*

『江戸の旅と出版文化』原淳一郎

公開日: : 最終更新日:2021/08/05 出版・講義資料

中世宗教史と異なり近世宗教史の大きな特徴に寺社参詣の大衆化がある。新城常三の「社寺参詣の社会経済史的研究」の上梓以降、研究が飛躍的に進展し、多くの庶民が旅に出ていたことが具体的にわかってきた。

p16 旅が広まる要因の一つに、寛永8年以降の建立された寺院は檀家を持つことが許されなかったことがあり、派手な宣伝活動を行い他地域からの参詣客を増やすことに専念した。

「膝栗毛」爆発的にヒットし、参詣を誘発したと安易に書かれることが多い。一般的に、出版物が読むものから使う物へと変化したといわれる。だが、本当にこれを実証した人がいるのであろうかとする。

寛政6年から享和3年にかけて、参詣型往来物は、それまでの地理学習用手習い本から、徐々に実用性を高めていった。その背景には江戸周辺の社寺の案内記としての受容の高まりがあり、地域を認識する段階から地域の個性を発見する段階への転換点でもあった。黒部アルペンルートの開発者佐伯宗義は観光は地域の個性の発揮といったが、近世において始まっていたのである。

18世紀後半において、社寺参詣の大衆化に対応できる出版物は江戸、鎌倉、日光を除き皆無であった。元禄後期から享保期に関東の社寺が広い範囲から参詣客を獲得してゆき、参詣客の講が形成されてゆくのが宝暦期である。参詣地の複合化が起きるのが明和・安政期。これを境に各地へ単一的に営まれていた参詣形態が変容し、互いに参詣者が流入しあって等質化し、それまでの道中記のような各街道を主とした出版物では飽き足らなくなった。こうした時期の登場したのが名所図会と参詣型往来物である。

文化期頃から、三都の書肆による出版から次第に各地域において在地出版のよる参詣型往来物が登場した。一方、旅の実用性だけではなく、教育という視点も同様に重要である。例えば幼児教育のために一地域の往来物を作成する者が現れた。この郷土意識の高まりを排他的な国学の影響とするのは性急とする。教育基本法と国、地域の誇りを強調する観光立国推進基本法の関係を思い出してしまう。

名所とは、しょせん人間の頭の中の産物に過ぎないとする(脳科学)。字句名所の成立は、和歌に詠まれる「ナドコロ」である。和歌の世界だけで再生産されるから多分に観念的な要素を持っている。その一方「名所」は和歌の世界を軽く飛び越えてゆき、広範な概念となった。上杉和央氏は「俗名所」として読んでいる。

近世の紀行文は、それまで土佐日記が生まれて以来詠嘆をはっきりとさせてきたのに対し、知性を重んじ文章は簡潔、地誌的でさえある。読まれることを想定して旅の実像を伝えようとする意志があった。その点奥の細道は中世紀行文の系譜を受け継ぐもの。

近世の人々は、程度の差こそあれ、先行する紀行文によって自分が学んできた知識を名所ごとに予習して再構築し、情報を十分に得てから自律的に取捨選択して旅にのぞんでいた。観念の世界から実際に目で確かめられる名所へと変化した。といっても、依然として「書物を介して継承されている世界」にとどまっていた。この点は現在も同じ。書物に、映画やネットが加わっただけである

女人禁制  危険な場所から女性を遠ざけるという、長年の人々の知恵があった。

関連記事

「世界最終戦論」石原莞爾

石原莞爾の『世界最終戦論』が含まれている『戦略論体系⑩石原莞爾』を港区図書館で借りて読んだ。同書の

記事を読む

『飛躍への挑戦』葛西敬之著

図書館で取り寄せて読んだ。国鉄改革については、多くの公表著作物に加え、これからオーラルヒストリが世

記事を読む

no image

ジョン・アーリ『モビリィティーズ』吉原直樹・伊藤嘉高訳 作品社

コロナ禍で、自動車の負の側面をとらえ、会うことの重要性を唱えているが、いずれ改訂版を出さざるを得な

記事を読む

no image

『新・韓国現代史』 文京洙著 岩波書店 を読んで、日韓観光を考える。

東アジアの伝統的秩序は、中国中心の華夷理念のもとに、東アジアの近隣諸国が朝貢・冊封の関係において秩序

記事を読む

no image

中国「デジタル・イノベーション」の実力 公研2019No.665

モバイル決済は「先松後厳」まずは緩く、後で厳しく  日本の逆 AirbnbやUberが日本で

記事を読む

no image

「太平洋戦争末期の娯楽政策  興行取締りの緩和を中心に」 史学雑誌/125 巻 (2016) 12 号 金子 龍司

本稿は、太平洋戦争末期の娯楽政策について考察する。具体的にはサイパンが陥落した一九四四年七月に発

記事を読む

no image

書評『ペストの記憶』デフォー著

 ロビンソン・クルーソーの作者ダニエル・デフォーは、17世紀のペストの流行に関し、ロンドン市長及び

記事を読む

no image

「南洋游記」大宅壮一

都立図書館に行き、南洋遊記を検索し、[南方政策を現地に視る 南洋游記」  日本外事協会/編

記事を読む

no image

「北朝鮮の話」 平岩俊二 21世紀を考える会 10月13日 での講演

平岩氏の話である。 日本で語られる金ジョンウンのイメージは韓国発のイメージが強い。そのことは私も北

記事を読む

『貧困と自己責任の中世日本史』木下光夫著 なぜ、かほどまでに生活困窮者の公的救済に冷たい社会となり、異常なまでに「自己責任」を追及する社会となってしまったのか。それを、近世日本の村社会を基点として、歴史的に考察

江戸時代の農村は本当に貧しかったのか 奈良田原村に残る片岡家文書、その中に近世農村

記事を読む

デンバーからソルトレイクシティー

シカゴからソルトレイクシティーにcoachで向かい

ミネアポリスからポートランド エンパイアビルダーからの車窓

1. 車窓からのハイライト ミネアポリスを夜に出発し、西へ向かう行程

ニューメキシコ レッドロック

サウスウェストチーフの車窓からの風景で、深紅のサメと呼ばれるところは、

no image
ロシア旅行の前の、携帯wifi準備

https://tanakanews.com/251206rutrav

no image
ロシア旅行 田中宇

https://tanakanews.com/251205crimea

→もっと見る

PAGE TOP ↑