奢侈禁止令とGOTOキャンペーン (ジャパンナウ原稿)
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最終更新日:2021/08/05
ジャパンナウ観光情報協会, 出版資料
個性を重視するはずのものである観光は、本来権力とは無縁であり、権力を前提とする政策と結びついた観光政策は、本質的に内部不協和なものを内包する。
古今東西、贅沢は一種の犯罪であると考えられてきた。儒教では、贅沢は君臣・尊卑の名と分からの逸脱を意味するとされ、社会秩序に対する重大な挑戦と考えられていた。カトリックにおいては、享楽的な生活に対する神の怒りが黒死病などの疫病や戦乱を生み出していると考えられてきた。
日本でも、江戸期にたびたび奢侈禁止令が出されたが、遵守されたのは直後のみで時間が経つにつれて違反するものが相次いだ。上の身分の者が下の者に下賜された衣装を実際に着用した場合には、儒教の忠の観念との兼ね合いから黙認せざるを得なかったから、知恵比べであった。贅沢は敵とする戦争時でも、聖地訪問の名のもとに奈良や満州への旅行が行われ、1942年がピークであったから驚きである。戦後復興期、厚生省の施策の元、国民宿舎等公共の宿が整備されたが、ソーシャルツーリズムの名の下に行われた。字句ツーリズムを使用して奢侈のイメージを回避したのは今も同じである。
黒死病の時代と異なり、コロナ期の日本ではGOTOキャンペーンが実施され、財政資金により庶民に観光旅行を奨励することとなった。バブル期にも外貨減少策として海外旅行の奨励策(テンミリオン計画)が実施されたが、せいぜい税制上の措置程度であったから、GOTOはさらに一歩踏み出したわけである。
このGOTOキャンペーンは、規制がある運賃や宿泊料金の下では、実旅行者への補助金として実施されているが、実質は旅行業や宿泊業の救済策として行われている。制度設計に問題があるのであろう。ネットサイトQuoraに「GOTOを使って遊ぶための旅行はいいのに、大学施設を利用して勉強するための旅行はなぜダメ」と投稿されたが、そろそろ、観光概念からはなれた人流概念を考える時である。
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