第一回ウェアラブル観光委員会を開催してみて
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最終更新日:2023/05/28
観光情報論 コミュニケーション
観光とは頭の中のことである。ウェアラブルデバイスを活用して頭の中のことを把握してみようといういうことで、g-コンテンツ協議会にウェアラブル観光委員会を設置していただいた。昨日はその第一回の会合であった。
メガネのJINSがウェアラブルデバイスを販売していることを東京大学の柴崎教授から知らされ、早速、JINSMEMEのコンテストに応募してみた。HPにも応募作品を掲載してあるので参考にしてもらいたい。
この委員会の最終目的は、大げさに「観光文化遺伝子(Tourist-MEME)」の発見とした。生物と同様に文化にも遺伝子があるというド―キンスの「利己的な遺伝子」論になぞらえて、観光にも遺伝子があり、それを発見しようという目標である。生物遺伝子は現在は中立説が主流である。トヨタの企業文化を調査した藤本隆弘東大教授も、工場分析を長年に重ね、克明なメモを基に、変異、淘汰、保持の実態解明した。その結果、トヨタの物づくりの強みは「すり合わせ」にあると主張され、その結論の導き出し方を「方法論的進化論」と称された。私も日本旅館研究者等に、藤本教授に見習い、まず日本旅館の生態を克明にメモし、その中から日本旅館文化がどのように変異、淘汰、保持されてきたかの論文を書いてほしいと願ってきた。
慶応大学の満倉靖恵准教授が長年研究された結果を電通が商品化した「感性アナライズコム」がある。今回は電通の嶋田敬一郎氏と㈱サイエンスジャムの神谷俊隆氏から説明を頂いた。次回は満倉先生からのお話を聞きかせ頂く予定である。「感性アナライズコム」によれば、対象物に対する観察者の頭の中の反応がリアルタイムで把握できる。従って、日本旅館の「おもてなし」等に対する宿泊者の反応も、リアルタイムで収集できる可能性が出てくる。藤本教授のような超人的な研究をしなくても済む。と同時に、旧態依然とした観光地も、観光客のリアルタイムの評価を反映しなければ生き残れなくなる。これは会議に参加されたJTB・野添幸太氏の感想である。
副委員長を務めてもらっている国立情報研究所の相原健郎准教授から「IoTと観光」と題した話をしてもらった。観光庁の仕事をされている関係から、近年の観光者の行動決定がオンサイトによりつつあるのではないかという仮説を立てておられる。スマホの自撮りにより顔表情を認識して頭の中のことを推測し、心拍変動からリラックス状態、ストレス状態を推計しようと、実験をされている。相原先生は早くから顔文字を研究されていたのである。同時にこれらのパーソナルデータをどこまでなら利用されていもよいのかという個人情報問題も提起されている。電通の開発した「感性アナライザー」だと目の前にいる異性に対する反応度が具体的数字で表示されるから、大変な個人情報である。他人には知られたくないであろう。調査にあたってのこれからの課題である。
参加者からも様々な意見をいただいた。実証実験に関するご意見が多かった。目標は高く実施は慎重にという方針であるから、実験が欲張らないで地道にやってゆくつもりである。時間をかけて積み上げてゆきたいとおもっているが、11月下旬予定の「G空間EXPO」には、簡単な結果でもよいから調査の存在がわかるように発表したいと思っている。
調査される観光客の頭の中のことは他人にはわからない。一緒にいる人が恋人か上司かでも反応が異なるであろう。同じ東京タワーを観ていても、他のことを考えているかもしれない。従ってビッグデータが必要なのであるが、顔認証の分析では個人差は少ないということである。感性アナライズコムの使用に当たっては個人差もありキャリブレーションが多少必要だそうである。
そもそも頭の中のことがわかるのかどうかについても考え方は定まっていない。絶対にわからないという説もあるが、それすら仮説であり、当面は手探りで進んでゆくのであろう。
会議が終わりニュースを聞いていると、ギリシャの通貨危機の報道がされていた。それによれば、EUの指導を受け入れユーロを離脱しない方法、ユーロは離脱するが自発的にユーロを使い続ける方法、あたらしく通貨を発行する方法がある。ギリシャ政府に信用がない状態では新通貨を発行しても、直にインフレになるであろう。面白い方法は勝手にユーロを使う方法である。世界にはそのような例がいくらでもある。北朝鮮に旅行した時、外国人には中国元が通貨として通用していた。イサベラバードが朝鮮を旅行した時には、中国元がなかったから藁銭(当時流通していた少額貨幣)を大量に抱えて行かなければならなかったのである。室町時代、中国が紙幣を発行し始めた結果、大量の銅銭が余るようになり、それを日本が輸入し、日本の商品経済が発達したとならったことがあるが、正直ピンとこなかった。しかし、ギリシャの話を聞いていると、なるほど、通貨は使用する人が信じるか否かであるから、足利幕府よりも明王朝の方が信用力があったと思えば納得できる。
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