『旅行契約の実務』 鈴木尉久著2021年 民事法研究会発行
公開日:
:
最終更新日:2021/08/05
出版・講義資料
旅行業法の解釈について、弁護士でもある鈴木教授がどのような見解を持っておられるかと本書を図書館で借りて読んでみた。やはり、契約実務の解釈が中心である。旅行業法という行政法規の解釈についての記述はなく、残念であった。現実に発生していている現象を元に記述しているので仕方がない。
日常的ではないことは想定しないと(2ページ)とある。観光とは非日常体験なのであるが、消費者相手には旅行業者は如何に日常的な商品しか扱っていないかということが垣間見える表現である。標準約款をはみ出た商品開発がおこなわれず、従って独自の約款に基づくものを販売していないことがわかってしまう。私が知る限りでも標準約款以外のものはJTBのJERONタクシーだけであり、この約款認可に観光庁の担当者が対応できず時間ばかりがかかっていたことを思いだす。ましてや、「利用運送」や「利用宿泊」といった形態は、旅行業法は想定しているものの、中国のCtripが生み出したもの以外は、日本では発生していないから、日本の弱小宿泊業者が大騒ぎをし、内容が理解できないコメンテーターが、ワイドショウで解説していたことを思いだしてしまう。
タクシー運賃規制が主催旅行商品に適されるか否かという問題についても、本書の解説は、旅行業者と旅行者の間の標準約款に終始し、仕入れ取引は契約当事者外の法律関係に過ぎないとして何も解説していない。運送業者、宿泊業者と旅行会社の間での訴訟が一般的ではないことから、仕方がないのであるが、MaaSなどコロナ後の人流論の展開には論議が不可欠である。
関連記事
-
-
動画で考える人流観光学 『ビルマ敗戦行記』(岩波新書)2022年8月27日
明日2022年8月28日から9月12日までインド・パキスタン旅行を計画。ムンバイ、アウランガバード
-
-
2019年11月9日日本学術会議シンポジウム「スポーツと脳科学」聴講
2019年11月9日日本学術会議シンポジウム「スポーツと脳科学」を聴講してきた。観光学も脳科学の
-
-
ピアーズ・ブレンドン『トマス・クック物語』石井昭夫訳
p.117 観光tourismとは、よく知っているものの発見 旅行travelとはよく知られていな
-
-
『チベットの娘』リンチェン・ドルマ・タリン著三浦順子訳
河口慧海のチベット旅行記だけではなく、やはりチベット人の書物も読まないとバランスが取れないと思い、標
-
-
書評 AIの言語理解について考える」川添愛 学士会報940号P.42
分類がわかりやすい 1 今のAIは人間の言葉を理解している。 理解
-
-
『官僚制としての日本陸軍』北岡伸一著 筑摩書房 を読んで、歴史認識と観光を考える
○ 政治と軍 「軍が政治に不関与」とは竹橋事件を契機に明治政府が作ったことである。そもそも明治国家
-
-
山泰幸『江戸の思想闘争』
社会の発見 社会現象は自然現象と未分離であるとする朱子学に対し、伊藤仁斎は自然現象
-
-
『昭和史』岩波新書青本 恐慌の影響で、朝鮮人(日本国籍がある)の満州移住が増加したが、中国側は日本の手先と見て敵視 奉天の柳条溝で満州事変 この頃からメディアも変わる
26年と30年を比較すると中国(満蒙含む)の輸出入貿易額に占める対日貿易額の占める割合は低下した
-
-
Quora 日本が西洋諸国の植民地にならなかったのは何故だと思いますか?
https://jp.quora.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%8C%
-
-
『カシュガール』滞在記 マカートニ夫人著 金子民雄訳
とかく甘いムードの漂うシルクロードの世界しか知らない人には、こうした動乱の世界は全く想像を超えるも