観光とツーリズム~日本大百科全書(ニッポニカ)の解説に関する若干の疑問~
公開日:
:
最終更新日:2016/11/25
人流 観光 ツーリズム ツーリスト, 観光学評論等
日本大百科全書には観光に関する記述があるが(https://kotobank.jp/word/%E8%A6%B3%E5%85%89-469729)
以下特に気になる点を取り上げる。この解説でも「井上萬壽藏(ますぞう)著『観光と観光事業』1967」を引用しているが、井上氏の解説には原典が示されていないことから、正確であるのか疑問が残っている状況である。
〇 「日本で観光の語が現代的な意味で使用されるようになったのは、英語のツーリズムtourismの訳語としてあてられるようになった明治なかば以降である。」
◆ 字句「ツーリズム」が明治半ばに日本の訳語になったか否かの点は、辞書及び新聞記事検索結果では証明できない(むしろ否定的)ことをすでに本ブログでも明らかにしているところであり、帝京平成大学紀要27巻にも掲載しているところである。残された手段として、英文の原典と日本の訳本を突き合わせて照合しなければならないが、そのような作業は今のところなされた研究はない。
〇 「とくに一般化したのは大正に入ってからで、とりわけ1923~1924年(大正12~13)ごろ、アメリカ移住団の祖国訪問に際して新聞紙上で「母国観光団」として華々しく報道されたためだといわれる。」
◆ 朝日新聞記事データベース聞蔵Ⅱの検索結果では、「母国観光団」の記事は朝鮮からの母国観光団の記事が1911年に掲載されて以来1925年までに38件掲載されているが、1923年から24年の掲載件数は1924年6月18日の記事1件である。しかも当該記事は、母国観光団のブローカーが船賃を三倍にして横浜から米国に移民団を送り大儲けしたという、全く観光とは無縁の内容である。ちなみに1935年までに検索期間を拡大してもヒット数は49件であり、同期間の「観光」のヒット件数345件と比較しても格段多いということでもない。
朝日新聞だけが当時の日本語の報道であるわけではないが、たぶん読売新聞記事検索ヨミダスでも同じ結果になるであろう。
〇「日常的な語として広く使用されるようになったのは昭和初期以降であり、世界的な観光黄金時代を背景にして鉄道省に国際観光局が設置(1930)されたのを契機に民間機関も設立され、国内観光の気運が高まりをみせ始めたころからである。」
◆ 「国内観光の機運が高まり」の記述も不正確であることは帝京平成大学紀要27巻に記述しているが、人流観光研究所HPに『概念「「楽しみ」のための旅」と字句「観光」の遭遇』として掲載してある(http://www.jinryu.jp/category/study)
関連記事
-
-
河口慧海著『チベット旅行記』の記述 「ダージリン賛美が紹介されている」
旅行先としてのチベットは、やはり学校で習った河口慧海の話が頭にあって行ってみたいとおもったのであるか
-
-
日本の観光ビジネスが二流どまりである理由
日本の観光ビジネスが二流どまりになるのは、人流に関する国際的システムを創造する姿勢がないからです。
-
-
『ヒトはこうして増えてきた』大塚龍太郎 新潮社
p.85 定住と農耕 1万2千年前 500万人 祭祀に農耕が始まった西アジアの発掘調査で明らかにさ
-
-
グアム・沖縄の戦跡観光論:『グアムと日本人』山口誠 岩波新書2007年を読んで考えること
沖縄にしろ、グアム・サイパンにしろ、その地理的関係から軍事拠点としての重要性が現代社会においては認め
-
-
町田一平氏の私の論文に対する引用への、厳しい意見
町田一平氏がシェリングエコノミーに関して論文を出している https://m-repo.l
-
-
孫建軍著『近代日本語の起源』に見る用語「国際」の誕生
用語「観光」を論じるにあたって、国際との関係をこれまで考察してきたが、考えてみると、日本人社会のなか
-
-
『海外旅行の誕生』有山輝雄著の記述から見る白人崇拝思想
表記図書を久しぶりに読み直してみた。学術書ではないから、読みやすい。専門家でもないので、観光や旅行
