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デジタル化と人流観光(ジャパンナウ観光情報協会原稿)

ジャパンナウ3月号1400字原稿 デジタル化と人流・観光(1)

通信の秘密が大日本帝国憲法及び日本国憲法に規定されていることもあり、長らく電気通信事業は逓信省、運輸通信省、日本電信電話公社による国家独占事業であった。その後、大型コンピュータの共同使用等の必要性から、国鉄のみどりの窓口に代表されるデータ通信サービスの進展とともに、電気通信回線の開放が段階的に行われることとなった。ヤマト運輸は、単純なメッセージスィッチングを行わない場合に認められた第一次通信回線の開放時から、郵政省の電気通信の実験事業に参加し、宅急便事業の高度化に備えていた。大手旅行会社、民鉄も国鉄との間の通信設備の端末利用が可能となっていた。旧運輸省の場合は、国鉄の鉄道電話を省内間通信に使用すること(乙・乙通信)が黙認されていた。1970年代半ば、筆者が鉄道監督局在職時に、国鉄の鐡道電話回線に運輸省のファックス設備をつなげる策を郵政省に相談したところ、一般公衆回線でもまだファックスが普及していなかったこともあり、黙認はできないといわれたことを思い出す。なお、ヤマトは宅急便と同時に、ヤマトブックサービスも始めていた。Amazonに先立つこと15年以上前のことであったが、日本の書籍販売業界の旧来のビジネスモデルの壁が厚かったのか、大きくは成長せず、逆に日本社会はアマゾンに席巻されてしまったようである。現在、AmazonのKindleサービスは、廉価な個人出版事業まで手掛けているから、再販価格維持による出版文化の保護以上に、出版文化に貢献している。筆者の『人流・観光学概論』は定価一ドルで出版でき、恩恵にあずかっている。書籍コードの登録も不必要で簡便である。駅ターミナル周辺に集積している書店も、自宅のパソコンやテレビスクリーンから書籍ホッピングができる日もそれほど遠くないとすれば、消滅するであろう。「売らんかな」の活字が躍る消耗品的書籍類の社会的存在意義も早晩なくなるのであろう。

国鉄民営化、郵政民営化に先立ち、電気通信事業の民営化が実施された。電気通信事業法の法案作成時、筆者は同法案に関する運輸省での法令協議の窓口をしていた。民間開放される情報行政に関する郵政・通産省での所管論議の中で、運輸に関する情報行政は運輸省所管であることを制度上確認することが最重要事項であった。旅行業や交通運輸業の将来も情報産業への脱皮にかかっていると思ったからである。また、通信技術者は電電公社に次いで国鉄(鉄道通信)に多く存在したのであり、国鉄分割民営化時にも、鉄道通信会社(のちの日本テレコム、現在のソフトバンク)が設立された事情もこのことによる。

郵政省と運輸省の行政幹部の打ち合わせのなかで、当時争点となっていた情報処理と通信処理の概念について、通信処理は郵政省所管行政とし、運輸に関する情報処理は運輸省所管行政とする合意を行ったのであるが、旧通産省は、通信処理と情報処理の概念区分を認めない対応であった。といって、当時の通産行政において、特許(ソフトウェア)行政よりも情報処理機器製造産業行政にウェイトのあった時代であり、コンピュータソフトウェアの具体的な行政は、その後著作権法の体系の中で取り扱われることとなった。

第二次通信回線の開放時のはやり言葉がVAN(value added network)である。運輸省も観念的な所管問題は主張できたが、国鉄やヤマト運輸のような会社を除き、実体を伴わないものであり、旅客運送業界や観光業界の関心の低さにはがっかりしたものである。当時の数量規制を前提とする運輸規制産業においては、保有する物理的設備に関する関心が高く、行政の関心もそちらに目が向いてしまう。現場の運輸行政も運行情報等を提出させるだけにとどまり、その情報を利用者に還元する発想が全くなかった。辛うじて全国の運行情報を一冊の本に集約するJTBの時刻表が存在し、その印刷が大手印刷会社の電算写植で行われるようになっていたから、今日のyahoo等のサービスが提供できる力は保有していたのであるが、JTBからのビジネスモデル構築の発想は生まれなかった。鉄道やバス・タクシー業等は、利用者情報を集積できる立場にあり、今日のGoogleのような潜在力があったのであるが、それを活用する発想を持つ人が、JR東のスイカ等を除き、経営者には極めて少なかったのである。

菅内閣の目玉がハンコ廃止とデジタル化である。中国や欧米から見れば今頃何故という感覚であろう。ハンコ廃止に先立つこと2000年当時、既にドキュメントレス化が政策課題になっていた。米国からの強い要請が発端となり、旅行業法等も対面接触が回避できるように法律改正が行われたが、これを活用したのは、後発の旅行会社であった。スマホの登場とともに、海外の人流版NVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier、詳しくは次回記述予定)に席巻されることとなってしまった。筆者が『モバイル交通革命』で提示した図にあるように、2000年頃に電子申請を推進すれば、否が応でも商品の情報化が進み、今日のデジタル後進国にはならなかったかもしれないが、地方運輸局の必要性も大きく低下したかもしれない。コロナ禍、対面接触回避が課題となっているが、その対応策は電気通信事業法の制定時から準備されていたのである。

ジャパンナウ原稿 デジタル化と人流・観光(2

人流と通信は、相乗効果、補完効果に加えて代替効果があり、通信が発達すれば、相乗・補完効果、代替効果によりその分人流が増加、減少することは、観光ガイドブックや飛脚制度を持ち出すまでもない。従って人流・観光は、デジタル化の影響を十分に考慮しなければならず、今回のコロナ禍では、これまでの観念的な議論に留まらず、現実のもとして在宅勤務、オンライン会議等が実施されている。この在宅勤務等がこれまで進展しなかった理由として、ソフト面での対応の不備が指摘されている。日本型労働慣行は非ジョブ型であり、職能給、非言語的情報伝達が特徴である。これを判例が支えてきた。これに対してジョブ型は欠員補充型であり、職務給、職務記述型が特徴である。日本型の発生原因は、高度経済成長期おける子飼いの労働者確保にあったといわれる。しかし、技術革新のスピードが短期間化し、社内教育中心の非ジョブ型の崩壊が、非正規雇用につながり、併せて残業時間のブラック化等の社会問題を引き起こしていた。そこへ今回のコロナ禍により、テレワーク等が一気に現実化したのである。その結果、労働条件の変化が認識され、労働時間、転勤等の労働の従属性、事業場概念(労働災害、サイバー空間等)の再検討が必要となってきた。

ところが、観光産業はおもてなしの強調に代表されるようにジョブ型の要素が強いものの、典型的な対面接触産業に範疇化されてきたことから、コロナによる人流の自粛等の影響を直接被ってしまったとされている。

物流概念は、利用者ニーズに対応した効率的なサービスを基本とし、ムーブレス志向の無駄な移動や在庫を排除する概念を内包する。国際物流等はデジタル技術を活用してサプライチェーンを形成し、NVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier)等が利用者に対してトータルで責任を負うことでこれまで発展してきた。

近年、人流でもデジタル化に応じてMAAS(Mobility as a service)概念が提唱されている。昔からある都市交通の共通運賃制概念の延長にあるものであるが、これを中心的に推進する体制が不備である。利用者ニーズを統合・管理する人流版NVOCCに相当する者が、旅行業法上は利用運送、利用宿泊を規定はするものの、標準約款も公示されておらず、せいぜい単発の請負責任の曖昧な企画旅行(パッケージツアー)程度である。

コロナ禍を契機として、移動しないでも様々なサービスを受けることができるムーブレスを排除しない概念を再構築する必要がある。物流概念も物を安く作って高く売るという利潤モデルに行き詰まりを見せ始めたことから進展している。無駄な消費への嫌悪感がシェリングエコノミーも生み出している。観光も、中途半端なエコツーリズム等の提唱ではなく、ムーブレスを排除しない在宅・在地娯楽を包含する人流概念に統合しなければならない。

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