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ライドシェア、ホームシェアに見る各国シェアリングエコノミー論の展開

公開日: : 最終更新日:2023/05/28 ライドシェア, 民泊問題

1 シェアリングエコノミー論の登場
 新経済連盟が2015年10月30日に「シェアリングエコノミー活性化に必要な法的措置に係る具体的提案http://jane.or.jp/pdf/detail_share20151030.pdfを行い、人流分野ではライドシェア論、ホームシェア論が具体的な問題として論議されるようになってきた。その背景には、Uberに代表される配車アプリ、Airbnbに代表される宿泊アプリの普及がある。人の移動、宿泊に関する情報サービスはパソコン時代から進展しており、多くの旅行会社も積極的に展開してきていたが、提供される施設に、自家用車、自宅といったこれまでの営業用と区分されるものが加わるようになったことがあげられる。つまり、それまで営業用と認識されていた車や家屋が特殊なものではなくなったことがあげられる。私はこれを日常(自宅、マイカー)と非日常(ホテル、タクシー)の相対化と認識して学位論文を書いてきたところでもある。
 シェアリングエコノミー論の登場により、当然のことながら既存の営業用施設運営者、労働者からの反発が発生する。しかしながら、それぞれの国の営業用施設に関する規制制度が異なることから、その問題の発生の仕方も異なるところとなる。本稿においては、シェアリングエコノミービジネスが発生した米国各地、これからの成長が予想される中国との比較において、我が国のライドシェア、ホームシェアを考察してみる。

2 米国、英国に見るライドシェア
2-1 タクシーの定義における「流し」の取扱
 ロンドン市やニューヨーク市では限定的にいわゆる「流し営業」(street hiring,street hail)をするものについて法的な規制を行ってきている。英国の影響を受けているアイルランドにおいても営業所のみでの配車しかできないhackneyはタクシーとは明確に区分されている。流し営業は車庫待ち営業と区分され、一般人の利用に対して行政が関与することでトラブルの発生を防止していることに対して、車庫待ち営業は、電話や無線での配車によるところから運転手の身元も明確であり、また料金等を巡っての個人の取引の余地が大きく、その分行政の関与の必要性が低いと認識するからである。国土交通省や交通研究者の資料を見ると、各国タクシー制度の比較において、この区分を明確にしているものが見当たらないが、この点の区分はその後の紛争処理の仕方を判断する際に重要である。
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2-2 BLACKーCAB
 ロンドン市ではいわゆる「BLACKCAB」のみが流し営業が許されており、その形態は日本でいう個人タクシーに近いものである。流し営業にはタクシーメーターが必要でありブラックキャブのみが装備がゆるされている。流し営業を行わない車庫待ち営業のタクシーは、自家用車の分類で、PRIVATE HIRED VEHICLEと呼ばれている。ブラックキャブの運転手になるためには、三十か月以上の期間を要する試験に合格しなければならず、台数も増加しないことから、この自家用車の分類であるPHVが普及している。増加したためトラブルも増加したことから、PVHにも規制がかけられるようになったが、ブラックキャブほど厳しくはなく、現在でも増加している。増加を可能とする背景には、スマホの普及があげられる。運賃が乗車前に決定され、クレジットカード払いが可能であるから、ブラックキャブに比べて極めて便利なのである。ブラックキャブ側はスマホもタクシーメーターに該当するから免許違反であると主張したが認められなかったようである。

2-3 YELLOW-CAB
ニューヨークもロンドンと同様であり、YELLOW CABは流しができるもののことを指す。(New York City regulations prohibit street hails for private ride services (also called livery services.) Uber is only accessible through an up-to-date smartphone.) ニューヨークでもYELLOW CABの供給力不足が社会問題となり、ニューヨーク周辺の営業地域を異にしたGREEN CABが新たに認められた。yellowcabの権利が百万ドルで売買されるようでは問題になるのである(Very few drivers can afford to purchase their own medallions, which can sell for more than $1 million each.*)。Uberが混雑時に運賃を上げるSurge-pricingが可能となるものこの供給力不足が前提であろう。
http://www.forbes.com/sites/johngiuffo/2013/09/30/nycs-new-green-taxis-what-you-should-know/#6231f7d85c1d

ロンドン、ニューヨークでは、タクシーは流しを行うから、バスに準じた公共交通機関としての取扱が可能になるのであり、単なる自動車の貸切営業が自家用扱いになるのは、論理的は必然のことである。コモンロー、コモンキャリアの考え方であろう。これに対して、日本では、ニューヨーク、ロンドンと異なり、「流し」を特別扱いにする制度となっていない。スマホ配車による自家用車の営業行為が白タク行為だと言って排除可能な制度になっている。自家用車の営業行為の許可制度は道路運送法制定時から存在したが、行政運用が極めて制限的である。過去には公共交通であるバスの権益を侵さないという趣旨が徹底していたが、今ではバス保護の規定というより、タクシー保護の規定になってきている。

3 福岡でのライドシェア実験の功罪
遵法精神に富む日本では、UBERが単純に進出しようとしても、マスコミを含めて世間は簡単に賛同しない。福岡市での自家用車のライドシェアの実験はグレーゾーンを狙った試みであったが、奇策との印象がぬぐえず、世間の賛同が得られなかった。調査費**を別の形で支払うなどという形の無償運送のスキームでは説得力に欠け、白タク行為との批判に耐えられなかった。国土交通省がのりだしたのもそのあたりの常識的な国民の意見を踏まえた判断であったのだろう。もし行うとするのであれば、自家用車の有償運送の許可制度の地方への権限移譲がなされた自治体での実験を最初に行い、国と地方の解釈の隙間が生じた場合には裁判所の公的見解を求めるといった丁寧な進め方ができなかったのかと思われる。Uber本社の日本の制度への理解不足が原因しているのかもしれないし、日本のUBER側の責任者の理解不足があったのかもしれない。実験はかえってUberの普及というよりもライドシェアの普及に障害となったように思われる。高齢者の足の確保が本当に必要な地域にとってマイナスの効果しかもたらさなったのではないか。

ただ、同情すべきは下記記事のようにニューヨーク市交通局はきちんとデータを取ってライドシェアを議論しているから、日本の行政当局も自家用車のライドシェアのデータに関心があると思ったのかもしれない。日本のマスコミはNEWSPICKSに至るまで行政発表のニュースを中心に流すから、WALLSTREET JOURNALのようにはいかないのである。
The city began regularly collecting trip records from the city’s livery and black-car services this year as part of an attempt by taxi regulators to understand changes afoot in the taxi and for-hire vehicle industry.
http://www.wsj.com/articles/lyft-revs-up-in-new-york-city-1448038672

ライドシェアという言葉は、自家用車に相乗りするというニュアンスがある。ロンドン、ニューヨークなら、流しではない車庫待ち(スマホ待ち)は自家用車の分類で通用するかもしれないが、日本では流しと車庫待ち(無線待ち、電話待ち)の区分をしないから、ライド・シェアという語感が適当ではないにもかかわらず、ライド・シェアという形で議論が持ち込まれているところも混乱の原因である。

では、日本のタクシー、さらには同類の貸切バスは公共交通なのであろうか。流しを行うタクシーはロンドン、ニューヨークと同様に準公共交通として取り扱うことに特に異論はでないであろう。車庫待ち営業タクシーや貸切バスについては真剣に議論を進めれば公共交通として認めることには異論を唱える人が出るに違いないであろう。ましてや、観光目的のものについては、一時代前まではおよそ公共交通とは認められなかったはずである。料金規制にいたっては観光なのであるからもっと自由でいいということになろう。私は地方運輸局が一生懸命に観光タクシーに力を入れている状況を見ると、自ら存在感をなくしているような気がしてならない。観光はタクシー事業者が自由に営業する中から生まれてくるのであり、行政がでれば障害になるだけである。それよりは高齢者の輸送等に関心を向けるべきであろう。ジェロンタクシーの試みなどは地方運輸局が考えるべきテーマではないであろうか。
一方、スマホを活用したタクシー配車が単純に流し営業ではないとして、ロンドン、ニューヨークのように単純に規制を外してもいいのかというと、そこには日本特有の事情が存在する。

⓵ 東京のタクシーはロンドン、ニューヨークと異なり、供給力不足が問題化していない。道で簡単にタクシーが拾える。HAILOが苦戦した事情もそこにある。平常時はいちいちスマホを操作しなくても手を挙げればタクシーは止まってくれるのである。その分大都会ではタクシーの供給が十分になされているのであろう。従ってON・DEMANDを売り物にするスマホ配車が普及しない。生活習慣の違いといってしまえばそれまでである。ONーDEMANDになれた中国人を中心に外国人旅行者が増加すれば、そのニーズも変化するかもしれないが。

⓶ キャッシュレス化も、東京のタクシーもほとんどがカード決済を可能としているから、スマホ配車の利便性の優位性が目立たない。それどころか、コンビニで観察していても日本の若者はまだまだ現金支払いが多いように思う。この点は、外国人には極めて不便な面であろう。慣れない日本の貨幣を扱うだけでもストレスのもとである。海外旅行をするときは、カード払いができることが前提になってきているのである。国際競争を標榜する東京都知事が地方交通の権限を持っていれば、ロンドンと同様キャッシュレス化を推進したであろう。東京オリンピックを目標にWIFIの普及は進められているが、このままではキャッシュレス化は進展しないであろう。
なお、中国の配車アプリ事情で紹介しているように、中国の配車アプリでは、現金を扱わないようなインセンティヴが運転手に与えられていることから、キャッシュレス化が促進されている。
**このブログの最後で紹介している分析記事では、ニューヨーク市のタクシーのカード払い率は6割程度となっている。

⓷ 交通機関の運賃は距離制、時間制が一般敵である(based on a combination of time and distance)がタクシー運賃は、時間距離併用制は渋滞リスクを勘案する(based on speed)によるものであり、ニューヨークのyellowcabでも採用している。
 これに対して、確定額の運賃制は、スマホ配車の武器となっている。目的地までの運賃が事前に決定されていないようでは公共交通という資格がないと思われるが、日本では意外と声にならない。歩合制賃金のタクシー業界のもとでは、労使ともに渋滞リスク(運賃が決まっている場合に大幅な時間を要した場合の収入不足)を誰が吸収するかの話し合いができず、業界の巷での声は出てきているのであるが、表だったプロモータ役が出てこない。(従って三ヶ森タクシーに期待するところが大きいのであるが**。)役所はタクシー経営者から申請が出てこなければポジティブには対応しないものである。
**TAXI JAPAN 275号では「2016年2月26日に福岡陸運支局に、運転適用方に関する「お伺い書」とした文書を提出しました。内容は現行の距離制運賃の適用方に、「営業所又は電子的にあらかじめ特約がある場合においては、地図情報等から適切に算出した距離制運賃を適用することができる」というものです。」「わかりやすく言うと、乗車場所と降車場所を確定させたうえで営業所での配車受付やスマホ配車アプリでタクシーを呼んで利用する場合には、地図情報などから算出した距離制運賃を、事前に確定運賃額とするということです」と報道されている。

⓸ ロンドンもニューヨークもタクシー行政は市長の権限である。特に米国は州によって取扱が大きく異なる。日本のように国会議員が出てくることはない。しかし、市長の権限であるから市民の声が届きやすいかというとそうでもないようである。ロンドン、ニューヨークの流し営業ができるタクシーの台数は、東京に比べて制限的である。従ってそこにUber等の受け入れられる余地が出てきたのである。東京の場合、国の権限であるが、政権党が大都市住民を敵には回せなくなっているのである。経済特区等の工夫により、階段を少しずつ低くしているのであろうが、時間ばかりがかかっている。日本の活力が失われてからでは遅いと思うのであるが。

日本のような、全国一律に規制がかかる制度の弊害が大きいこともしかりである。日本の地方は高齢者の足の確保が社会問題となっている。実情に疎い学識経験者を中心にした船頭ばかりが多い現行の地方協議会制度で議論するのでは進まないのも当然である。財源を負担する自治体の長に責任を負わせる制度でなければ、解決は難しいであろう。

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米国では、タクシー行政が自治体行政であるところから、Chicago市のように、市当局が配車アプリを公式に認定しているところまである。
http://chicagoinno.streetwise.co/2016/01/04/chicago-officially-selects-two-taxi-apps-to-help-cabs-take-on-uber/
The City of Chicago is providing local taxi drivers with the technology to take on popular ridesharing options like Uber and Lyft with the launch of a new city-sponsored taxi dispatch program.
The City quietly announced the launch of CHICABS last week, which will give Chicagoans a way to hail and pay for a cab via their smartphone, and will give taxi drivers a more level playing field in the fight against ridesharing. Chicago selected two apps–Curb and Arro–as official options for passengers to electronically hail a cab.

⓹ なお、貸切運送のタクシー事業の未来を相乗り制度の普及に求める考え方が根強くある。ロンドンのMAAXIの発想に代表されるものである。私の乗り放題タクシーを提唱している発想の根底にも相乗りがあるが、私はそもそも、タクシーの貸切、バスの乗合の区分そのものが位置情報システムの進展により相対化するのではないかという仮説を立てて論を進めてきている。福岡でジェロンタクシーが始まったが、一か月定額乗り放題(目的地限定)サービスは、限定的な範囲では乗合になりえる。それを可能とするのは、パッケージツアーの発想がとれるからである。ジェロンタクシーの発想は、自治体の財政援助が期待できるのであれば、人口希薄地帯での可能性は更に高いものと考えられる。

既存タクシー事業の危機感からの配車プリへの動向

ロンドン、ニューヨークでは、Uber等のスマホ配車の脅威に対抗するため、タクシー側でも配車アプリの導入に取り組んでいる。ロンドンのブラックキャブに対してHAILOが営業をかけている。ニューヨークのYELLOWCAB、GREENCABに対して、UBERTやARRO等の配車アプリが提供されている。更にはLondon-based Karhooといった新しい配車プリの導入も報道されている。

わが国でも、大手タクシー会社の配車アプリの提供や、地域協会主導の配車アプリの導入がなされている。配車アプリ導入の背景には、ビッグデータへの対応があげられる。総合生活移動産業として、人流情報を把握し、先駆けて市場ニーズに対応した商品開発を可能とする企業でなければ、3HPL(サードパーティヒューマンロジスティックス、人流サードパティ)の主導権が握れないと感じているからであろう。
ぼやぼやしていれば、UberどころかGoogleに代表される世界企業に人流の主導権を握られると直感的に理解しているからである。その時には、多くの物流企業と同じように、下請けの単に決めらた運送をこなすだけの企業になっているのである。世界の資本が赤字経営のUBERに投資する理由も同じである。

*** ネットでは、ニューヨークのタクシー、ライドシェアデータ11億トリップを分析した結果まで公表されている。ニューヨーク市交通局のオープンデータをもとにしており、グリーンキャブが認められた根拠も、ニューヨーク市交通局が詳細なデータ分析をもとに判断していることがわかる。我が国のタクシー行政も、配車アプリが普及すれば、運転日報といったアナログで時代遅れのシステムを維持することが意味がなくなるのであろう。
http://toddwschneider.com/posts/analyzing-1-1-billion-nyc-taxi-and-uber-trips-with-a-vengeance/

仲良くUberとLyftの両方に登録しているニューヨークの運転手の動画
http://newyork.cbslocal.com/2015/10/08/work-for-uber-new-york/
NY-DU511_NYLYFT_16U_20151120115108

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