*

『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』 (幻冬舎新書) 加谷 珪一 

公開日: : 最終更新日:2023/05/27 出版・講義資料

題名にひかれて、三田図書館で借りて読む。表題は営業用に編集者がつけたのであろう。先進国が消費拡大するなか、なぜ日本だけが成長できなかったかは、経済学者等が議論を重ねてきたが、すとんと胸に落ちる説明にはお目にかかったことがなく、素人ながら、経済学では説明できるものではないのかとまで思っていた。本書は、思いやり、絆といった日本人のイメージとは裏腹に、実は猜疑心が強く、他人の足を引っ張るという日本人の本性が、失われた三十年で明らかになったのだと解説する。経済学的説明ではなく、社会学的に説明しているから、その通りなのかと思ってしまうが、原因が分かったからと言って解決策にはならないところが難しい。

  本書では、圧倒的に先端を行っていたドローン技術も、民家等の上を危険物が飛行するという国内の感情的反発が強くて実験もできず、ソフト開発におくれ、今では中国が圧倒的なナンバーワンとなっているという例を解説する。多分、自動運転車も同じ道を歩むのであろう。日本初のものではなく、といって中国システムでは国民は納得せず、欧米が導入して初めて日本人も受け入れるのであろう。その分開発は遅れてしまうことは十分に予想できる。新幹線や国鉄民営化のように、当初の世論を気にせずまい進するケースは例外なのであろう。

  本書では、日本人は、本音では、お金がないと幸せになれないと感じている、とする。 ネットで知り合った人の信頼性は、際立って、日本では低いとする。このことは、重層的下請構造の商慣習にもつながるとする。表面的には近代社会であっても、前近代的ムラ社会の価値観が多分に残っているため、新ルールとうまく折り合いをつけることができず、結果として、人の足を引っ張って、意地悪になり、寛容性ない国民性につながるとする。コロナ対策において、酒類販売への自粛要請を金融機関を使って行うといった閣僚の発言は、 法治国家ではないとする。 周囲の雰囲気だけが善悪の判断材料 なのだとする。

一部の論者は緊縮財政が原因とするが、間違いであり、日本はとっくに大きな政府に転じている日本企業の失敗パターンもいつも同じである。高コスト体質の見直しをせず、価格だけを引き下げただけである。消費主導型経済においての 成長エンジンである個人消費が低迷しており、その原因は国民のマインドであるとする。小泉構造改革もアベノミクスも失敗した。その理由は、 円安で輸入物価があがり消費者心理が悪化したからであるとする。不倫バッシングは、前近代的共同体社会のものであり、 旧態依然の商慣習や「ご挨拶」としておこなわれるビジネス社会の行為もその代表例である。江戸時代、儒教は武士支配階級のものであったから、町人は儲けだけが目標であった。従って明治維新後の商人には、基本的には道徳がないのである。

  日本経済は、第一次大戦後と同じ道筋を辿っている。経済発展した後、デフレ経済におちいり、日銀が国債直接引き受けて積極財政を行い、戦争に突入して敗戦になり、ハイパーインフレーション を引き起こしてしまったと解説し、警鐘を鳴らしている。国鉄改革や新幹線は、限定的な範囲であったから成功したが、日本国全体となると、徹底した行政情報公開、スピード感のある司法制度の構築、外国人の全面的に受け入れ、無駄な公共施設の廃止、公正取引法の徹底施行といったことが実施されないと無理なのかもしれない。

八千万人に減少した日本人が、東京と大阪に居住するとすれば、香港、シンガポール、ドバイ等のような金銭的に豊かな地域社会を構築できるかもしれない。

関連記事

『パッケージツアーの文化史』吉田春夫 草思社    

港区図書館の新刊本コーナーにあり、さっそく借り出して読んだ。JTBでの実務経験が豊富な筆者であり、

記事を読む

no image

Quora Covid-19の死亡者はアメリカが27.9万人、日本が2210人 (12/06現在) です。日本では医療崩壊の危険が差し迫っているとの報道がありますが、アメリカに比べて医療体制が貧弱なのでしょうか?

12月16日現在、アメリカでの死亡者数は約30万4千人、そして日本での死亡者数は2600名足らずで

記事を読む

no image

富裕層の海外脱出

さて、この文書からわかることは、100万米ドル以上の億万長者の海外脱出で最もメジャーな国は

記事を読む

「世界最終戦論」石原莞爾

石原莞爾の『世界最終戦論』が含まれている『戦略論体系⑩石原莞爾』を港区図書館で借りて読んだ。同書の

記事を読む

書評『日本社会の仕組み』小熊英二

【本書の構成】 第1章 日本社会の「3つの生き方」第2章 日本の働き方、世界の働き方第3章

記事を読む

no image

QUARA コロナ対処にあたってWHO非難の理由にWHOの渡航制限反対が挙げられていますが、これをどう思いますか?

渡航制限反対は主に「中国寄りだから」という文脈で語られています。しかし調べてみれば、今回のコロナウ

記事を読む

no image

『休校は感染を抑えたか』朝日新聞記事 

https://www.asahi.com/articles/ASP6J51TNP6CULEI0

記事を読む

アメリカの原爆神話と情報操作 「広島」を歪めたNYタイムズ記者とハーヴァード学長 (朝日選書) とその書評

広島・長崎に投下された原爆について、いまなお多数のアメリカ国民が5つの神話・・・========

記事を読む

『高度経済成長期の日本経済』武田晴人編 有斐閣 訪日外客数の急増の分析に参考

キーワード 繰延需要の発現(家計ストック水準の回復) 家電モデル(世帯数の増加)自動車(見せびら

記事を読む

no image

2019年11月9日日本学術会議シンポジウム「スポーツと脳科学」聴講

2019年11月9日日本学術会議シンポジウム「スポーツと脳科学」を聴講してきた。観光学も脳科学の

記事を読む

no image
カシュガル、ホータン、ヤルカンド

素敵な計画ですね!カシュガル、ヤル

no image
中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンのハンザ地区を通過してパキスタンの空港から日本に戻るルート

中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンのハンザ地区を通過してパ

no image
独島への渡航

東京から鬱陵島(ウルルンド)への最も経済的な移動方法は、以下の3つのス

no image
リビア旅行について

Dear Teramae Shuichi,

no image
シリア旅行について2

Dear Shuichi, Thank you so much

→もっと見る

PAGE TOP ↑