*

「若者の海外旅行離れ」という 業界人、研究者の思い込み

公開日: : 最終更新日:2023/05/20 ジャパンナウ観光情報協会, 出版・講義資料, 観光学評論等

『「若者の海外旅行離れ」を読み解く:観光行動論からのアプローチ』という法律文化社から出版された書籍があり、日本学術学会から平成28年度著作賞を受けている。この出版は、JATAの報告書をうのみにしているからであろうが、ジャパンナウ観光情報協会の機関紙に、この認識が誤りではないかという雑文を掲載しておいた。

https://www.japannow.org/infomation/PDF/JN132

観光庁のHPに「近年、若者の旅行離れ、特に海外旅行離れに関するさまざまな指摘がされ」「若者旅行の振興に取り組んでいます」とある。その判断の基礎には、2007年の日本旅行業協会が行った調査があると思われる。しかし、某大学観光学部の教科書作成のため調査したところ、そのような傾向は見当たらず、むしろ日本人青年の旅行行動は、欧州主要国と比較して国際的にも遜色がないものであることが分かった(表1)。誤解された原因は、若者人口の絶対数が減少していることと、旅行を牽引してきた団塊世代が旅行しなくなったこと(表2)にある。それよりショッキングな表・グラフがある(表3)。一目瞭然で日本の地位の低下がわかる。1995年をピークに日本の海外旅行力が低下し他国の力(灰色部分)が増加している。世界の旅行市場が大きく拡大(灰色部分)しているにもかかわらず、日本の送り出し市場は縮小し、増加したインバウンド市場はそれを補うだけの拡大もしていないということがわかる。他国との比較において、実際に旅行をする日本人の海外、国内におけるパフォーマンスは悪くなく、日本人全体としての出国数が長期に横這いの間に、多くの国に追い抜かれ、日本のプレゼンスが低下したのである。現状維持のまま推移しているうちに、極東諸国民の行動が向上し、我々の周りに増加した。それをインバウンドと称し、日本の文化が見直されたと思ったのであろう。失われた25年が観光の世界でも理解できる。

政府は訪日外客数の目標を2000万人から4000万人(2020年目標)に改定している。観光立国推進基本法の理念が国の誇りにあり、国際社会にふさわしい外客数の確保にあるとする限り、4000万人の目標は日本の人口の33%程度であり国際水準からすれば妥当である。 訪日客の増加以上に受取額は増加し、2018年に日本4210億ドルと初めて中国を上回った。外客数、受取額の増加にもかかわらず日本のドル建てGDPは増加せず、むしろ減少している。所得水準において、北はアイスランドから南はハワイに至るまで、日本のローカル地域は大きく水をあけられ、珠江デルタの都市住民にも日本の地方住民は所得で追い抜かれつつある。日本国民の所得を伸ばすことができれば、出国率も高まり、観光立国推進基本法が目的とする、国の誇り、地域の誇りの確保もはかれるのである。

関連記事

『庶民と旅の歴史』新城常三著

新城 常三(1911年4月21日- 1996年8月6日)は、日本の歴史学者。交通史を専門とした。1

記事を読む

no image

ゲルニカ爆撃事件の評価(死者数の大幅減少)

歴史には真実がある。ただし人間にできることは、知りえた事実関係の解釈に過ぎない。もっともこれも人間

記事を読む

角本良平著『高速化時代の終わり』を読んで

久しぶりに金沢出身の国鉄・運輸省OBの角本良平氏の『高速化時代の終わり』を読んでみた。本を整理してい

記事を読む

no image

『芸術を創る脳』酒井邦嘉著

メモ  P29 言葉よりも指揮棒を振ることがより直接的  P36 レナードバースタイン 母校ハー

記事を読む

no image

『地方創生のための構造改革』第3章観光政策 論点2「日本における民泊規制緩和に向けた議論」(富川久美子)の記述の抱える問題点

博士論文審査でお世話になった溝尾立教大学観光学部名誉教授から標記の著作物を送付いただいた。NIRAか

記事を読む

『フクシマ戦記 上・下』船橋洋一   菅直人の再評価

書評1 2021年4月10日に日本でレビュー済み国民の誰もがリアルタイムで経験した

記事を読む

『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』 (幻冬舎新書) 加谷 珪一 

題名にひかれて、三田図書館で借りて読む。表題は営業用に編集者がつけたのであろう。先進国が消費拡大

記事を読む

no image

ハーディ・ラマヌジャンのタクシー数

特殊な数学的能力を保有する者が存在する。サヴァンと呼ばれる人たちだが、どうしてそのような能力が備わ

記事を読む

no image

『新・韓国現代史』 文京洙著 岩波書店 を読んで、日韓観光を考える。

東アジアの伝統的秩序は、中国中心の華夷理念のもとに、東アジアの近隣諸国が朝貢・冊封の関係において秩序

記事を読む

no image

観光資源の評価に係る例 米国の有名美術館に偏り、収蔵作品は「白人男性」に集中

https://www.technologyreview.jp/s/117648/more-th

記事を読む

2025年11月17日 アメリカ合衆国(国連加盟国5か国目)ワシントン州(19番目の州) ポイントロバーツ

アメリカ合衆国は、アラスカ、ニューヨーク、(DC)、ヴァージニア、イリ

2025年11月17日 カナダ(国連加盟国15か国目)コロンビア州 バンクーバー

米カナダ人流 https://news.yahoo.co.jp/ar

2025.11月17日~27日 地球落穂ひろいの旅 計画作成

蔵前仁一 旅はだれでもでき、特別なことはないという。 落穂ひ

AIとの論争 住むと泊まる

AIさん、質問します。世間では民泊の規制強化が騒がれて

no image
日本の温泉地盛衰記分析 Youtubeリスト

飯坂温泉 最盛期170万 4分の一 https://www.youtu

→もっと見る

PAGE TOP ↑