*

『枕草子つづれ織り 清少納言奮闘す』土方洋一   紙が貴重な時代は、日記ではなく公文書

公開日: : 最終更新日:2023/05/20 出版・講義資料, 観光資源

団塊の世代が義務教育時代に学修したことの一部が、その後の研究により覆されている。シジュウカラが言葉を持っていることは、子供の教科書で紹介されている。また、団塊世代の仁徳天皇陵古墳等は今では大山古墳・大仙陵古墳等と称されている。歴史用語の変化は驚くことではないが、研究しつくされているのかと持っていた古典文学の解釈の世界でも、学校教育で教えられてきたことが変化する可能性があることに驚いている。その例が本書である。

本書のキーワードは、紙が重要な物資であったということ。当たり前のことだが、古典文学を読む場合にあまり認識していないことだ。庶民も紙を手軽に利用するのは江戸時代からの事。それまでは写本が中心で、原本などなくなってしまっていることは、多くの場合認識されていたと思うが、原本を書く場合にも、その使用する紙は大変な貴重品である。清少納言等の場合には、気軽に個人的な感想を紙に書き残すというようなことは考えられなかったわけであり、枕草子を随筆に分類することが問題というのが、本書の主要テーマ。○○日記と称される古典も、現代の日記を連想しては大きな間違いだと主張する。

清少納言は、現代でいえば、宮内庁の皇后陛下にお仕えする侍従のような役割であり、皇后陛下の身辺で起きたことを記録する役割を持っていたから、枕草子もその趣旨で書かれている。その多くの公務が、和歌を詠むこと等に関することであったから、そのことに言及する部分が多いのである。お仕えする皇后陛下の身辺上発生したことは、他の歴史書では記述されているが、枕草子では記述されていない。本書では、それは、皇后陛下の公式の見解が定まっていなかったからだとしている。

さらに、原文がすべて後世に伝えられてきたかも疑問があるとする。清少納言が書いた記録がすべて伝えられてきたかも、枕草子自体が鎌倉期になってように表われてきたのだから、その間に紛失してしまっているかもしれないとする。写本の綴じ方ももともとの綴じ方と同じかも問題であるようだし、読者の都合で内容も変化してしまっているかもしれないようだ。

なお、古文書を自動的に解読するアプリが市場に出ているようである。江戸時代に庶民が書いた多くの旅日記が、旧家の蔵に埋もれており、その量は解読されたものの4~5倍にもなるという。代表的なものは東海道膝栗毛や奥の細道があるが、観光学において江戸時代の旅を理解するには、これら文学作品よりも、庶民の旅の実態の分析がより重要である。

 

関連記事

no image

Quora ヨーロッパ人による境界がなかった場合には、今日のアフリカには幾つくらいの国があったと思いますか? 欧州にはバスク語しか残らなかった

https://youtu.be/i28l-t4H1GM ヨーロッパ人による境界がなかっ

記事を読む

no image

『サカナとヤクザ』鈴木智彦著 食と観光、フードツーリズム研究者に求められる視点

築地市場から密漁団まで、決死の潜入ルポ! アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大

記事を読む

no image

シャマンに通じる杉浦日向子の江戸の死生観

モンゴルのシャマン等の観光資源調査を8月に予定しており、シャマンのにわか勉強をしているところに、ダイ

記事を読む

no image

観光資源としての明治維新

義務教育やNHKの大河ドラマを通じて、日本国民には明治維新に対するイメージが出来上がっている。 し

記事を読む

no image

聴覚   空間の解像度は視覚が強く、時間の分解度は聴覚が強い。人間の脳は、より信用できる方に重きを置いて最終決定する

人間の脳は、より信用できる方に重きを置いて最終決定する 聴覚が直接情動に訴えかけるのは、大脳皮質

記事を読む

no image

ドナルド・トランプが大統領になる5つの理由を教えよう

https://www.huffingtonpost.jp/michael-moore/5-rea

記事を読む

no image

Quora ヒトラーはなぜ、ホロコーストを行ったのですか?

https://jp.quora.com/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%A9

記事を読む

no image

Transatlantic Sins お爺さんは奴隷商人だった ナイジェリア人小説家の話

https://www.bbc.co.uk/programmes/w3cswg9n BBCの

記事を読む

no image

英国のドライな対外投資姿勢 ~田中宇の国際ニュース解説より~

私の愛読しているメール配信記事に田中甲氏の田中宇の国際ニュース解説 無料版 2015年3月22日 h

記事を読む

no image

伝統は後から作られる例 関西は阪神フアンという伝統

これも学士會会報の記事、何時も面白い話をしてくれる井上章一氏の「ゆがめられた関西像」 戦後しば

記事を読む

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

2025年11月22日地球落穂ひろいの旅 プンタアレナス

旅程作成で、ウシュアイアとプンタアレナスの順序を考えた結果、パスクワか

2025年11月19日~21日 地球落穂ひろいの旅イースター島(ラパヌイ) 

チリへの訪問は2014年に国連加盟国 として訪問済み。イースタ

→もっと見る

PAGE TOP ↑