*

書評『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 出版・講義資料

日本人の簡素な和式の生活への洞察力は、ベルツと同じ。宗教観は、シュリューマンとは逆に伊藤博文等が、西洋人は本気で神がいるとおもっていることに驚くとともに、神に代わるものとして天皇制を考えていることが面白い。

 

『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳 シュリューマンは1865年世界漫遊の旅に出かけ日本に寄港している(6月1日から7月4日)。66年にパリに落ち着いて改めて考古学を学び学位を取得し、1871年にトロイ遺跡を発掘しているから、発掘前に日本に来たことになるのは驚きである。尊王攘夷、今流にいえばテロリストがうろうろしている江戸に、外交官でも軍人でもない民間人が手づるを得て来ているのである。以下訳文の抜粋と感想「上海から東洋蒸気船会社所属の北京号に乗り、日本の横浜に向かった。立った三日足らずの行程に百両も支払わなければならなかった」と相場を教えてくれている。「日本の小舟には色が塗ってない。シナ人なら忘れることのできない、船首の二つ目玉が、日本の小舟にはない」、荷揚場で「ひどい疥癬に罹っていて・・・皮膚病に冒されていない者を探したが、だれもいなかった」と観察する。「官吏二人にそれぞれ一分ずつ出した。ところがなんと彼らは自分の胸をたたいて「ニッポンムスコ」といい、これを拒んだ」と現代旅人でも悩まされる入国時の役人を描写し、感心するが、滞在後には幕府の貨幣交換政策について、通商の不利益も顧みず莫大な利益を高官に与えていると批判している。この点もどこか現代に通じる。家庭生活の観察は面白い。正座して椀と箸での食事後、瞬く間に食事の名残が消えてしまうさまを描写する。欧州で必要不可欠だとみなしていた衣装ダンス、書斎机、食器棚などちっとも必要でないことに気が付いた。欧州の親たちが日本の習慣を取りいれて子供たちの結婚準備から解放されたらと記述する。長年健康にわるい正座がなぜ日本の習慣になったのかと不思議に思っていたが、少し合点がいった。日本の政治は、騎士制度を欠いた封建体制であり、ベネチア貴族の寡頭政治である記述。民衆の生活の中に真の宗教心は浸透しておらず、また上流階級はむしろ懐疑的であると確信したとも記述する。芝居見物もしている。劇場はほぼ男女同数。男女混浴どころか、みだらな場面をあらゆる年齢層の女たちが楽しむような生活のなかに、どうしてあのような純粋で敬虔な気持ちが存在し得るのか不思議とするが、この点は、欧州でも人は変わらないのではと思い同意できない。巻末に日本文明論が展開され、日本は欧州以上に文明化されているとする。男女とも皆かなと漢字の読み書きができる。しかし、キリスト教徒が理解しているような意味は文明化されていないとする。その理由は民衆社会を抑圧する密告社会があるからだとする。外国人嫌いにするのは大名で、幕府には外国人を守る力がないから、外国人の生命財産は外国部隊にしか守れないことになる。しかし、軍隊派遣は採算が合わないと結んでいる。ビジネスマンシュリューマンの結論である。

関連記事

no image

保護中: 『from 911/USAレポート』第827回 「アベノミクスの功罪と出口シナリオ」冷泉彰彦 これだけ識字率と基礎算術と社会性の訓練を受けた分厚い人口を抱えた大国が、利幅が薄く労働集約型の観光業を主要産業とするという、どう考えても悲劇的な産業構造に追い詰められた、これは7年半にわたって改革に消極であったことのツケにしても、随分と妙な方向になったと思います

結果的に、これだけ識字率と基礎算術と社会性の訓練を受けた分厚い人口を抱えた大国が、利幅が薄く労働

記事を読む

幸田露伴『一国の首都』明治32年 都議会議員和田宗春氏の現代語訳と岩波文庫の原書で読む。港区図書館にある。 

幸田露伴は私の世代の受験生ならだれでも知っている文学者。でも理系の人でもあり、首都論を展開してい

記事を読む

イサベラバードを通して日韓関係を考える

Facebook投稿文(2023年5月21日) 徳川時代を悪く評価する「薩

記事を読む

no image

QUORAにみる歴史認識 アルメニア虐殺

アルメニア虐殺の歴史的背景はあまり知らてないように思いますが、20世紀の悲惨な虐殺の一ページとし

記事を読む

no image

書評 渡辺信一郎『中華の成立』岩波新書

ヒトゲノム分析によれば、山東省臨̪淄の遺跡 2500年前の人類集団は現代欧州と現代トルコ集団の中間

記事を読む

no image

筒井清忠『戦前のポピュリズム』中公新書

p.108 田中内閣の倒壊とは、天皇・宮中・貴族院と新聞世論が合体した力が政党内閣を倒した。しかし、

記事を読む

no image

GetTaxi  Via (company)  YANDEX

Gett, previously known as GetTaxi, is a global on-

記事を読む

no image

「第3章 流入する他所者と飯盛女」武林弘恵著『旅と交流に見る近世社会』清文堂

旅と交流にみる近世社会 高橋陽一 編著    

記事を読む

no image

『永続敗戦論  戦後日本の核心』、『日米戦争を起こしたのは誰か ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず』『英国が火をつけた「欧米の春」』の三題を読んで

「歴史認識」は観光案内をするガイドブックの役割を持つところから、最近研究を始めている。横浜市立大学論

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 リーマン予想  素数

  ゲーテルの不確定性原理 https://youtu.be/hEG1cWJD

記事を読む

no image
リビア

https://www.getyourguide.jp/tripoli

no image
カシュガル、ホータン、ヤルカンド

素敵な計画ですね!カシュガル、ヤル

no image
中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンのハンザ地区を通過してパキスタンの空港から日本に戻るルート

中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンのハンザ地区を通過してパ

no image
独島への渡航

東京から鬱陵島(ウルルンド)への最も経済的な移動方法は、以下の3つのス

no image
リビア旅行について

Dear Teramae Shuichi,

→もっと見る

PAGE TOP ↑