ジャパンナウ予定原稿 感情と観光行動
公開日:
:
最終更新日:2023/05/29
ジャパンナウ観光情報協会
観光資源に対して観光客に移動という行動をおこさせるものが感情である。言葉を換えれば刺激であり、規範を超えて存在するから、暴力や風俗が優先してしまうことがある。感情は命を守るため生まれているから、極限状態では仕方がないのかもしれない。意識により制限するには限界があるのであろう。
脳は、我々の命が依存している無数の身体機能を調整している。そのためさまざまな身体のシステムの状態が刻一刻と表象されるマップを持っている。この命の管理にとって重要なニューラル・マップは感情と呼ばれている心的状態に対する必要な基盤である。命の管理に脳が関与することの副産物としてこの感情が発生しているのである。感情を支えている神経装置が進化の中でたくましく生き残ったのは驚くべきことであり、感情は余分なものではないのである。
進化は脳装置を情動と感情に分けて組み立てている。第一の装置である「情動」は、命に良・悪の状況に対し、創造的ではなく効率的に反応する。第ニの装置である「感情」は、注意と記憶に長く作用することにより情動の影響を引き伸ばしている。最近の研究では情動と感情には通常2秒から20秒のタイムラグがあることが分かっている。情動が先にあり、感情が後である。性欲と愛情はホルモンの研究で別のものと判明しているから、好きだからそばに寄るのでは、そばに寄ってから好きになるのである。意識で思っていることとは違うのである。
最も強い刺激である恐怖という感情を生み出すのは扁桃体である。扁桃体の活動には「こわい」という感情はどこにも入っていない。扁桃体が活動して、その情報が大脳皮質に伝えられると、そこではじめて「こわい」という感情が生まれる。動物は「こわいから逃げる」のではなく「こわい」かどうかとは無関係に扁桃体が活動したから逃げているだけである。扁桃体がなくなって「こわい」という感情が消えると本能がむき出しになる。ということは、「理性」は扁桃体によって形成されたとも解釈できる。動物には「本能」という欲求がまずあって、それを「恐怖」によってがんじがらめにした状態が「理性」ということになる。恐怖によって本能を抑えつけたのではなくて、扁桃体の神経活動によって本能を抑えつけたというべきある。扁桃体は恐怖を生み出すけれども、恐怖が理性を生み出しているのではない。観光行動研究者にとって、脳の研究動向は見逃せないものなのである。
関連記事
-
用語「観光」誕生物語 朝日新聞記事データベース「聞蔵」に見る昭和のクールジャパン報道分析
2014年10月10日にジャパンナウ観光情報教会観光立国セミナーで行った講演の議事録です。HPには使
-
奢侈禁止令とGOTOキャンペーン (ジャパンナウ原稿)
個性を重視するはずのものである観光は、本来権力とは無縁であり、権力を前提とする政策と結びついた観
-
ジャパンナウ観光情報協会原稿 日本人が海外旅行をしない理由~ハワイと沖縄と韓国比較から見えるもの~
ハワイも沖縄も島民人口は114万人であり、島外旅行客も約850万人とほぼ同数である。しかし、一人当た
-
ジャパンナウ観光情報協会原稿 2020年3月 コロナウィルスと人流規制
コロナウィルス騒動の中、旅行先のサンサルバドル空港では空港レストラン職員もマスクをしていた。入管係
-
🌍👜台湾のこと(高寛氏の講演)
台湾協会の理事高寛氏の話を聞いた。元三井物産台湾支店長を務めた方である。若い頃、中国語を教えてもらっ
-
ジャパンナウ2019年1月号原稿 ホーキング博士とローマ法王
人流・観光は意識に対する刺激により発生し、最も強いものが死に関するものであるから、戦跡や虐
-
ジャパンナウ観光情報協会原稿2016年5月号 月極定額乗り放題サービス
月極定額乗り放題制は、携帯電話やプロバイダーが月極定額で使い放題なら、飛行機の代金も月払いにして
-
ジャパンナウ観光情報協会7月号 ミャンマー散骨旅行記(1)
九十六歳の父親がイラワジ川散骨を希望して旅立った。子供の頃モールメンライターやシャン族の話を聞かされ
-
総理所信表明演説に登場した「人流」と旅主概念への期待 JN10月号原稿
岸田総理は「人流」規制を行う法改正を趣旨とする所信表明演説を行った。前世紀末橋本内閣時の閣議決定「
-
シニアバックパッカーの旅 ジャパンナウ原稿2019年11月 太平洋島嶼国等の観光政策
ラグビーのワールドカップ戦を偶然サモアでむかえた。現地は日本時間より五時間早く、開始時間は深夜。