『「食糧危機」をあおってはいけない』2009年 川島博之著 文芸春秋社 穀物価格の高騰は金融現象
公開日:
:
最終更新日:2021/08/05
出版・講義資料
コロナで飲食店が苦境に陥っているが、平時には、財政措置を引き出すためもあり、時折食糧危機論が繰り返される。元農水省職員・東大教授による本書は「何かの時に食料が輸入できなくなるかもしれない」という間違った思い込みに基づいた政策をやめるべきとし、食料安全保障は世界の穀物市場をよく見ている商社に任せておけばよい、と主張する。アフリカなどで暴動まで発生した2008年の食糧価格の高騰は、生産量不足から来るものではなく、商品市場に投資資金が流入したことによるとする。このことは、江戸時代の飢饉が商品経済の浸透により、大阪にコメが集積されたことが主たる原因であったことと同じである。 人口の急速な増加を問題視した1972年『成長の限界』、途上国が肉を食いだし穀物が不足すると警告した1995年の『だれが中国を養うのか』等により、繰り返された食糧危機説は間違いであった。食糧危機説の中で在庫率の低下の根拠として言及されるが、90年代以降世界の穀物在庫率が低下したのは、IT技術の革新により、世界の穀物ロジスティックスに飛躍的進歩が起きた結果であるとする。人流もIT技術の革新により必須ではない動きや宿泊が減少することは、コロナで図らずも証明された。 観光資源論の調査記述の際分かったことであるが、「伝統」という言葉自体が戦前に陸軍が生み出したものであり、従って伝統といわれるものの大半は古くはない。本書も、近年の日本人の魚離れに関して、魚の消費が増加したのは大正年間からであると記述している。疑似エコ意識に彩られたフードマイレージのいかがわしさも指摘するが、エコツーリズム論にも当てはまる指摘である。
関連記事
-
-
歴史認識と書評『1945 予定された敗戦: ソ連進攻と冷戦の到来』小代有希子
「ユーラシア太平洋戦争」の末期、日本では敗戦を見込んで、帝国崩壊後の世界情勢をめぐる様々な分析が行
-
-
『天安門事件を目撃した日本人たち』
天安門事件に関する「藪の中」の一部。日本人だけの見方。中国人や米国人等が作成した同じような書籍があ
-
-
朝河寛一とアントニオ猪木 歴史認識は永遠ではないということ
アントニオ猪木の「訪朝」がバカにできない理由 窪田順生:ノンフィクションライター経営・戦略情
-
-
ヘンリーSストークス『英国人記者からみた連合国先勝史観の虚妄』2013年祥伝社
2016年10月19,20日に、父親の遺骨を浄土真宗高田派の総本山専修寺(せんじゅじ)に納骨をするた
-
-
山泰幸『江戸の思想闘争』
社会の発見 社会現象は自然現象と未分離であるとする朱子学に対し、伊藤仁斎は自然現象
-
-
『素顔の孫文―国父になった大ぼら吹き』 横山宏章著 を読んで、歴史認識を観光資源する材料を考える
岩波書店にしては珍しいタイトル。著者は「後記」で、「正直な話、中国や日本で、革命の偉人として、孫文が
-
-
QUORAにみる観光資源 なぜ、現代に、クラシックの大作曲家が輩出されないのですか?大昔の作曲家のみで、例えば1960年生まれの大作曲家なんていません。なぜでしょうか?
とっくの昔に旬を過ぎている質問と思われますが、面白そうなので回答します。 一般的に思われてい
-
-
『日本が好きすぎる中国人女子』桜井孝昌
内容紹介 雪解けの気配がみえない日中関係。しかし「反日」という一般的なイメージと、中国の若者
-
-
『本土の人間は知らないことが、沖縄の人はみんな知っていること』書籍情報社 矢部宏治
p.236 細川護熙首相がアメリカ政府高官から北朝鮮の情勢が緊迫していること等を知らされ、米国は
-
-
化石燃料は陸上生物の生息域の保全に役立っている 堅田元喜
https://cigs.canon/article/20201228_5529.html
