若者の課外旅行離れは本当か?観光学術学会論文の評価に疑問を呈す
「若者の海外旅行離れ」を読み解く:観光行動論からのアプローチ』という法律文化社から出版された書籍があり、観光学術学会から平成28年度著作賞を受けている。
しかしながら、日本人の若者は海外旅行離れをしていないという記事をNPO法人ジャパンナウ観光情報協会の機関紙2020.07号に掲載しておいた。
観光庁のHPに「近年、若者の旅行離れ、特に海外旅行離れに関するさまざまな指摘がされ」「若者旅行の振興に取り組んでいます」とある。その判断の基礎には、2007年の日本旅行業協会が行った調査があると思われる。しかし、某大学観光学部の教科書作成のため調査したところ、そのような傾向は見当たらず、むしろ日本人青年の旅行行動は、欧州主要国と比較して国際的にも遜色がないものであることが分かった(表1)。誤解された原因は、若者人口の絶対数が減少していることと、旅行を牽引してきた団塊世代が旅行しなくなったこと(表2)にある。それよりショッキングな表・グラフがある(表3)。一目瞭然で日本の地位の低下がわかる。1995年をピークに日本の海外旅行力が低下し他国の力(灰色部分)が増加している。世界の旅行市場が大きく拡大(灰色部分)しているにもかかわらず、日本の送り出し市場は縮小し、増加したインバウンド市場はそれを補うだけの拡大もしていないということがわかる。他国との比較において、実際に旅行をする日本人の海外、国内におけるパフォーマンスは悪くなく、日本人全体としての出国数が長期に横這いの間に、多くの国に追い抜かれ、日本のプレゼンスが低下したのである。現状維持のまま推移しているうちに、極東諸国民の行動が向上し、我々の周りに増加した。それをインバウンドと称し、日本の文化が見直されたと思ったのであろう。失われた25年が観光の世界でも理解できる。
政府は訪日外客数の目標を2000万人から4000万人(2020年目標)に改定している。観光立国推進基本法の理念が国の誇りにあり、国際社会にふさわしい外客数の確保にあるとする限り、4000万人の目標は日本の人口の33%程度であり国際水準からすれば妥当である。
訪日客の増加以上に受取額は増加し、2018年に日本4210億ドルと初めて中国を上回った。外客数、受取額の増加にもかかわらず日本のドル建てGDPは増加せず、むしろ減少している。所得水準において、北はアイスランドから南はハワイに至るまで、日本のローカル地域は大きく水をあけられ、珠江デルタの都市住民にも日本の地方住民は所得で追い抜かれつつある。日本国民の所得を伸ばすことができれば、出国率も高まり、観光立国推進基本法が目的とする、国の誇り、地域の誇りの確保もはかれるのである。



関連記事
-
-
『脳の意識 機械の意識』渡辺正峰著 人間は右脳と左脳の2つを持ち,その一方のみでも意識をもつことは確かなので,意識を持っていることが確実である自分自身の一方の脳を機械で作った脳に置き換えて,両脳がある場合と同じように統一された意識が再生されれば,機械は意識を持ちうると結論できる.
Amazon 物質と電気的・化学的反応の集合体にすぎない脳から、なぜ意識は生まれるのか―。多くの
-
-
書評『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳
日本人の簡素な和式の生活への洞察力は、ベルツと同じ。宗教観は、シュリューマンとは逆に伊藤博文等が
-
-
ジャパンナウ観光情報協会機関紙138号原稿『コロナ禍に一人負けの人流観光ビジネス』
コロナ禍でも、世界経済はそれほど落ち込んでいないようだ。PAYPALによると、世界のオンライン
-
-
『知の逆転』吉成真由美 NHK出版新書
本書はジャレド・ダイアモンド、ノ―ム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、ト
-
-
『インバウンドの衝撃』牧野知弘を読んでの批判
題名にひかれて、麻布図書館で予約をして読んでみた。2015年10月発行であるから、爆買いが話題の時代
-
-
生涯弁護人事件ファイル2 広中惇一郎
第一章 報道が作り出す犯罪 安部英医師薬害エイズ事件 アメリカの人気番組 LAW &
-
-
『セイビング・ザ・サン リップルウッドと新生銀行の誕生』ジリアン・テット 武井楊一訳
バブル期の金融問題に関する書籍は数多く出版され、高杉良が長銀をモデルに書いた『小説・ザ・外資』はハ
-
-
千相哲氏の「聞蔵Ⅱ」を活用した論文
「「観光」概念の変容と現代的解釈」という論文を偶然発見した。 http://repository.
-
-
quora 中世、近世のヨーロッパで、10代の女性がどのような生活を送っていたのか教えてくれませんか?貴族階級/庶民とそれぞれ、何をしていたのでしょうか?
何で10代の女性限定なのかよくわかりませんが、知っている範囲で。 中世の庶民は、ほぼ