*

『公共貨幣論入門』山口薫、山口陽恵

MMT論の天敵

Amazonの書評

佐藤優氏が「MMTを吹き飛ばす新しい貨幣理論」と評するだけあって、MMTの更に”左”を行く本書のテーマ「公共貨幣論」は急進的に信用創造廃止を訴える。

実は「公共貨幣論」とMMTはともに信用創造を金融危機の原因と見做し、その問題意識を共有している。ただし、MMTが統合政府を仮定し「中央銀行を頂点とした債務貨幣の階層構造と、政府支出による安定した信用創造で、民間銀行の不安定な信用創造を補える」とする点で、「公共貨幣」とは本質的に異なるそうだ。信用創造メカニズムへの理解は同じでも、それを許容するMMTに対して完全否定する「公共貨幣論」との図式だろうか。もっとも「公共貨幣論者」がMMTを銀行の手先扱いするあたりに理想に燃える学生左翼活動家を重ねてしまう。

興味を引くのは、同じ信用創造でもマネーの使途が民間投資だと政府支出よりもGDPが増えるとの考察。だから、激減する民間マネーを政府支出で補おうとしても経済を成長させることはできない。これが90年代以降はマネーストックを維持しても景気が上向かない理由かと納得。まるで赤字国債発行による政府支出を重視するMMTの盲点を突くかのようだ。また、100%準備で銀行が定期預金を原資に貸出すようになると、銀行のあり方もゼロから変わるはずだと思った。

この「公共貨幣」を実現しようとすると、国家に通貨発行権を委ねることへの抵抗や民間経済への影響もあり、簡単ではないだろう。それでも、本書が提起する信用創造への問題意識は理想主義的だと思った。果たして信用創造なき理想世界は来るのだろうか?

山口薫さんは異端の経済学者として知られる研究者。
 本書は、2015年に出版された『公共貨幣』(東洋経済新報社)を引き継ぎ、より分かりやすく説明するとともに、今後の日本政府の施策に大胆な提言を行なったもの。
 「公共貨幣」という概念は、現在の「債務貨幣経済システム」にとって代わるものとして想定されている。債務貨幣が資本主義と結びつき、経済的格差を広げていくものであるのに対して、公共貨幣を導入すれば、日本経済の再生が可能だと主張される。
 現行の経済システムに対する批判の部分は、きわめて説得的で、納得のいくものであった。バブル崩壊後の「失われた30年間」による経済停滞は、このまま進めば確実に日本を滅ぼしてしまう。そのことが理論や数的指標によって明確に示されている。
 ただ、公共貨幣がどこまで有効なのかは、本書だけでは充分には理解できなかったというのが、率直な感想だ。もう少し著者の主張をいろいろなところで確かめてみたい。

関連記事

no image

マニラの観光・交通事情 承前

フィリピンの首都マニラに9月11日から15日まで、チームネクストの調査に参加する。 フィリピンは今

記事を読む

フェリックス・マーティン著「21世紀の貨幣論」をよんで 

観光を理解する上では「脳」「満足」「価値」「マネー」が不可欠であるが、なかなか理解するには骨が折れる

記事を読む

no image

2016年3月1日朝日新聞8面民泊関連記事でのコメント

 東京都大田区が、国の特区制度を活用して自宅の空き部屋などを旅行者に有料で貸し出す「民泊」を解禁

記事を読む

no image

「日本の伝統」の正体

現在、「伝統」と呼ばれている習慣の多くが明治時代以降に定着したと聞いたら驚く人も多いかもしれない。

記事を読む

no image

進化するぷらっとこだま(JR東海ツアーズ)、では「ぷらっとタクシー」は?

旅行業法のパッケージツアー(主催旅行(現在は企画旅行))の面白さを説明するのに一番わかりやすい事例が

記事を読む

no image

Quora JRや航空会社がビジネス客減少で軒並み赤字です。出張会社員の多くは実は大した用事でもないのに、自分の楽しみや息抜きのために会議や営業などを口実に出張していたのではないですか?

JRや航空会社がビジネス客減少で軒並み赤字です。出張会社員の多くは実は大した用事でもないのに、自分

記事を読む

no image

『天皇と日本人』ケネス・ルオフ

P114 マイノリティグループへの関心 p.115 皇室と自衛隊 他の国の象徴君主制と大きく

記事を読む

no image

『貧困と自己責任の中世日本史』木下光夫著 歴史は後から作られるの例

江戸時代の農村は本当に貧しかったのか 奈良田原村に残る片岡家文書、その中に近世農村の家計をき

記事を読む

no image

歴史は繰り返す遊興飲食・宿泊税とDMO論議 

デスティネーションを含んだDMOなる言葉が独り歩きしている。私がカタカナ用語のデスティネーションを

記事を読む

no image

『ヒトはこうして増えてきた』大塚龍太郎 新潮社

p.85 定住と農耕 1万2千年前 500万人 祭祀に農耕が始まった西アジアの発掘調査で明らかにさ

記事を読む

PAGE TOP ↑