*

歴史認識と書評『ユダヤ人大虐殺の証人』河出書房新社

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 歴史認識

ユダヤ人虐殺の証人として映画『ショアー』にも出演したポーランド人カルスキの苦悩を描く衝撃の作品。カルスキは密使として、ユダヤ人絶滅政策の恐るべき実態を伝え、「世界の良心」を喚起して虐殺を止めさせようと連合国を訪れるが、大国の首脳陣は彼の言葉に耳を貸そうともしなかった。「民主主義の自由世界」は共犯者なのだ、人類の怠慢、無知、無関心が悲劇を生んだのだというカルスキの悲痛な叫びを、エネルは第一部・第二部をノンフィクション、第三部をフィクションという独創的な手法でリアルに描き出す。アンテラリエ賞、フナック賞受賞。

「ヒトラーのユダヤ人絶滅政策のことを、連合国側はすでに知っていた。ルーズベルトも」といわれて言葉がなかった。先日、天神のバーでひとり飲んでいたら、ひとりの外国人がカウンターにすわり、静かに赤ワインをのみだした。酔いも手伝って、話しかけると、フランスの作家だという。ユダヤ人虐殺の証人、ポーランド人ヤン・カルスキのことを書いた本が、今年、日本語訳されたという。不躾に、あなたの本のオリジナリティは何か?と訊ねたことにたいする答えが冒頭の言葉だ。今まで自分から手にすることはなかった類の本だが、物静かに誠実に語るハンサムな作家に出会った手前、読む羽目になった。ユダヤ人大虐殺は、ホロコーストではなく、ショアーと呼ぶべきであること、戦時中すでに連合国側がナチスのユダヤ人絶滅政策を知っていて、何も実効ある行動にでなかったこと、ドイツとソ連という二つの軍事大国の狭間で翻弄されつづけるポーランドの悲劇、その困難な状況の中でも崇高な精神をもつヤン・カルスキのような誇り高いポーランド人は常にレジスタンスを継続していたこと、をこの本から学んだ。パリに客死したショパンの美しいピアノ曲を、その作曲家の本当の気持ちを知ることなく聴いていたような気がする。

連合軍がアウシュビッツの存在を知った上で、何故か爆撃対象にしない不思議については、以前
他の資料を読んだ時に知ってはいました。
連合軍首脳にアウシュビッツの内情を伝えに行ったのが、まさにヤン・カルスキだったのです。

どうして
 ・ソ連軍はワルシャワ蜂起でポーランド国内軍を見殺しにしたのか?
 ・米英軍は収容所及び収容所に至る線路を爆撃しなかったのか?
 ・米英はカティンの森をナチスのせいだというソ連の主張を鵜呑みにしたのか?
 ・ニュールンベルグ裁判は何故開かれたのか?何を裁いたのか?
などの意味が分かってきます。
勝者は、必ずしも無罪では無いのです。

「ブラックアース~ホロコーストの歴史と警告」ティモシー・スナイダー著池田年穂訳 を読んで

関連記事

🌍🎒2023年8月29~30日 シニアバックパッカーの旅 エルビル(国連加盟国167か国目イラク・クルド自治地域)

facebook投稿文 2023.8.29 アシガバートからイラクはエルビルへ。

記事を読む

no image

QUORAにみる歴史認識 日中戦争において1937年の南京陥落の時点で陸軍参謀本部は戦争終結を主張したそうですが、なぜ日中戦争はその後も続き泥沼化したのでしょうか?

回答するフォロー·3回答依頼4件の回答Furukawa Yutaka, 素人軍事・歴史批評家回答

記事を読む

no image

歴史は後からの例「殖産興業」

武田晴人『日本経済史』p.68に紹介されている小岩信竹「政策用語としての「殖産興業」について」『社

記事を読む

no image

保護中: 7-1 先行研究1(高論文要約)

高論文 「観光の政治学」 戦前・戦後における日本人の「満州」観光 (満州引揚者)極楽⇒奈落  ホ

記事を読む

no image

Quoraに見る歴史認識 第二次世界大戦以前の世界では欧米諸国による植民地がたくさんあったが、戦後そのほとんどが独立した。そのことを欧米の学校ではどのように教えているのでしょうか? 

あたり前ですが、戦勝国と敗戦国で、扱いは異なります。その上で、指導者が自殺したドイツと、無条件降伏

記事を読む

no image

QUORAに見る歴史認識 香港国家安全法制は怖くない

この回答は次の質問に対するQuora英語版でのJohn Chiuさんの回答です (ご本人は翻訳の成

記事を読む

『徳川家康の黒幕』武田鏡村著を読んで

私が知らなかったことなのかもしれないが、豊臣家が消滅させられたのは、徳川内の派閥攻勢の結果であったと

記事を読む

no image

Quora 徳川秀康は、関ヶ原の戦いに、真田家の妨害で遅刻しましたが、将軍になれました。関ヶ原の大失敗の後に汚名を返上するような仕事をしたのでしょうか?

のちの徳川二代将軍秀忠はいわゆる「関ヶ原の戦い」に参加していませんが、これは「遅刻」なのでしょうか

記事を読む

『総選挙はこのようにして始まった』稲田雅洋著 天皇制の下での議会は一部の金持ちや地主が議員になっていたという通説が実証的に覆されている。いわば「勝手連」のような庶民が、志ある有能な人物(国税15円を納める資力のない者)をどのような工夫で議員に押し立てたかを資料に基づいて丹念にドキュメンタリー風に解説

学校で教えられた事と大分違っていた。1890(明治23)年の第一回総選挙で当選して衆議院議員にな

記事を読む

no image

Quora 韓国の方が言う「日本は一度も真摯に謝罪した事が無い」というのは客観的に見て事実ですか?

https://jp.quora.com/%E9%9F%93%E5%9B%BD%E3%81%AE%

記事を読む

no image
ロシア旅行の前の、携帯wifi準備

https://tanakanews.com/251206rutrav

no image
ロシア旅行 田中宇

https://tanakanews.com/251205crimea

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

→もっと見る

PAGE TOP ↑