようなタクシー会社への事業許可ではなく、運転するドライバーの資格が重要となる。東京ハイヤータクシー協会のレポートに資格試験制度のことが詳しく報告されているように、50ケ月もかけ、一万余も存在するロンドン市内の街路を肌で記憶していないと資格が得られない厳しい参入障壁となっている。
当然今後は位置情報革命により、スマホのナビを活用すれば、ドライバーに求められる資質も変化する。今回の訪問中に、貴族院議員Lord Borwick氏から、院内での意見交換会の席上、ニューヨークのタクシー運転手の資格試験から地理試験が排除されることが決定したとの情報を得た。これまでロンドンでは、地理試験にチャレンジし勉強する姿勢がドライバーの質の向上に役立ち、50年間ノレッジでうまくやってきたが、いずれニューヨークと同じように地理実技試験はなくなるであろうとの見解であった。同氏によれば、ロンドンはニューヨークのようなメダリオンの発想(数量規制)はないが、ブラックキャブ運転手の地理試験が実質量的規制として機能していたことから、地理試験に代わるもの(身障者対応技術等)により、量的コントロールを考えなければならないとのことであった。同氏からはロンドン交通局がタクシーを監督する以前は、ロンドン警視庁が監督官庁であったとの情報を得た。なお、このタクシーシステムは税金を投入せず機能させている効率的なシステムであるとの同氏の見解を聞き、内航海運の船腹調整制度の廃止が問題となっている時に日本でも同じ発想をする人がいたことを思い出した。
② 自家用車の有償運送
ロンドンのタクシー事情の、日本と異なる大きな違いの二点目は、自家用車の有償運送が発達していることである。ブラックキャブにしか流し営業が認められず、利用者ニーズに対応できなかったのであろうか、交通事情の進展とともに、法的に許容された範囲でMinicabと俗称される自家用運送形態が発展してきた。この点は私の推測であるが、ロンドン交通法でPHVの範疇で取り扱っているものは、日本では貸切バスに対応するものなのであろう。小型の貸切バスを予約により配車すればタクシーと同じ機能を持つことは自明の理であろう。日本でも車庫待ちの形態をハイヤーと呼ぶのは英語の影響であろう。大阪の阪急タクシーが乗合タクシーを日本で最初に実施した時も、道路運送法の抜け穴を活用して貸切バスの乗合許可制度を活用したが、この点はロンドンのミニキャブ発生も同じ法の抜け穴を活用した施策のようである。その後、ミニキャブの運転手による暴行事件等治安問題等が発生し、PHV法(Private Hired Vehicles Act)が制定されることとなったが、自家用の概念は変化しなかったようである(というよりも公共交通とはみなされなかったのであろう)。このPHVのドライバーもブラックキャブの運転手と同様、個人事業主である。日本には厳密にはこのような形態は存在しないが、他業種であれば、保険の外交員、ヤクルトレディ等が該当するのであろう。PHVは流しができないことから、乗車前に出発地・目的地の料金が決定されていることが、ブラックキャブのタクシーと大きく異なる点であるものの、ロンドンにおける車両数はブラックキャブの2倍を超えるものとなっており、スマホの普及と位置情報革命は、ブラックキャブの流し営業ができることのニミキャブに対する優位性を徐々に喪失させると予想されるものである。
○ ロンドンの配車アプリビジネス事情
今回の調査は外国人観光客獲得に資する配車アプリの日本における導入を検討することが主眼である。訪問したHailo、Addison Leeは明確に国際戦略を立てており、ロンドンの配車ビジネスといったローカルな範囲だけを考えておらず、それだけに投資家も配車ビジネス企業を買収してくるのであろう。車の配車アプリの世界趨勢は、Googleを始め投資家の関心対象となっており、当然タクシーに限定されるものではない。バス、自家用車などに広がるものである。東京等のタクシービジネスが守りの姿勢を貫き、国際進出などを考えないことも一つの企業戦略なのであろうが、国際観光客が当たり前のように、クレジットカードシステムを利用し、スマホによる位置情報システムを活用した旅行を行うようになったときに、日本のタクシービジネスだけが日本流のモデルにこだわっていてはガラパゴス化してしまうのではないかとの危惧を抱いてしまった。
ロンドンの配車アプリの勢力図は大きく、ブラックキャブを主力対象にしたHailo、PHVのうち、企業向のB2Bを主力(自家用車はアプリ会社が保有、運転手は労働力を提供)にしたAddison Lee、PHVのうち、運転手の車を活用し一般客を対象にしたB2Cを主力のUberに大別できる。Addison LeeはUberの進出でB2CよりもB2Bを主力にする戦略に変えたようである(アルゴリズムもB2B優先としている)。その一方でスマホ配車システムの進化は企業向け配車商品の開発を促進しているようであり、Hailo等も開発中である。
いずれにしろ配車システムの根幹はドライバー獲得がかなめであり、ドライバーにとって魅力的な条件提示が配車アプリの競争力となる。その一方で利用者の獲得にも魅力的な運賃設定が重要であり、この矛盾する命題を優れたアルゴリズムやビジネスモデルを進化させることで配車アプリは競争しているといえる。なお、ドライバーの評価は、配車アプリでは、利用者の評価をスマホで手軽に入力できるようになっている。
ドライバーの収入をヒアリングすると、ブラックキャブに限らずミニキャブも比較的高収入であり、経済規制しなくても、日本より待遇がよいのは、日本のビジネスモデルに改良の余地があるのではないかとの疑問を感じてしまった。将棋の内藤九段が文芸春秋で、村田英雄の「大将」がヒットしたときに、坂田三吉はそんなに貧しくなかったのに、将棋指しは貧乏だとの印象が広まってしまい、若い将棋指しが入ってこなくなったことを記述しているが、今日、日本のタクシー業界もその点は反省すべきではないかと思う。
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