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『タクシー定期券』の専門誌報道について

公開日: : 最終更新日:2023/05/28 ライドシェア

2016年8月29日の東京交通新聞に「タクシー定期券」の報道がなされていた.定期「券」に問題があるのではなく、「運賃」に問題があるのだが、まだまだスマホが普及していないから、物理的定期乗車券の方がわかりやすいのかもしれない。

私は、旅行商品名として、「定期券」よりは、航空やバスの世界で販売されている商品名のように「定額乗り放題運賃」のほうが魅力的な感じが出ると思っている。Uberpoolの場合、報道では「Unlimited UberPool rides」 と「UberPool “commute card” 」両者が使用されているが、エリア内で自由に使用できるイメージが定期にはないから、タクシーの魅力を損ねるのではないかと思う。

国鉄運賃法時代から、普通運賃と定期運賃は明確に区分されていた。定期運賃とは一定区間内は一定期間内であれば何度でも乗降可能な運賃のことである。従って一定区間内は一定期間内乗り放題なので、私は「乗り放題運賃」と言ってきた。この発想は国鉄以外にも普及しておりバス、船舶でも乗り放題である。「乗り放題運賃」の発想は、2001年に東京交通新聞社から出版した「モバイル交通革命」でも提唱したアイデアである。基本は今も変わらないが、記事になっていたので、問題点を再度メモする。

タクシー事業者が定期運賃が定められる前提には、普通運賃が確定額でなければ成立しないはずである。旅行業者が募集型企画商品として販売する場合は定額でなければならないから、問題にもならない。しかも定期券は何度でも乗降できるということが前提で国鉄時代から広く公共交通機関で普及してきており、タクシー定期券も何度でも乗降できなければ定期運賃という意味が通用しない恐れがある。従ってJTBのJERONタクシーは一日に何度でも利用できるところから定期券と宣伝しているのである。往復一回限りであれば単なる運賃割引と変わりがないからである。なお、運行時間には制限があり、uberpoolでは通勤時間帯に限定している。

次にパック料金の問題である。既存のパック(今は「募集型企画旅行」と呼ばれる)は、旅行業者の責任を負う期間を定めるため「出発時期」と「終了時期」を明確にしている。一般的には標準約款で決めている。通常は一回限りで完結する。では何度も繰り返して旅行する場合に連続したものとしてパック料金が決められないかというと、そんなことはない。パック商品は旅行会社が自己の計算で販売すれば自由に設定できる。問題は、途中で顧客が旅行を離脱した場合の旅行業者の責任をどうするかということの処理である。今でも顧客が勝手に離脱する場合の処理の規定が存在する。JTBの販売した乗り放題の「JERONタクシー」は、タクシーに乗車していない、在宅中の旅行業者の責任を排除した約款を作成し、認可を受けたのである。この点が標準約款とは内容が異なっているからである。この約款を認めない理由もないから認可されたのは当然であり、法の解釈以前の問題であろう。前例が成立したので、今後は他の旅行業者が同様の約款を作成すれば認可が得られるはずである。私としては全国にこの「定額乗り放題タクシー運賃」が普及することを期待する。マイカーに対抗できる魅力的なサービスを提供しなければ、高齢者の運転をいくら危険だといっても始まらないからである。

問題にするとすれば乗り放題にあるのではなく、パッケージ料金にある。東京交通新聞の報道内容を見てもこの点の理解が未だにされていないように思う。これまで私はパッケージ料金の不思議を、学生に学食の定食を例に説明してきた。

ラーメン屋でラーメンが、喫茶店でデザートが販売され、ラーメン法とデザート法でそれぞれ認可料金が100円と80円と決められているとする。ところが大学の学食でラーメン・デザート定食を購入すると130円で済むとする。そんなことがどうして可能なのかという設問である。
学食が旅行業者で、ラーメン・デザート定食がパック商品なのである。更に日本の学食では、単品のラーメン定食が80円、デザート定食が30円でも販売できるのである。流石にヨーロッパの学食では単品定食は販売できない仕組みになっている。

以下、わかりやすく鉄道運賃で説明する(バス運賃もタクシー運賃も全く変わりはないが)。

国鉄運賃法時代、運賃は税金と同じという思想で国会の議決を経て決められていた。従って旅行商品に組み込んでも、旅行業者は国鉄から支払われる代売手数料を稼ぐ程度にしかうまみはなかった。しかしながら大阪万博後新幹線座席を大量に販売する必要があるところから、旅行業者へのパック用の座席の販売価格は国鉄運賃法の適用はないということで処理をしてきた。このおかげで大量の国内旅行商品が造成され、ディスカバージャパンが成功したのである。地域のタクシー業者も大勢の旅行客が押しかけて潤ったのである。

一方航空もジャンボジェットの導入により旅行業者への販売に力を入れた。その時の運賃は、IATAの国際ルールに従い、IT運賃として一般客用の普通運賃とは別の価格を設定し、ホテル等との抱き合わせを条件としていた。運輸省もその運賃を認可していた。今でも基本は変わらない。JALがHPで旅行商品を販売するとき、ホテルとのセットで24時間ルールを守っている。
航空の考え方にもすこし無理がある。実際の利用者は旅行会社ではないので、約款等の適用に無理が出るのである。実際の利用者と運送契約がないという解釈でいいのか私には自信がない。

バス、タクシーは、国鉄方式に倣っていたと解釈せざるを得ない。旅行業者用の特別運賃を認可していないからである。今更行政は業界が納得する形をもって、旅行業者用にIT運賃を認可などできないであろうし、B2Bの専門家同士の取引であるから、その料金は業者により異なったものとなるであろう。(歩合制賃金体系をとっている場合には、IT運賃により減額された場合の問題も特殊事情として出てくる。)また、タクシーが航空のような解釈をすると、実際の利用者とタクシー会社には運送契約はないということになる。それで標準約款等の解釈が成り立つのかも曖昧である。どちらを向いてもおかしなことがあるのである。事故が起きたツアーバスは航空のように旅行業者用の運賃を決めておけば問題はなかったのであるが、そうすると困ることも出てくるのである。

パック料金は、海外旅行を含め、包括料金とするため、日本でしか通用しない道路運送法システムだけを前提としていない。日本の道路運送法のやり方だけで説明すると、全体の旅行業法の説明ができなくなるという問題を抱えてしまう。

その上日本のパック運賃は、国際的には珍しい 単品パックを実運用上認めてきた。コンビニで、ホテル商品を販売しているのがその例であり、新幹線でも単品パックの「ぷらっとこだま」が販売されている。このような商品は、航空では存在しないが、バス、タクシーでは認められるということになる。学生には、ラーメン屋でラーメンを購入すれば規制料金だが、大学の学食で単品のラーメンを定食として注文すると別の料金で購入できると説明している。

旅行業者が旅館の部屋を大量に仕入れすぎて、単品のパック商品として販売したという経緯がある。旅行業法上、宿泊も運送も区別がないから、ぷらっとこだまも販売されたのである。各地で販売されているタクシーパックも同様である。

このような実務運用を基に、タクシーの世界だけで法解釈をしても、法全体としては整合性のとれた説明が不可能であると、私は博士論文で既述した。タクシー運賃が認可料金で決められていても、旅行業者がタクシーの単品パック商品として自らの判断で販売する場合は、料金は自由に決められるのである(そのこと自体の説明もまた困難であるが、今更パック料金を否定すると世間や消費者を敵に回すことになる)。従って、認可運賃の金額では困るのであれば、旅行商品を別に作成し自分で決めた金額で販売すればいいといいと言ってきた。これでは道路運送法の運用が困るであろう。航空局は規制緩和が実施され、航空会社も早割運賃等を自由に決められるから問題がなくなっている。

法の解釈は最終的には裁判所であるが、政府内では内閣法制局が公権解釈をする。経済産業省にはそのような権限はない。国土交通省にもないので、内閣法制局にパック料金の解釈を求めることになるが、道路局の高速道路料金から、鉄道、航空とすべてまたがり、しかも海外の交通機関の運賃まで考慮の対象となる。日本のタクシーだけの事情で決められず、むしろ少数派になりかねないから、法制局には持ち込みにくい。いつまでたってももやもや感が残るのである。
そのようななか、東京交通新聞は、専門誌として読者の反発を買わないようにぎりぎりの工夫をしながら、「経産省は適法判断」との見出しを付けたのである。流石である

地方運輸局の職員の中には旅行業法の仕組みを理解しないまま行政を行っている者が存在するかもしれない。しかしながら、地方運輸局の存在も観光行政にかかってきているのであるから、きちんとした理解が必要であろう。経産省が適法といっても地方運輸局は認めないと言い出しかねない。本稿が少しでも役に立てればと思う。

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