*

字句「美術」「芸術」「日本画」の誕生  観光資源の同じく新しい概念である。

公開日: : 最終更新日:2018/06/04 観光学評論等

日本語の「美術」は「芸術即ち、『後漢書』5巻孝安帝紀の永初4年(110年)2月の五経博士の劉珍及による「校定東觀 五經 諸子 傳記 百家蓺術 整齊脫誤 是正文字の「蓺術」から来ており、本来の意味は技芸と学術である」とされているから、字句「観光」が近代になり意味が変化したことと同じである。

「美術」は、1873年(明治6年)、日本政府がウィーン万国博覧会へ参加するに当たり、出品分類についてドイツ語の Kunstgewerbe および Bildende Kunst の訳語として「美術」を採用したのが初出とされる(山本五郎『意匠説』:全文は近代デジタルライブラリ所収)。すなわち「墺国維納府博覧会出品心得」の第二ケ条(展覧会品ハ左ノ二十六類ニ別ツ)第二十二区に「美術(西洋ニテ音楽、画学、像ヲ作ル術、詩学等ヲ美術ト云フ)(後略)」と記される。あるいは西周 (啓蒙家)が1872年(1878年説もあり)『美妙学説』で英語のファインアート(fine arts)の訳語として採用した(「哲学ノ一種ニ美妙学ト云アリ、是所謂美術(ハインアート)ト相通シテ(後略)」とある)

1876年(明治9年)に初の美術教育機関として工部大学校に工部美術学校が開設された。また、1877年(明治10年)の『内国勧業博覧会区分目録』には、「第三区 美術 但シ此区ハ、書画、写真、彫刻、其他総テ製品ノ精巧ニシテ其微妙ナル所ヲ示ス者トス」とあり、ファインアートのうち視覚芸術に限定した概念となった。文芸、音楽、演劇などは上位概念の「芸術」が使われている。

美術」という言葉は、所与のものではなく、近代になって新しく現れた言葉であり―つまり、西洋から移植された言葉であり、またそれが意味するものが近代以前とは異なるということは、よく知られている。 しかし、そのように、美術を「制度」という側面から見直すという研究は、まさにこの本から始まったことであり、日本近代美術の制度論に関心がある人であれば『眼の神殿』は必読の書なのである。

『列島の絵画』のなかで北澤憲昭氏は日本画をクレオールみたいなものと表現している。

字句「日本画」は伝統絵画と西洋画の接触が産み落とした、近代日本画という新たな表現から生まれたものである。
岡倉天心との個人的関係から日本美術を収集してきたボストン美術館を例外として、いわゆる近代日本画を系統的に収集している西欧の美術館は無い。
さらに、明治期にシカゴ万博で日本画を出品して国威発揚に努めようとしたら、額装でないものは絵画でないという方針により、軸装の日本画は工芸品としか見なされなかったようだ。
、あるいはパリ万博で日本美術の個室展示をしたところ、各流派のものを展示したのにどれもこれも同じ貧相なものにしか見えなかった、とか悲しい話がある。
日本画にも色々定義はあろうが、近代日本画というものは明治の開国期に西洋絵画を目の当たりにした衝撃の反作用として誕生したとの枠組みが北澤氏により提示されている。

しかし大衆レベルを基本とする観光にあっては、事情は違うのであって、江戸期の南画に淵源を持つ素人風の俳画みたいなものも依然として人気がある点からわかるように、近代日本画というのもそういう水準では生きているのかもしれない。

関連記事

no image

千相哲氏の「聞蔵Ⅱ」を活用した論文

「「観光」概念の変容と現代的解釈」という論文を偶然発見した。 http://repository.

記事を読む

no image

『仕事の中の曖昧な不安』玄田有史著 2001年発行

書評ではなく、経歴に関心がいってしまった。学習院大学教授から東京大学社研准教授に就任とあることに目

記事を読む

no image

新語Skiplagging 「24時間ルール」と「運送と独占の法理」 

  BBCの新しい言葉skiplagging

記事を読む

no image

ジョン・アーリ『モビリィティーズ』吉原直樹・伊藤嘉高訳 作品社

コロナ禍で、自動車の負の側面をとらえ、会うことの重要性を唱えているが、いずれ改訂版を出さざるを得な

記事を読む

no image

Ctripの空予約騒動について 大山鳴動に近い騒ぎ方への反省

「宿泊サイト、予約しない部屋を販売」といった表題でテレビが取り上げ、関係業界内ではやや炎上気味であ

記事を読む

『戦後経済史は嘘ばかり』高橋洋一

城山三郎の著作「官僚たちの夏」に代表される高度経済成長期の通産省に代表される霞が関の役割の神

記事を読む

no image

『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』川添愛著

ディプラーニングを理解しようと読んでみた。 イタチとロボットの会話は全部飛ばして、解説部分だけ読め

記事を読む

マルティニーク生まれのクレオール。 ついでに字句「伝統」が使われる始めたのは昭和初期からということ

北澤憲昭の『<列島>の絵画』を読み、日本画がクレオールのようだというたとえ話は、私の意見に近く、理解

記事を読む

角本良平著『高速化時代の終わり』を読んで

久しぶりに金沢出身の国鉄・運輸省OBの角本良平氏の『高速化時代の終わり』を読んでみた。本を整理してい

記事を読む

no image

「観光をめぐる地殻変動」-観光立国政策と観光学ー石森秀三 を読んで

学士會会報2016年ⅳに石森秀三氏の表題記事が出ていた。論調はいつものとおりであり驚かなかったが、感

記事を読む

no image
バンクーバー予備知識

  フェンタミル カナダへやってきました。バンクーバー。

no image
AIにきく イルクーツク、ヤクーツク、ウラジオストックの旅

東京から、イルクーツク、ヤクーツク、ウラン・ウデ、

no image
新疆ウィグル自治区をネタにするYoutuber old medea もYoutubeも変わらない

旅系YoutubeRも右翼嫌中派YoutubeRも、ウィグルをネタに再

サハリン旅行

    稚内港とコルサコフ港を直接結ぶ

AIに聞く ロシア、アブハジア旅行

→もっと見る

PAGE TOP ↑