『飛躍への挑戦』葛西敬之著
公開日:
:
最終更新日:2021/08/05
出版・講義資料
図書館で取り寄せて読んだ。国鉄改革については、多くの公表著作物に加え、これからオーラルヒストリが世に出回るにつれ、徐々に評価が定まってくるのであろう。しかしその評価は歴史評価であり、その時代の評価ということになる。
先日も労働運動関係者のオーラルヒストリーを読んだが、加藤寛教授は組合関係者から味方だと思われていたが、後で裏切られたことが出ていた。そのことを知っている人もいたかもしれないが、私には初めての認識だったので驚いた。夏休みシーズン、国鉄再建監理委員会出向者が加藤先生のお供で欧州視察旅行に行ったことを知っていたので、最初から改革派だと思っていた。
本書のAmazon書評を見ると、アンチ葛西の人が多く書き込みをしているので、あまり参考にならない。ただ、世代の違いを感じさせられる。
国鉄改革関係は、要約に近いので他書に譲るとして、リニアに関しては私なりに参考になった。本によると葛西氏がおこなった宮崎の実験線を山梨に移動させる運動に関し、記者会見に立ち会い、石原運輸大臣の鶏小屋発言があったことを思い出した。エムスランドのリニア視察のアレンジにも従事した。ドイツ大使館から、何故この寒い時期に、実験もされていないところを訪問するのか問われたことを思いだす。ついでに、SPは拳銃を持参するのかと聞かれて驚いたことも思い出す。
JR東海の責任者であるから当然、東海道新幹線の輸送量や運賃に関し、東京・大阪間の航空との比較を詳しく記述されている。私も葛西氏に全く同感で、国鉄の巨大債務は首都圏の巨大投資と負担利子に大きく原因しており、そのつけを東京大阪間利用者に負担させることには問題があると考えていた。結果、羽田拡張や関空二期建設に貢献したことになり、航空会社の経営に寄与しているわけである。新幹線運賃が3分の2程度になれば、東京・大阪便は全滅であり、岡山・広島も鉄道の勝ちとなる。しかし、今回のコロナ禍で、東京・大阪間の人流がストップしても、日本社会はマヒしなかった。神戸震災時はスマホもなく人流は情報ツールでもあったのか、影響が出た。東北震災では物流がマヒした。改めて、幹線交通の社会的存在意義を考え直させられる機会を与えてくれたと思っている。制度上東海地震の予知宣言が発令されれば、新幹線、高速道路の輸送能力に影響がでることとなるが、人流は問題がないかもれない。
当時の国鉄幹部の大半が新幹線建設に反対するなかで、十河総裁、島技師長が押し切って完成させた。葛西氏が令和の十河になられんこと祈念している。
関連記事
-
-
『昭和史』岩波新書青本 恐慌の影響で、朝鮮人(日本国籍がある)の満州移住が増加したが、中国側は日本の手先と見て敵視 奉天の柳条溝で満州事変 この頃からメディアも変わる
26年と30年を比較すると中国(満蒙含む)の輸出入貿易額に占める対日貿易額の占める割合は低下した
-
-
観光資源評価の論理に使える面白い回答 「なぜ中国料理は油濃いのか」に対して、「日本人は油濃いのが好きなのですね」という答え
中華料理や台湾料理には、油を大量に使用した料理が非常に多いですが、そうなった理由はあるのでしょうか
-
-
保護中: 『中世を旅する人びと』 阿部 謹也著を読んで
西洋中世における遍歴職人の「旅」とは、糧を得るための苦行であり、親方の呪縛から解放される喜びでもあっ
-
-
脳科学 ファントムペイン
四肢の切断した部分に痛みを感じる、いわゆる幻肢痛(ファントムペイン)は、脳から送った信号に失った
-
-
明治維新の評価 『経済改革としての明治維新』武田知弘著
明治時代の日本は世界史的に見て非常に稀有な存在である。19世紀後半、日本だけが欧米列強に対抗し
-
-
「米中関係の行方と日本に及ぼす影響」高原明生 学士會会報No.939 pp26-37
金日成も金正日も金正恩も「朝鮮半島統一後も在韓米軍はいてもよい」と述べたこと 中国支配を恐れてい
-
-
【ゆっくり解説】【総集編】ガチで眠れなくなる「生物進化」の謎6選を解説/ミッシ ングリンク、収斂進化、系統樹、生命起源【作業用】【睡眠用】
https://youtu.be/ACEmkF1-g88
-
-
『知の逆転』吉成真由美 NHK出版新書
本書はジャレド・ダイアモンド、ノ―ム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、ト
-
-
「元号と伝統」横田耕一 学士會会報No.937pp15-19
元号の法制化に求めた人々に共通する声は元号は「日本文化の伝統である」というものだった。 一世
-
-
ピアーズ・ブレンドン『トマス・クック物語』石井昭夫訳
p.117 観光tourismとは、よく知っているものの発見 旅行travelとはよく知られていな
