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『創られた伝統』

第一に、全ての「伝統」は歴史の中で恒常的に取捨選択された結果であり、長年の「伝統」であれ、その都度の時代への適応の中で、常に重心の移動が起こっている。第二に、したがって、「伝統」には変えてよいものと変えられるべきでないものとがあり、「伝統」か「新しいもの」かという二分法は否定される。第三に、「伝統」というラベリングにより特定のものを聖域化する発想は思考停止であり、場合によっては差別の温存にもつながりかねない。第四に、その取捨選択の基準は常にその都度の「現在」(政治的、経済的、文化的要因)にある。第五に、どれだけの人に普及していれば「伝統の存続」と言えるのか、はいったん検討されるべきであり、社会には常に相矛盾する無数の「伝統」が並存していると考える方が妥当である。
 「伝統」研究の古典としてお勧め。

本書は「創られた伝統」が、1870〜1914年の時期のヨーロッパで大量生産されたという史実を紹介している。そしてその原因として、当時の急激な産業社会化が、為政者に国民同士の連帯感やアイデンティティーの確保について不安を感じさせたことをあげて、社会を安定させようとして試みた様々な工夫が結果的に「伝統」の大量生産になったのだと論じている。考えてみると、この時期は国民国家としての日本が確立した時期にもあたっている。欧米の影響下で急激に日本社会の近代化が進展したが、やはりこの時期に、主として近代天皇制にまつわる様々な伝統が創り出されたことがわかる。それにしても、明治維新以降の近代化に伴なう社会の激変にもかかわらず、社会の安定が大きく損なわれなかったことは、伝統を創る際に参照可能な、豊かで長い日本の歴史があったからこそだと思った。

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