*

「DMO」「着地型観光」という虚構

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 観光学評論等

DMOという新種の言葉が使われるようになってきていますが、字句着地型観光の発生と時期を同じくします。

物流では運賃をだれが払うかの発荷主、着荷主概念があります。Amazonのように無料で注文者にお届けするか、国鉄時代の一部の貨物のように買主が駅頭倉庫まで取りに行くかです。観光・人流でいえば、観光資源のあるところまで自分で来てもらうか、自宅までお迎えに行くかです。

自分の費用で来てもらう以上は、消費者は自宅で目的地(デスティネーション)を選択するのですから、着地型ではなく、発地型でしょう。従来から存在するパターンです。これに対して、カジノは上得意客に対して、ファーストクラスの航空券をお渡ししてお迎えに行きます。現地でもスウィートルームを無償で提供します。ですから、着地型観光といえるのでしょう。わが国でも、関東の温泉地が新宿まで無料のバスを出して顧客をお迎えに行く形態が発生していますが、これは着地型といえるでしょう。

しかしながら、従来と同じく、顧客は自宅にいて自分の費用で自分の判断で観光地を選択するようでは、何も変わりません。旅行業者を通じてセールスをするか、ネット等でセールスをするかの違いは本質的とは言えません。それなのに、デスティネーション(目的地)を着地型といい、DMO等の字句をもって何か新しい動きであるが如く記述するのは、科学的とは言えないでしょう。観光地の事業者が連携して宣伝すること自体は、戦前の風致地区協会以来、戦後の各地観光協会観光推進機構等が地道に行ってきていることです。

なお、政策用語の観光とは1930年に外客誘致からスタートしていますが、各自治体は、本音の部分で日本人観光客誘致に力を入れていました。このことを「内主外従」といいます。戦前でもそれだけ日本人が豊かになり、ホテルに泊まり、洋食を食べたのです。政策として日本人の観光を推進することは行われていませんでしたから、戦後も、ソーシャルツーリズムの名前のもと、厚生省が、国民宿舎等の整備を行ったのです。

なお、原忠之氏のfacebookFでのやり取りも一部メモ代わりに残しておきます。
はい、日本ではDMOとDMCを混同している議論を複数見かけました。おっしゃる通りです。 「着地型」という限りはそれはDMC (a professional services company possessing extensive local knowledge, expertise and resources, specializing in the design and implementation of events, activities, tours, transportation and program logistics)という民間営利企業の話であり、公的資金を受けるような組織の話ではなくなります。  DMO (an organization that promotes a town, city, region, or country in order to increase the number of visitors. It promotes the development and marketing of a destination, focusing on convention sales, tourism marketing, and services. Its mission is to promote economic development of a destination by increasing visits from tourists and business travelers, which generates overnight lodging for a destination, visits to restaurants, and shopping revenues and are typically funded by taxes.) とDMCの話がどうも日本で混乱しているので、また別途FBに書こうかと思っておりました。  「日本版」という形容詞がついたDMOは、当地で既に数十年成功裏に機能しているDMOと比較してファンデイング側の議論が抜けているのか「日本版」なのかと思います。 補助金目当てで自主的なFundingのビジネスモデルが描けない非営利団体は持続性が無い訳です。 今まで観光協会等、地元政府の一般財源でファンデイングしていた組織が意識改革なしに看板付け替えても持続性は欠如しています。 また本来の大きな目的は各地方での輸出産業としての観光奨励による地方創生ですので、日本人団体観光客を都会から連れてきますという20世紀の旅行代理店モデルの延長では趣旨に合致していないわけです。 米国のDMOは季節性の高いレジャー客以外のセグメントを開発するために設立された経緯があるので、MICEセグメントを追いかけるために設立された経緯がありますが、わたくしの記憶では日本版DMOの8割以上の応募者はMICEの言及一切なしでしたし、外貨獲得(=インバウンド層)にきっちりターゲットを絞っていた所も2割もなかった気がします。Yes, Japanese government earmarked significant amount of funding to support establishment of DMOs (destination marketing organizations) all across Japan, but the reality is that people do not understand clear difference between DMOs and existing Tourism Promotion Office of the municipal governments. At least in the USA, DMOs are often funded by special purpose local taxes at county-city levels, thus it would not encroach into general budget of the resident taxpayers. I will talk more about this later, while those who are interested in working in tourism and hospitality fields in Japan, please stay tuned.

これに対して私は「ただ、行政機関からの補助金は、お金による権力行使です。受け取る義務はありませんから、双務契約です。政策とは、劣位にあるものを平均水準に引き上げるため権力を使うことが基本ですから、観光とは本質的に不協和なものだと思っており、私は日本でDMOといっているものも、補助金受け皿の農協と変わらないという印象です」と返信しておきました。

観光庁のHP
日本版DMOは、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。
 このため、日本版DMOが必ず実施する基礎的な役割・機能(観光地域マーケティング・マネジメント)としては、
(1) 日本版DMOを中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成
(2) 各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立
(3) 関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作り、プロモーション
が挙げられます。 また、地域の官民の関係者との効果的な役割分担をした上で、例えば、着地型旅行商品の造成・販売やランドオペレーター業務の実施など地域の実情に応じて、日本版DMOが観光地域づくりの一主体として個別事業を実施することも考えられます。

関連記事

no image

『ダークツーリズム拡張』井出明著 備忘録

p.52 70年前の戦争を日本側に立って解釈してくれる存在は国際社会では驚くほど少ない・・・日本に

記事を読む

no image

「若者の海外旅行離れ」という 業界人、研究者の思い込み

『「若者の海外旅行離れ」を読み解く:観光行動論からのアプローチ』という法律文化社から出版された書

記事を読む

no image

日本観光学会に参加して

6月26日日大商学部で日本観光学会が開催され、「字句「観光」と字句「tourist」の遭遇」と題して

記事を読む

no image

『訓読と漢語の歴史』福島直恭著 観光とツーリズム

「歴史として記述」と「歴史を記述」するの違い なぜ昔の日本人は、中国語の文章や詩を翻訳する

記事を読む

no image

観光資源としての「隠れキリシタン」 五体投地、カーバ神殿、アーミッシュとの比較

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産登録された。江戸時代の禁教期にひそかに信仰を続け

記事を読む

『科学の罠』長谷川英祐著「分類の迷宮」という罠 を読んで

観光資源論というジャンルが観光学にはあるが、自然観光資源と文化観光資源に分類する手法に、私は異議を唱

記事を読む

no image

『仕事の中の曖昧な不安』玄田有史著 2001年発行

書評ではなく、経歴に関心がいってしまった。学習院大学教授から東京大学社研准教授に就任とあることに目

記事を読む

no image

岩波新書『日本問答』

本書では、大島英明著『「鎖国」という言説 ケンペル著・志筑忠雄訳『鎖国論』の受容史 人と文化の探究』

記事を読む

『戦後経済史は嘘ばかり』高橋洋一

城山三郎の著作「官僚たちの夏」に代表される高度経済成長期の通産省に代表される霞が関の役割の神

記事を読む

no image

メンタル統合 

人類の文化的躍進のきっかけは、7万年前に起きた「脳の突然変異」だった:研究結果 https:

記事を読む

no image
🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 福建省(24番目)厦門

中国渡航にビザが必要な段階で計画したので、金門島から廈門に渡る

🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 金門島

  昨夜桃園空港から台北駅に鉄道で移

no image
🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 台北

国連加盟国第一か国目は中国。1970年に香港、台湾と旅行した。当時は、

🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 パラオ共和国(国連加盟国188か国目)

    2024年12月4日早朝マニラから

🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 セブ・マクタン島

youtubeで、マゼランの世界一周を 取り上げた動画があり、船

→もっと見る

PAGE TOP ↑