*

DVD版 NHKスペシャル『日本人は何故戦争へと向かっていたっか』第3回「熱狂はこうして作られた」(2011年2月27日放映)を見て  麻布図書館で借りて

公開日: : 最終更新日:2023/05/28 歴史認識

メディアが戦争をあおり立てたというおなじみの話がテーマ。
日本の観光政策が樹立されていく1930年代の時期でもあり、私の研究分野とオーバーラップするので理解しやすい。

父親が中国戦線にいるときに、朝日新聞の記者には気を配ったと言っていたことを思いだす。
現在でも警察署長さんは朝日には配慮するという話を運輸省記者クラブで聞いたことがあるから、発行部数にかかわらず、リーディングカンパニーなのだろう。
今の役所でいえば大蔵省、財務省といったところか。

新聞発行部数は満州事変を契機に増加の一途をたどっていた。戦地に家族が出ているから読者が増えるのである。
日露戦争で発行部数が伸びたのと同じである。アメリカでも米西戦争で増加している。メディアは煽り立てたようだ。

今村均参謀本部作戦課長と朝日編集局長緒方竹虎が密談するシーンがでてくる。
朝日からの呼びかけで、陸軍の状況を聞きだしている。元朝日記者さんの証言で事実らしい。

参謀本部は朝日と同じく慎重論だが、参謀本部員が現地を視察すると、在留邦人が困っている状況を目の当たりにし、
関東軍の強硬姿勢に共感せざるを得ないと思ってしまっている雰囲気が、今村から緒方に伝わっていた。
今でいえば外務省と朝日は中国に融和的なのだが、国民とメディアが自虐史観だと騒いでいるような感じである。

中国で虐殺された中村大尉事件が国民の怒りを大きくさせていた。今でいえば尖閣諸島領海侵犯報道みたいなものである。
満州事変に関し毎日新聞をはじめ強硬論が多い中、朝日は公然と反対姿勢の報道であったが、不買運動が起こされていた。
この会談を契機に、朝日も大転換をし満州事変に反対の報道をしなくなっていったとある。
尖閣諸島や北方領土等の帰属は大手メディアでも公然と日本政府の公式見解に異を唱えることはしないであろう。
『永続敗戦論』を読めば、解釈はいくらでもあることがわかるのであるが。こと歴史問題になると、中国側に多くの資料が存在しエンドレスになる。

満州事変が関東軍が仕組んだことは、メディアは全部知っていた。参謀本部から聞かされていたからである。
なぜ報道されなかったかといえば、当時の国益に沿う行動だと思っていたからである。
いずれにしろ外国に軍隊を出していると邦人救出に駆け付けないと世論がもたない。
だから軍隊を外に出さないと憲法が決めたのに、それを放棄するのはもったいない話である。
アメリカは何度も失敗しているのだから。

新聞を凌駕した新しいメディアとしてラジオが登場した時期でもあった。
日本放送協会総裁は近衛文麿であった。
国際連盟脱退に浮かれる民衆に、松岡洋介が国民は何を考えているのかという独白がながれていた。
リットン報告書にも国民はメディアの影響を受けて怒りまくっていたのである。
三国同盟に積極的でないにもかからず締結したのは近衛首相で、締結の翌日に総辞職している。

戦争指導者の責任は否定できないが、政府も民衆の声を無視しては持たない。正しい判断かどうかなどと言っていられないだろう。
私もささやかながら自分の選挙で、つくづくそれを感じさせらた。加賀市の民意が低すぎると嘆く支援者が大勢いたが、民意を尊重するのが民主主義であり仕方がない面がある。加賀市では残念な結果になったが、民意は白山、金沢市長選挙では収まるところに収まり、ネガティブキャンペーンの限界も知らせしめた。
都知事選挙の最終時期であるが、ネガティヴキャンペーンの応酬である。どうなるのであろう。

その中で、国民を黙らせられるメガトン級のメディアは、日本では天皇陛下であった。今の中国では中国共産党であろう。
アメリカが東京裁判で天皇責任の追及を放棄したことはよく理解できる。中国や韓国の今の状況もよく理解できるが、その分日本人の不満が高まり過ぎている。

今の政治家で冷静に対応していると感じられるものは、岡田、谷垣、二階、鳩山由紀夫等であり、
おかしな言動を繰り返しているのは、小池等であるが、後者の方が人気があるのは、1930年代と同じである。
細川文麿と同じビヘイビャーだから人気がある。

この状況を作り出した原因の一つに民主党の運営のまずさがある。自民党タカ派と同じレベルの集団と、昔の社会党レベルの集団の寄せ集めで、自民党ハト派がいなかったのである。小沢一郎を排除した結果であろう。
陰謀説ではアメリカが小沢、鳩山排除をたくらんだとまで伝えられるが、アメリカ陰謀説は田原総一郎の著作物に丁寧に調べた結果否定しているものがある。アメリカが横田で通信防除しているとは思うが、日本にちょっかいを出すほど愚かでもないであろう。

newspicksでも活躍されている、ふるまいよしこさんの『中国メディア戦争』とたまたま読んだ。
共産党独裁下の中国のほうが、ブログやSNSで多様な情報が流れていることを紹介している。でも日本人はそれらを知ろうとしないようである。
日本語バリアが日本のメディアにも受けての日本人にもあり、この状況は1930年代とさほど変わらないのかもしれない。

関連記事

no image

山泰幸『江戸の思想闘争』

社会の発見 社会現象は自然現象と未分離であるとする朱子学に対し、伊藤仁斎は自然現象

記事を読む

no image

QUORA ゴルビーはソ連を潰したのにも関わらず、なぜ評価されているのか?

ゴルバチョフ書記長ってソ連邦を潰した人でもありますよね。人格的に優れた人だったのかもしれませんが

記事を読む

書評『我ら見しままに』万延元年遣米使節の旅路 マサオ・ミヨシ著

p.70 何人かの男たちは自分たちの訪れた妓楼に言及している。妓楼がどこよりも問題のおこしやすい場

記事を読む

no image

QUORAにみる歴史認識  伊藤博文を殺したのは安重根ではないという説を見ました。もし安重根以外が殺したとしたら誰が何の為に殺したのですか?回

伊藤博文を殺したのは安重根ではないという説を見ました。もし安重根以外が殺したとしたら誰が何の為に殺

記事を読む

no image

『永続敗戦論  戦後日本の核心』、『日米戦争を起こしたのは誰か ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず』『英国が火をつけた「欧米の春」』の三題を読んで

「歴史認識」は観光案内をするガイドブックの役割を持つところから、最近研究を始めている。横浜市立大学論

記事を読む

no image

QUORAに見る歴史認識 戦前の財閥ってどれくらいお金持ちだったんでしょうか?具体的に分かるように説明していただけませんか?

そのジニ係数は――あえて国際比較を行うと――大土地所有者と彼ら以外の間に大きな所得格差があることに

記事を読む

『総選挙はこのようにして始まった』稲田雅洋著 天皇制の下での議会は一部の金持ちや地主が議員になっていたという通説が実証的に覆されている。いわば「勝手連」のような庶民が、志ある有能な人物(国税15円を納める資力のない者)をどのような工夫で議員に押し立てたかを資料に基づいて丹念にドキュメンタリー風に解説

学校で教えられた事と大分違っていた。1890(明治23)年の第一回総選挙で当選して衆議院議員にな

記事を読む

no image

保護中: 7-1 先行研究1(高論文要約)

高論文 「観光の政治学」 戦前・戦後における日本人の「満州」観光 (満州引揚者)極楽⇒奈落  ホ

記事を読む

no image

観光資源としての吉田松陰の作られ方、横浜市立大学後期試験問題回答の例 

今年も一題は、歴史は後から作られ、伝統は新しい例を取り上げ、観光資源として活用されているものを提示

記事を読む

『尖閣諸島の核心』矢吹晋 鳩山由紀夫、野中務氏、田中角栄も尖閣問題棚上げ論を発言

屋島が源平の合戦の舞台にならなければ観光客は誰も関心を持たない。尖閣諸島も血を流してまで得るもの

記事を読む

PAGE TOP ↑