*

横山宏章の『反日と反中』(集英社新書2005年)及び『中華民国』(中央公論1997年)を読んで「歴史認識と観光」を考える

公開日: : 最終更新日:2023/05/20 出版・講義資料, 歴史認識

 歴史認識を巡り日本と中国の大衆が反目しがちになってきたが、私は歴史認識の違いを比較すればするほど、むしろそれが観光資源となるのではないかという問題意識をもっている。特に反日については、横山宏章は、共産党はマルクス主義政党というより反日民族主義政党であり、民衆の圧倒的支持を得ている。反日の革命神話は共産党の宝であるから、簡単に旗を降ろせないと記述する。しかし同時に、横山宏章は、中国では本当に反日教育が徹底的に叩き込まれているのかというとそうでもないと専門家の立場から記述している。日本人がそこに気づけば観光客としての眼も余裕ができるのである。

 日本にいると都合の悪いことは忘れてしまい、爆買などという品のない用語まで使用するが、2003年9月18日に珠海買春事件が発生した。日本企業が集団買春を行ったのである。これも爆買であろう。9月18日は満州事変の発生した国恥日であったから大きな反発を招いた。

 中国も日本も大衆レベルでは、はねっかえりがいる。マスコミが無視すれば話題にならないのだが、刺激を求めるマスコミは大きく取り上げるから、反日、反中が増幅してしまう。中国では安徽省黄山にある王直の墓碑が破壊される事件が発生した。王直は長崎では鄭成功に次ぐ有名人であり廟堂「明人堂」が残っている。二〇〇一年日中友好のシンボルとしての記念碑の意味合いがあるが、日本でも日中友好記念碑が右翼の手で破壊されたりする。

 問題の尖閣諸島については、中国領と主張したのは日本歴史研究者として名高い井上清京大教授であり、文献主義でいえば中国に分がある。膨大な記録が残っているから、日本はぐうの音もでないと記述する。しかし最後に「だが、古いことからいえば、すべての土地は先住民族のもの」と記述。この点が単純なホストゲスト論にならないところが面白い。

 日本にきた中国人は生活苦からであったが、日清戦争後新たに来た留学生は知的水準の高い知識人。日本文化に憧れてきたのではなく、学びやすい日本語を通して西欧文化を学びに来た。決して親日派を生み出したわけではない。陳独秀などは、日本から学ぶものがなかったからと日本論を書いていない。1915年の対華21か条要求で決定的な反日感情となった。横山は、中国から見れば西洋の苦境につけ込む火事場泥棒的な日本の道徳的堕落をみると記述する。帝国列強の中国支配に抵抗するナショナリズムが高揚した1919年の五四運動では日本留学組が売国官僚として大衆運動の糾弾の対象となった。中国のナショナリズムを強制力をもって抑えてゆくことは不可能という認識を持っていた日本人は幣原喜重郎等であった。1928年に国民党は全国統一した。次に不平等条約改正宣言を発表。関税自主権の回復1930年日華関税協定による。領事裁判権の撤廃や租界・租借地の回収については、1943年欧米列強は対日参戦の見返りに認めた。

アメリカの貿易額は日本、中国は7対1 日本との直接対決は回避したかった。しかし1937年日中戦争以降は事態が一変。アメリカは対中政策を変更した。戦後処理を巡って蒋介石が米英両国の巨頭と肩を並べるなどそれまでの歴史からすれば想像もできないことであったが、中国の実力というよりもアメリカの世界戦略の賜物であった。しかし国民党の腐敗ぶりが重慶にいたアメリカ外交団、軍人にはっきりと認識されており、蒋介石支援政策の見直しの声が高まっていった。その政策をアメリカが採用していたら中国をソ連側に押しやることもなかっただろうと横山は記述している。
台湾の国民党が注目されている。国共合作の時代もあったが、再び共産党と近づいているから、反中派の日本人から嫌われだした。国民党も共産党も前衛政党である点で共通であるから、大衆政党ではない。江戸城ならぬ北京の無血開城も、共産党と国民党が行っている。政治交渉で国民党が城外に撤去したから、北京の文化財は破壊されなかった。

関連記事

「ブラックアース~ホロコーストの歴史と警告」ティモシー・スナイダー著池田年穂訳 を読んで

ホロコーストについても、観光学で歴史や伝統は後から作られると説明してきたが、この本を読んでさらにその

記事を読む

no image

『満州事変はなぜ起きたのか』筒井清忠著 中央公論新社 2015年

日米戦争=太平洋戦争はかなりの程度、日中戦争に起因し、その日中戦争はかなりの程度、満州事変に起因する

記事を読む

地域観光が個性を失う理由ー太田肇著『同調圧力の正体』を読んでわかったこと

本書で、社会学者G・ジンメルの言説を知った。「集団は小さければ小さいほど個性的になるが、その集団

記事を読む

no image

QUORA 北方四島問題でソ連は日ソ不可侵条約が有るも拘わらず、終戦直後参戦し北方四島を強奪しましたが、国と国の条約は形式だけで何の意味も持たないのですか?

https://qr.ae/py4JmS   北方領土問題の発端は、大東亜戦争(太

記事を読む

no image

Quora 「汎化性能」

すべてのデータサイエンティストが知っておくべき、統計学の重要なトピックはなんでしょうか?

記事を読む

『総選挙はこのようにして始まった』稲田雅洋著 天皇制の下での議会は一部の金持ちや地主が議員になっていたという通説が実証的に覆されている。いわば「勝手連」のような庶民が、志ある有能な人物(国税15円を納める資力のない者)をどのような工夫で議員に押し立てたかを資料に基づいて丹念にドキュメンタリー風に解説

学校で教えられた事と大分違っていた。1890(明治23)年の第一回総選挙で当選して衆議院議員にな

記事を読む

no image

伝統も歴史も後から作られる 『戦国と宗教』を読んで

 横浜市立大学の観光振興論の講義ノート「観光資源論」を作成するため、大学図書館で岩波新書の「戦国と宗

記事を読む

no image

『日本経済の歴史』第2巻第1章労働と人口 移動の自由と技能の形成 を読んで メモ

面白いと思ったところを箇条書きする p.33 「幕府が鎖国政策によって欧米列強の干渉を回避した

記事を読む

no image

「米中関係の行方と日本に及ぼす影響」高原明生 学士會会報No.939 pp26-37

金日成も金正日も金正恩も「朝鮮半島統一後も在韓米軍はいてもよい」と述べたこと  中国支配を恐れてい

記事を読む

no image

Quora 古代日本語の発音

youtubeで、「百人一首を当時の発音で朗読」という動画を見ました。奈良・飛鳥時代の上代日本語

記事を読む

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

2025年11月22日地球落穂ひろいの旅 プンタアレナス

旅程作成で、ウシュアイアとプンタアレナスの順序を考えた結果、パスクワか

2025年11月19日~21日 地球落穂ひろいの旅イースター島(ラパヌイ) 

チリへの訪問は2014年に国連加盟国 として訪問済み。イースタ

→もっと見る

PAGE TOP ↑