奢侈禁止令とGOTOキャンペーン (ジャパンナウ原稿)
公開日:
:
最終更新日:2023/05/20
ジャパンナウ観光情報協会
個性を重視するはずのものである観光は、本来権力とは無縁であり、権力を前提とする政策と結びついた観光政策は、本質的に内部不協和なものを内包する。
古今東西、贅沢は一種の犯罪であると考えられてきた。儒教では、贅沢は君臣・尊卑の名と分からの逸脱を意味するとされ、社会秩序に対する重大な挑戦と考えられていた。カトリックにおいては、享楽的な生活に対する神の怒りが黒死病などの疫病や戦乱を生み出していると考えられてきた。
日本でも、江戸期にたびたび奢侈禁止令が出されたが、遵守されたのは直後のみで時間が経つにつれて違反するものが相次いだ。上の身分の者が下の者に下賜された衣装を実際に着用した場合には、儒教の忠の観念との兼ね合いから黙認せざるを得なかったから、知恵比べであった。贅沢は敵とする戦争時でも、聖地訪問の名のもとに奈良や満州への旅行が行われ、1942年がピークであったから驚きである。戦後復興期、厚生省の施策の元、国民宿舎等公共の宿が整備されたが、ソーシャルツーリズムの名の下に行われた。字句ツーリズムを使用して奢侈のイメージを回避したのは今も同じである。
黒死病の時代と異なり、コロナ期の日本ではGOTOキャンペーンが実施され、財政資金により庶民に観光旅行を奨励することとなった。バブル期にも外貨減少策として海外旅行の奨励策(テンミリオン計画)が実施されたが、せいぜい税制上の措置程度であったから、GOTOはさらに一歩踏み出したわけである。
このGOTOキャンペーンは、規制がある運賃や宿泊料金の下では、実旅行者への補助金として実施されているが、実質は旅行業や宿泊業の救済策として行われている。制度設計に問題があるのであろう。ネットサイトQuoraに「GOTOを使って遊ぶための旅行はいいのに、大学施設を利用して勉強するための旅行はなぜダメ」と投稿されたが、そろそろ、観光概念からはなれた人流概念を考える時である。
関連記事
-
-
🌍🎒ジャパンナウ原稿「アフリカ大陸中南部の旅行から見えたもの」
2月の10日から27日までアフリカ大陸中南部の14か国を駆け足で旅行した。航空機の予約はGoog
-
-
杉原幸吉先生の「錯覚観光」 ジャパンナウ観光情報協会セミナー
杉原幸吉先生の錯覚の研究についてはこれまでも紹介してきたので省略して、今回のセミナーで気付いたことを
-
-
デジタル化と人流観光(ジャパンナウ観光情報協会原稿)
ジャパンナウ3月号1400字原稿 デジタル化と人流・観光(1) 通信の秘密が大日本
-
-
ジャパンナウ第百号原稿 中国を中心とした観光社会の予感
ジャパンナウ観光情報協会の情報誌も今回で百号になります。私も「NPOから提言しま
-
-
2022年8月ジャパンナウ観光情報協会原稿 アフターコロナという名の観光論 原稿資料
◎ジャパンナウ原稿案 2020年冬から始まった新型感染症は日本の人流・観光業界に
-
-
ジャパンナウ観光情報協会7月号 ミャンマー散骨旅行記(1)
九十六歳の父親がイラワジ川散骨を希望して旅立った。子供の頃モールメンライターやシャン族の話を聞かされ
-
-
🌍👜台湾のこと(高寛氏の講演)
台湾協会の理事高寛氏の話を聞いた。元三井物産台湾支店長を務めた方である。若い頃、中国語を教えてもらっ
-
-
ジャパンナウ原稿 視覚 過去・現在・未来の時制(概念)が生 まれるのは、言語の使用つまり概念記憶となってからである。
生物に目という臓器ができて、進化の過程で人間にも目ができあがって、宇宙空間を飛んでいる光子を目
-
-
2015年1月16日ジャパン・ナウ観光情報協会 観光立国セミナー 用語「観光」について
本日は、観光とツーリズムをめぐって論議をさせてもらっている溝口周道氏の講演でした。 やはり期待
-
-
位置情報革命が生み出す黒船Uberと自動運転車 (ジャパンナウ観光情報協会2014年1月)
GPS、スマートフォンの登場により位置情報の手軽な把握が可能となった。ネット検索最大手のGOOGLE
