『脳の誕生』大隅典子 Amazon書評
http:// www.pnas.org/content/supp1/2004/05/13/0402680101.DC1
見つからなかった。
鳥類の脳は空間的制御、哺乳類の脳は時間的制御により、それぞれ特異的なニューロンを誕生させた
内容(「BOOK」データベースより)
私たちの脳は、たった1個の受精卵という細胞から、どのように出来上がったのだろう。本書は、四次元でダイナミックに生まれていく脳のドラマを解説する初の入門書である。神経組織やニューロンが作られ、脳の枠組みが出来上がる「発生」ステージ、ニューロンが突起を伸ばし繋ぎ合わされて大人の脳に成熟していく「発達」ステージ、地球史・生物史の視点からヒトの脳へ至る道筋をたどる「進化」ステージ―以上三部構成で、30週、20年、10億年の各スケールに立ち、脳という小宇宙が形作られる壮大なメカニズムを追う!
他の生物と比較した場合のヒトの大きな特徴の一つは、大きくて複雑な脳を持っていることであろう。ヒトの脳には約800億から1000億個もの神経細胞(ニューロン)が存在すると見積もられており、それらがシナプスという構造を介して複雑なネットワークを形成することで高度な精神、神経活動を常時行っている。本書は、元々1個の受精卵が分裂を繰り返す過程でどのように脳が形成されていくか(発生)、また形成された後に環境からの刺激などによって神経の配線がどのように作られていくのか(発達)について解説している。発生の過程で将来脳や脊髄になる部分が「管」として出来、それらが多くのタンパク質の働きで区画化され、大脳や小脳といった特徴的な脳の構造になっていく過程は非常にダイナミックである。また、誕生前後に構造的には完成した後、ニューロンの配線が次々と形成される一方、配線の形成が出来なかったニューロンは死滅し、また一旦形成されたシナプスも環境からの刺激を受けて強化されるだけではなく整理(「刈り込み」と呼ばれる)されるものもあり、出生後の環境や刺激の種類や質といったものが脳の発達にいかに重要であるかを改めて認識させられる。
一般的に「脳の誕生」ということをテーマとする場合話はここまでであるが、本書の類書との違いは脳の誕生を進化という非常に長い時間スケールでも解説していることである。勿論、脳のような柔らかい組織は化石として残らないので、現生の生物の神経や脳組織の違いなどを基にヒトへ至る進化の道筋を説明しているが、これによりヒトの脳の特徴といったものをより複合的に理解できる。特に、神経組織を持った多細胞生物に特徴的なはずのシナプス構造に存在する分子(タンパク質)が、単細胞生物(クラミドモナス)や多細胞生物でも神経系を持たないカイメンなどに既に備わっているという話は非常に印象に残った。生物は進化の過程で獲得した遺伝子(その産物であるタンパク質)を本来の目的以外にも活用することで多様で複雑な生物種を生み出していった典型例の一つと言えるのかもしれない。
かなり多くの情報が盛り込まれているので、生物学の基礎知識がない読者には少し理解しにくい部分もあるように思われるが、それでも脳の発生や構造に関する現在の知見を取り上げるには新書としては限界があるようである。それでもヒトの脳がいかに複雑かつ精妙に作られているかは十分感じることはできる。より詳しく知るための入門書としては有用な本であると思われる。
関連記事
-
-
動画で考える人流観光学 観光情報論 錯覚
https://youtu.be/WnsXhHJ_HJE
-
-
観光資源創作と『ウェールズの山』
観光政策が注目されている。そのことはありがたいのであるが、マスコミ、コンサルが寄ってたかって財政資金
-
-
明治維新の評価 『経済改革としての明治維新』武田知弘著
明治時代の日本は世界史的に見て非常に稀有な存在である。19世紀後半、日本だけが欧米列強に対抗し
-
-
『ニッポンを蝕む全体主義』適菜収
本書は、安倍元総理殺害の前に出版されているから、その分、財界の下請け、属国化をおねだりした日本、
-
-
『徳川家康の黒幕』武田鏡村著を読んで
私が知らなかったことなのかもしれないが、豊臣家が消滅させられたのは、徳川内の派閥攻勢の結果であったと
-
-
『支那四億のお客様』カール・クロ―著
毎朝散歩コースになっている一か所に商業会館ビルというのがある。この本を出版したのが倉本長治氏のよう
-
-
『物語 ナイジェリアの歴史』島田周平著 中公新書
アマゾン書評 歴史家トインビー曰く、アフリカはサハラ砂漠南縁を境に、北のアラブ主義
-
-
QUORAに見る観光資源 日本から出たことがないのでわからないのですが、日本は本当に治安が良いのですか?松本 貴典 (Takanori Matsumoto),
日本から出たことがないのでわからないのですが、日本は本当に治安が良いのですか?松本 貴典 (Tak
-
-
観光学研究の将来 音譜、味譜、匂譜、触譜、観譜
ベートベンの作曲した交響曲が現在でも再現できるのは音譜があるからである。これと同じように、ポール
-
-
意識あるロボットの出現とホスピタリティー論の終焉
かねがね、観光学研究で字句「ホスピタリティー」が使用されていることに大きな疑問を感じていた。意識
- PREV
- Quora 古代日本語の発音
- NEXT
- 電子出版事始め『人流・観光学概論』