*

「食譜」という発想 学士會会報 2017-Ⅳ 「味を測る」 都甲潔

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 出版・講義資料, 脳科学と観光

学士會会報はいつもながら素人の私には情報の宝庫である。観光資源の評価を感性を測定することで客観化しようという提案をさせてもらっているが、味もしかりである。フードツーリズムを提唱する観光研究者に是非読んでもらいたい一文である。
なお、一昨日敬愛する農業学者の神門善久氏と久しぶりに話をした。氏は日本の農業をダメにしたのは消費者であり、消費者の味覚の劣化であると唱えられている。私も同感であるが、この一文を参考すれば客観化できるかもしれない。ただし、昔の日本人の味覚を示すデータがないので食譜の重要性を認識した次第である。

筆者は「味」は測ることができるのであろうかと問題を投げかける。語感のなかで視覚、聴覚、触覚は記録と再生ができ、結果コミュニケーション可能であるとされる。
なお、聴覚の方はレコードとNHKが民謡に普及に寄与したと観光では理解しており、民謡は古いものではないと私はりかいしていたが。
氏は、味覚と臭覚は不可能であるように思えると次に問題を投げかけ、「味覚センサー」の開発でかなり変わってきているという。

私たちが心に思い、言葉にする味は、五感が統合された感覚であり、主観そのものである。ところが下で感じる味はどうであろうか。味細胞は各味質に対応し分化している。そのため、味細胞から味神経、そして脳へ味情報が伝えられえる際に大きな信号処理はなされない。この事実は、化学物質に由来する味は、既に舌のレベルで決定しているということである。以上から「脳で感じる味」と「舌で感じる味」が違うことに気づかされる。味覚センサーはこの「舌で感じる味」を数値化するものである。

味には5つの基本味がある。甘味、塩味、苦味、酸味、うまみである。これに物理的感覚でもある渋味と辛味が加わる。辛味や痛みは温度感覚である厳密には味覚ではない。渋味は味覚と触覚の中間の味と考えられており、味覚では苦味に類する。

味覚センサーは今から30年近く前の1989年に発明された。ヒトの感じる基本味の数値化に成功している。化学物質ではなく味質に選択性を示すのである。
この味認識装置は多くの食品へ適用され、その味の定量化ならびに新食品の開発に利活用されている。

味覚センサーの電圧出力は味強度に変換されるが、その際、ヒトの識別能が化学物質濃度の1.2倍以上という性質を利用する。つまり、人は1.2倍より小さな違いを識別できない。アサヒスーパードライは苦味を抑制、その後の第三のビールはさらに苦味が抑えられ、酸味を増やした傾向にある。世界のビールを同様に測定したが、日本のビールの占める味の位置と大差ないことが判明した。「味を目で見る」とことができるのである。

味覚センサーに記録された味のデータベースは味の譜面「食譜」である。楽譜があるから二百年以上前のベートーベンを再現して聞くことができる。
日本航空の機内で提供されるコーヒーは、食譜により味を実現したものである

氏は「味覚センサーは日本で発明されたものである。これらのセンサーの作る日本発のデータベース並びに人の官能によるデータベースの共有は、新しい時代を予見させる。」と締めくくるが、官能のデータベースは、まさに感性のデータベースであり、感性アナライザーを用いた我々の実験が大きく採用されることが望まれる。

関連記事

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書) 新書 – 2010/8/17

ピースボートというクルーズ旅行商品があり、かつて週刊誌にその悪評が掲載されたことがある。消費者保護を

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 観光情報論 錯覚

https://youtu.be/WnsXhHJ_HJE

記事を読む

no image

『海外旅行の誕生』有山輝雄著の記述から見る白人崇拝思想

表記図書を久しぶりに読み直してみた。学術書ではないから、読みやすい。専門家でもないので、観光や旅行

記事を読む

no image

生涯弁護人事件ファイル2 広中惇一郎

第一章 報道が作り出す犯罪 安部英医師薬害エイズ事件 アメリカの人気番組 LAW &

記事を読む

自動運転車の可能性『ロボットは東大に入れるか』新井紀子

自動運転車の可能性は、「自動」の定義にもよるが、まったく人間の手を借りないで運転することはかなり遠い

記事を読む

no image

Quoraなぜ、当時の大日本帝国は国際連盟を脱退してしまったのですか?なぜ、満州国について話し合ってる中で軍事演習をしてしまったのか、なぜ、当初の目的である権益のほとんどを認められているのに堂々退場したのか。

日本の国際連盟脱退は、満州事変に対するリットン調査団の報告書を受け入れられないと判断して席を蹴った

記事を読む

保護中: 『植物は未来を知っている』ステファノ・マンクーゾ  、動物が必要な栄養を見つけるために「移動」することを選択。他方、植物は動かないことを選び、生存に必要なエネルギーを太陽から手に入れるこにしました。それでは、動かない植物のその適応力を少しピックアップ

『植物は<未来>を知っている――9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』(ステファノ・マンクーゾ著、

記事を読む

no image

『カジノの歴史と文化』佐伯英隆著

IRという言葉の曖昧さ p.198 シンガポールにしても、世界から観光客を集める手法として、

記事を読む

no image

日本銀行「失敗の本質」原真人

黒田日銀はなぜ「誤算」の連続なのか?「異次元緩和」は真珠湾攻撃、「マイナス金利」はインパール作戦

記事を読む

no image

Quora Ryotaro Kaga·2019年8月1日Sunway University在学中 (卒業予定年: 2024年)なぜこんなに沢山の日本人女性が未婚なのですか?

Ryotaro Kaga·2019年8月1日Sunway University在学中 (

記事を読む

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

2025年11月22日地球落穂ひろいの旅 プンタアレナス

旅程作成で、ウシュアイアとプンタアレナスの順序を考えた結果、パスクワか

2025年11月19日~21日 地球落穂ひろいの旅イースター島(ラパヌイ) 

チリへの訪問は2014年に国連加盟国 として訪問済み。イースタ

2025年11月17日 アメリカ合衆国(国連加盟国5か国目)ワシントン州(19番目の州) ポイントロバーツ

アメリカ合衆国は、アラスカ、ニューヨーク、(DC)、ヴァージニア、イリ

→もっと見る

PAGE TOP ↑