*

伝統は後から作られる例 関西は阪神フアンという伝統

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 伝統・伝承(嘘も含めて), 観光資源

これも学士會会報の記事、何時も面白い話をしてくれる井上章一氏の「ゆがめられた関西像」

戦後しばらく関西では巨人が大人気だった。映像記録を見ると1962年阪神が優勝を決めた当日の甲子園球場はガラガラであったそうだ。阪神電鉄の鉄道輸送記録や付帯収入も調べてみると面白いかもしれない。阪神フアンが増えたのはごく近年の現象なのだそうだ。ほとんどの子が巨人の帽子をかぶりあとは数名、南海の帽子をかぶっていた。

戦前は、人々は地元のライバル会社の大戦に興味を持った。「反東京」「反読売」という考え方にあおられる客はほとんどいなかった。
最初に「反巨人」に燃えたのは南海フアンだった。別所投手引き抜き事件の影響。1959年エース杉浦で日本一は私・寺前も子供頃で記憶があり、確かに阪神フアンは少なかったような気がする。私もテレビ中継がある巨人のフアンだったが、友達が「巨人フアンの野球知らず」といっていたことを思い出す。

新聞社の販売競争から二リーグ制が始まる。阪神は春の甲子園を毎日新聞に支えてもらっている恩義から、パリーグにゆく口約束をしていたが、セリーグに残留してしまった。怒った毎日新聞は阪神から有力選手を引き抜いた。この時に阪神フアンに「反毎日」感情が発生。まだ「反東京」ではなかった。

1959年の天覧試合、これも私はテレビで見た記憶がある。天覧試合の相手は阪神である必要はなかった。つまり巨人のライバルではなかった。その天覧試合の最終回、村山が長嶋のホームランでサヨナラ負けをしたことにより、「反巨人」の阪神フアンが誕生したと井上先生は解説されている。

「「あほらしいと思われることが、結構私たちを左右している」という信念のもと私はこれからもこうした研究を続けていきたいと思っています」と井上先生は締めくくっている。私も何時頃からか巨人も野球もどうでもよくなったが、伝統と思われていることが結構新しいということには相変わらず興味が尽きないのである。

関連記事

no image

原田信男著『義経伝説と為朝伝説』

伝説においては、歴史学の大原則ともいうべきテキストクリティック(史料批判)は必要とされない。資料の一

記事を読む

no image

『創られた伝統』

第一に、全ての「伝統」は歴史の中で恒常的に取捨選択された結果であり、長年の「伝統」であれ、その都

記事を読む

no image

『源平合戦の虚像を剥ぐ』川合康著 歴史は後から作られる

源平の合戦は全国で、観光資源として活用されている。「平家物語」の影響するところが大きい。また、文

記事を読む

no image

『サカナとヤクザ』鈴木智彦著 食と観光、フードツーリズム研究者に求められる視点

築地市場から密漁団まで、決死の潜入ルポ! アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大

記事を読む

no image

「元号と伝統」横田耕一 学士會会報No.937pp15-19

元号の法制化に求めた人々に共通する声は元号は「日本文化の伝統である」というものだった。 一世

記事を読む

no image

天児慧著『中国政治の社会態制』岩波書店2018を読んで

中国民族は概念としては梁啓超以来使われていたが実体のないものであった。 それを一挙に内実化し実体を

記事を読む

no image

『カジノの歴史と文化』佐伯英隆著

IRという言葉の曖昧さ p.198 シンガポールにしても、世界から観光客を集める手法として、

記事を読む

no image

伝統は古くない 『大清帝国への道』石橋嵩雄著を読んで

北京語 旗人官僚が用いていた言語 山東方言に基づく独自の旗人漢語を北京官話に発展させた チャイナド

記事を読む

no image

八鍬友広著『闘いを記憶する百姓たち』

自力救済の時代は悲惨であった。権力が確立すると訴訟によることとなり、平和が確立される。 江戸時代は

記事を読む

動画で考える人流観光学 観光資源論 フィリピンセブ島刑務所の囚人ダンス

フィリピンセブ島観光・旅行【決定版】絶対にするべき39スポット&アクティビティ http://ce

記事を読む

PAGE TOP ↑