『サイロ・エフェクト』ジリアン・テット著 高度専門化社会の罠
公開日:
:
最終更新日:2023/05/28
出版・講義資料
デジタル庁が検討されている時期であり、港図書館で借りて読む。本書は、NYCのデータ解析により、テロによる爆弾が爆発する前には、どういうわけかその地区の交通量が減少すること、ファイアートラップ(消防士の火災事故)が発生する地区を予測するには、住宅ローンの不履行等のデータを組み合わせることが有効であること等、NYC当局の縦割り組織(これをサイロと呼んでいるが、タコつぼと訳している)を克服した点を紹介している。シカゴでは殺人予報地図まで作成され、きわめて有効であったことも紹介されている。そしてサイロの悪い実例の最初に、ソニーを取り上げている。ウォークマンを世に送り出したソニーがなぜスマホを送り出せなかったかを分析。個人的にも一番興味を持っていた問題でもあった。ソニーが折角吸収したミュージックエンタテインメント部門は、消費者がインターネットを通じて音楽をダウンロードできるようにするという発想を忌み嫌っていた。この点がアップルの文化と全く違っていた点である。社長のストリンガーは、Amazonが発売するよりも2年前に電子書籍端末開発を指示したが何もやってくれなかったとも嘆いている。「プレーステーション4」発表の記者会見の場には、ソニーの製品は一つもなく、アップルのロゴマークが光っていたそうである。第4章では「経済学者はなぜ間違えたか」を解説する。2008年に英国女王陛下がロンドンスクールオブエコノミックスを訪問した際、当時の経済状況への説明に「なんとひどい」と言葉を発せられた。この答えは、みな同じ考え方を使っていたから間違えたと解説する。みな同じサイロの中におり、金融の外にあるシャドーバンキングを考えたこともなかったからである。今、日本も「失われた30年」、「地方創世」「デジタル化」「MaaS」等と踊る見出しは山積しているが、みな同じサイロの中での議論に終始し、原発事故の際はこれを原子力村と呼び、太平洋戦争の解説には「空気」とよんでいたことを思い出す。
関連記事
-
-
筒井清忠『戦前のポピュリズム』中公新書
p.108 田中内閣の倒壊とは、天皇・宮中・貴族院と新聞世論が合体した力が政党内閣を倒した。しかし、
-
-
『ニッポンを蝕む全体主義』適菜収
本書は、安倍元総理殺害の前に出版されているから、その分、財界の下請け、属国化をおねだりした日本、
-
-
ふるまいよしこ氏の尖閣報道と観光
ふるまいよしこさんの記事は長年読ませていただいている。 大手メディアの配信する記事より、信頼できる
-
-
『日本語スタンダードの歴史』野村剛士は、「日本の話しことばについて」『現代国語三』所収 木下順二著1963年を否定
私の自説に、日常と非日常が相対化しており、観光資源もあいまいになってきているというアイデアがある
-
-
「キャピタリズム マネーは踊る」マイケル・ムーア
https://youtu.be/aguUZ7PGd2A https://youtu.be/a
-
-
御手洗大輔「示威の自由に関する日中比較と日本人の課題」
『横浜市立大学論叢』第68巻社会科学系列2号 御手洗大輔「示威の自由に関する日中比較と日本人の課題」
-
-
保護中: 蓮池透『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』
アマゾン書評 本書を読むに連れ安倍晋三とその取巻き政治家・官僚の身勝手さと自分たちの利権・宣伝
-
-
『チベットの娘』リンチェン・ドルマ・タリン著三浦順子訳
河口慧海のチベット旅行記だけではなく、やはりチベット人の書物も読まないとバランスが取れないと思い、標
-
-
英国通貨がユーロでない理由 志賀櫻著「日銀発金融危機」
ポンド危機と英国通貨がユーロでない理由 サッチャー政権
