ジャパンナウ観光情報協会原稿 2020年3月 コロナウィルスと人流規制
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人流・観光政策への評論
コロナウィルス騒動の中、旅行先のサンサルバドル空港では空港レストラン職員もマスクをしていた。入管係員が細かく質問してきたから当然であったのだろう。一方日本については、クルーズ客を下船させずに二週間隔離した措置が国際的批判を浴びた。検疫の語源が、14世紀、ベニスが黒死病対策のため40日間船を沖止めしたことにあることは、関係者は皆知っている。私も6世紀を経ても26日の短縮にしかならなかったのかと思った。
幕末から明治初期に、インドの風土病であるコレラが日本にもたらされ10万人が死亡した。日清・日露の戦死者数を上回る規模であった。私の故郷にもコレラ一揆を記した碑が存在する。列強は植民地経営が大赤字であったから、日本は植民地とせず、関税自主権を持たせず、治外法権を認めさせる形の政策に転換していた。その結果列強船籍に対する検疫が認められなかったから、被害は拡大しコレラ一揆が発生したと理解されている。
日露戦争後関税自主権を回復し、治外法権を撤廃することができた。法治国家として列強に認められる努力は実ったが、法科万能といわれる官僚制度も確立した。同時に台湾、朝鮮等について直接管理の方式を採用した。欧米からみると遅れた形の帝国主義方式であり、今日の歴史認識問題のズレの原因になったが、このズレも観光資源を生み出している。
コロナウィルス対策でも法治国家性が問われている。人が移動する権利は人権中の人権であり、戦時下でも一般的な統制は困難であった。終戦直後、勅令により都心居住を制限したことがあるくらいである。現在では、災害対策基本法に基づく制限規定が代表例である。出入国制限も法律によらなければ憲法違反である。コレラウィルス騒ぎの発端で、悪乗り気味の有事立法論議が発生したことから、きちんとした議論ができる雰囲気にならなった。それが今度のクルーズ船騒ぎにより、再び人流制限に関する基本的人権論議ができるようになった。観光はなく人流政策に昇華させなければならない。
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