*

『脳の誕生』大隅典子 Amazon書評

公開日: : 最終更新日:2021/08/05 出版・講義資料, 脳科学と観光

http:// www.pnas.org/content/supp1/2004/05/13/0402680101.DC1

見つからなかった。

鳥類の脳は空間的制御、哺乳類の脳は時間的制御により、それぞれ特異的なニューロンを誕生させた

内容(「BOOK」データベースより)

私たちの脳は、たった1個の受精卵という細胞から、どのように出来上がったのだろう。本書は、四次元でダイナミックに生まれていく脳のドラマを解説する初の入門書である。神経組織やニューロンが作られ、脳の枠組みが出来上がる「発生」ステージ、ニューロンが突起を伸ばし繋ぎ合わされて大人の脳に成熟していく「発達」ステージ、地球史・生物史の視点からヒトの脳へ至る道筋をたどる「進化」ステージ―以上三部構成で、30週、20年、10億年の各スケールに立ち、脳という小宇宙が形作られる壮大なメカニズムを追う!

 他の生物と比較した場合のヒトの大きな特徴の一つは、大きくて複雑な脳を持っていることであろう。ヒトの脳には約800億から1000億個もの神経細胞(ニューロン)が存在すると見積もられており、それらがシナプスという構造を介して複雑なネットワークを形成することで高度な精神、神経活動を常時行っている。本書は、元々1個の受精卵が分裂を繰り返す過程でどのように脳が形成されていくか(発生)、また形成された後に環境からの刺激などによって神経の配線がどのように作られていくのか(発達)について解説している。発生の過程で将来脳や脊髄になる部分が「管」として出来、それらが多くのタンパク質の働きで区画化され、大脳や小脳といった特徴的な脳の構造になっていく過程は非常にダイナミックである。また、誕生前後に構造的には完成した後、ニューロンの配線が次々と形成される一方、配線の形成が出来なかったニューロンは死滅し、また一旦形成されたシナプスも環境からの刺激を受けて強化されるだけではなく整理(「刈り込み」と呼ばれる)されるものもあり、出生後の環境や刺激の種類や質といったものが脳の発達にいかに重要であるかを改めて認識させられる。

 一般的に「脳の誕生」ということをテーマとする場合話はここまでであるが、本書の類書との違いは脳の誕生を進化という非常に長い時間スケールでも解説していることである。勿論、脳のような柔らかい組織は化石として残らないので、現生の生物の神経や脳組織の違いなどを基にヒトへ至る進化の道筋を説明しているが、これによりヒトの脳の特徴といったものをより複合的に理解できる。特に、神経組織を持った多細胞生物に特徴的なはずのシナプス構造に存在する分子(タンパク質)が、単細胞生物(クラミドモナス)や多細胞生物でも神経系を持たないカイメンなどに既に備わっているという話は非常に印象に残った。生物は進化の過程で獲得した遺伝子(その産物であるタンパク質)を本来の目的以外にも活用することで多様で複雑な生物種を生み出していった典型例の一つと言えるのかもしれない。

 かなり多くの情報が盛り込まれているので、生物学の基礎知識がない読者には少し理解しにくい部分もあるように思われるが、それでも脳の発生や構造に関する現在の知見を取り上げるには新書としては限界があるようである。それでもヒトの脳がいかに複雑かつ精妙に作られているかは十分感じることはできる。より詳しく知るための入門書としては有用な本であると思われる。

関連記事

no image

宇田川幸大「考証 東京裁判」メモ

政治論ではなく、裁判のプロセスを論じている点に独自性がある 太平洋戦争時のジュネー

記事を読む

『尖閣諸島の核心』矢吹晋 鳩山由紀夫、野中務氏、田中角栄も尖閣問題棚上げ論を発言

屋島が源平の合戦の舞台にならなければ観光客は誰も関心を持たない。尖閣諸島も血を流してまで得るもの

記事を読む

no image

『創られた伝統』

第一に、全ての「伝統」は歴史の中で恒常的に取捨選択された結果であり、長年の「伝統」であれ、その都

記事を読む

no image

塩野七生著『ルネサンスとは何であったのか』

後にキリスト教が一神教であることを明確にした段階で、他は邪教 犯した罪ごとに罰則を定める 一

記事を読む

no image

観光行動学に求められるもの 臭覚(匂い、臭い)についての理解

匂いについての下記解説を読んだ。臭覚により、人間は認知している面があるから、ロボットも認知できるた

記事を読む

『眼の誕生』アンドリュー・パーカー 感覚器官の進化はおそらく脳よりも前だった。脳は処理すべき情報をもたらす感覚器より前には存在する必要がなかった

眼の発達に関して新しい役割を獲得する前には、異なった機能を持っていたはず しエダア

記事を読む

no image

筒井清忠『戦前のポピュリズム』中公新書

p.108 田中内閣の倒壊とは、天皇・宮中・貴族院と新聞世論が合体した力が政党内閣を倒した。しかし、

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 Chat・GPTの動画等

ChatGPTの普及でキャバクラ消滅?Windows生みの親・中島聡が「AIとオタク文化の融合が日本

記事を読む

no image

「温度生物学」富永真琴 学士会会報2019年Ⅱ pp52-62

(観光学研究に感性アナライザー等を用いたデータを蓄積した研究が必要と主張しているが、生物学では温

記事を読む

no image

「北朝鮮の話」 平岩俊二 21世紀を考える会 10月13日 での講演

平岩氏の話である。 日本で語られる金ジョンウンのイメージは韓国発のイメージが強い。そのことは私も北

記事を読む

PAGE TOP ↑