南米「棄民」政策の実像 遠藤十亜希著 岩波現代全書 最も南米移民を排出したのが最貧困地帯たる東北ではなく北部九州~山陽ラインだったのは何故か?
公開日:
:
最終更新日:2023/05/29
出版・講義資料
19世紀末から20世紀半ばまで、約31万人の日本人が、新天地を求めて未知の地ラテンアメリカに移住した。その多くは、日本政府が奨励・支援した「国策移民」だった。従来人口増加や貧困への対策とされてきた日本の移民政策が、「不要な人々」を国内から排除し、海外で利用するためのものであったことを明らかにする。
書評1
在米日本人研究家の長期にわたる研究の成果。膨大な資料を掘り起こして南米国策移民の歴史からニッポンの矛盾をあぶりだす、この本で最も興味深く、スリリングだったのが、最も南米移民を排出したのが最貧困地帯たる東北ではなく北部九州~山陽ラインだったのは何故か?を考察する章である。『大正時代』は実は『革命前夜』だった?それが本当に実像に沿っているのか判らない。著者は興奮のあまり筆をすべらせた感がある。60年安保について触れた部分の書きぶりにいささか針小棒大の気があるし、キム・ジョンミが指摘したように水平社の運動には限界があった。とはいえ、労働者・農民・部落民さらには沖縄や朝鮮からの移民たちが連帯し、軍隊の鎮圧に対し武力で抵抗することも厭わない運動体が、このニッポンにも存在していた時代があった、という物語には何かそそられるものがある。それが過大評価であったとしても。近代日本に対してそのようなイメージを描くことが難しいのは何故なのか?を問わなければならない。
関連記事
-
-
「起業という幻想」白水社 スコット・A・シェーン 職を転々として起業に身をやつす米国人の姿は、産学官が一体になって起業を喧伝する日本社会に一石投じることは間違いない。
マイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルを立ち上げたス
-
-
書評『法とフィクション』来栖三郎 東大出版会
観光の定義においても、自由意思を前提とするが、法律、特に刑法では自由意思が大前提。しかし、フィク
-
-
『サカナとヤクザ』鈴木智彦著 食と観光、フードツーリズム研究者に求められる視点
築地市場から密漁団まで、決死の潜入ルポ! アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大
-
-
橋本健二 『格差と階級の戦後史』
この社会はどのようにして、現在のようなかたちになったのか?敗戦、ヤミ市、復興、高度成長、「一億総
-
-
『休校は感染を抑えたか』朝日新聞記事
https://www.asahi.com/articles/ASP6J51TNP6CULEI0
-
-
『一人暮らしの戦後史』 岩波新書 を読んで
港図書館で『一人暮らしの戦後史』を借りて読んでみた。最近の本かと思いきや1975年発行であった。
-
-
筒井清忠『戦前のポピュリズム』中公新書
p.108 田中内閣の倒壊とは、天皇・宮中・貴族院と新聞世論が合体した力が政党内閣を倒した。しかし、
-
-
『ミルクと日本人』武田尚子著
「こんな強烈な匂いと味なのに、お茶に入れて飲むなんて!」牛乳を飲む英国人を見た日本人の言葉である。
-
-
書評『ペストの記憶』デフォー著
ロビンソン・クルーソーの作者ダニエル・デフォーは、17世紀のペストの流行に関し、ロンドン市長及び
-
-
『ざっくりとわかる宇宙論』竹内薫
物理学的に宇宙を考察すればするほど、この宇宙がいかに特殊で奇妙なものかが明らかになる。マルチバー
