化石燃料は陸上生物の生息域の保全に役立っている 堅田元喜
公開日:
:
最終更新日:2021/08/05
出版・講義資料
https://cigs.canon/article/20201228_5529.html
化石燃料には環境に対しても好影響(環境便益)がある。例えば、化石燃料技術は窒素肥料や農薬の製造に使われて農業の生産性を飛躍的に向上させ、それによって生物の生息域の減少を抑えてきた。また、自然環境でのCO2施肥効果によって陸上植生の面積も増やしてきた。本稿では、関係者にはあまり知られていないこれらの影響について、最近発表された学術論文が紹介されながら解説されている。

Goklany (2020) 注8)は、上記の仮説を定量的に確かめるために、次の3つの化石燃料技術による農作物の生産性の向上率を推計した:
1)天然ガスもしくは石炭を利用した窒素肥料の合成技術(ハーバーボッシュ法)とその普及による効果。2008年時点での窒素施肥により増加した食料に依存する世界人口の推計値の全体からそれを除いた世界人口に対する割合(92.3%)を窒素肥料による生産向上率と仮定;
2)石油を原料とした農薬の合成技術と普及による効果。農薬による害虫駆除によって向上しうる6つの主要な農作物(大豆、小麦、トウモロコシ、米、じゃがいも、綿)の生産量をそれぞれの作物が占める農地面積で重み付けすることで全作物の生産向上率を算出し(104.3%)、その値に化石燃料を使用することで増加する作物防護効率の割合(25%)をかけた26.1%の生産向上率を仮定;
3)化石燃料の燃焼に伴う世界の大気中CO2濃度の増大による効果(CO2施肥効果注7)で解説)。277 ppm(1755年)から412 ppm(2019年)の間に15.8 %注15)もしくはそれ以上の作物生産量の増加が見込まれているが、保守的な値(10%)を仮定。
世界中の食文化が共通化、低廉化 観光化
仮に化石燃料を使用しなかった場合、2019年現在の世界人口を維持するためにはどのくらいの農地面積が必要となっただろうか?上記3つの効果が作物生産に対してそれぞれ独立に作用するとすれば、現在の世界の食料生産量は化石燃料の恩恵によりそれを使用しなかった場合に比べて2.67倍(1.923 x 1.261 x 1.1)増加している。現在の食料需要が変わらないとすれば、化石燃料を使用しない場合には農地面積を167%増加させなければならない。これは世界の陸地面積の20%に相当し、化石燃料技術によってこの面積が農地への転用を免れてきたということを意味する(図2a)。Goklany (2020) 注8)は、化石燃料技術を使用しなかった場合には、世界の残された自然保護区(世界の陸地面積の15%;UNEP-WCMC and IUCN, 2019)が脅かされてしまう危険性を指摘している(図2b)。なお、急激に温暖化が進む場合には生態系への影響が懸念されており、その結果生じうる悪影響は上述した環境便益とはトレードオフの関係にある(図2a)。ただし、今のところ地球温暖化が原因となって絶滅したとされる種などは見つかっていない(IPCC第5次評価報告書)。

関連記事
-
-
『婚姻の話』 柳田國男
日本は見合い結婚の国、それが日本の伝統文化である、という説に、柳田ははっきりノーを突き付ける。
-
-
歴史認識と書評『1945 予定された敗戦: ソ連進攻と冷戦の到来』小代有希子
「ユーラシア太平洋戦争」の末期、日本では敗戦を見込んで、帝国崩壊後の世界情勢をめぐる様々な分析が行
-
-
『昭和史』岩波新書青本 恐慌の影響で、朝鮮人(日本国籍がある)の満州移住が増加したが、中国側は日本の手先と見て敵視 奉天の柳条溝で満州事変 この頃からメディアも変わる
26年と30年を比較すると中国(満蒙含む)の輸出入貿易額に占める対日貿易額の占める割合は低下した
-
-
『サイボーグ化する動物たち 生命の操作は人類に何をもたらすか』作者:エミリー・アンテス 翻訳:西田美緒子 白揚社
DNAの塩基配列が読破されても、その配列の持つ意味が分からなければ解読したことにはならない。本書の冒
-
-
『日本車敗北』村沢義久著 アマゾンの手厳しい書評
車の将来の議論の前提に、地球温暖化への見解 ガソリン車 電気自動車 エンジンではな
-
-
消費と観光のナショナリズム 『紀元二千六百年』ケネスルオフ著
今観光ブームでアトキンス氏がもてはやされている。しかし、観光学者なら「紀元二千六百年」を評価すべ
-
-
『不平等生成メカニズムの解明』「移民はどのようにして成功するのか」竹中歩・石田賢示・中室牧子
「移民はどのようにして成功するのか」竹中歩・石田賢示・中室牧子『不平等生成メカニズムの解明』ミネルバ
-
-
『ニッポンを蝕む全体主義』適菜収
本書は、安倍元総理殺害の前に出版されているから、その分、財界の下請け、属国化をおねだりした日本、
-
-
『戦後経済史』野口悠紀雄著 説得力あり
ドッジをあやつった大蔵省 シャープ勧告も大蔵省があやつっている。選挙がある民主主義では難しいこと
-
-
動画で考える人流観光学 マクスウェルの悪魔
【物理学150年の謎を日本人教授が解明】マクスウェルの悪魔が現れた!/東京大学 沙川貴大教授/教え子