角本良平著『高速化時代の終わり』を読んで
公開日:
:
最終更新日:2023/05/05
観光学評論等
久しぶりに金沢出身の国鉄・運輸省OBの角本良平氏の『高速化時代の終わり』を読んでみた。本を整理していて偶然出てきたからである。1975年に書かれた本である。氏は、高名な交通評論家で、国鉄分割民営化を早くから主張していた研究者でもあるが、この時点ではまだ明確にはなっていない。
「高速化時代はひとまず終わった」「貨物はできるだけ「運ばない」工夫をしなければならない」「旅行回数は当然増加するはずのものである」と主張されている。やはり専門家の予測でも将来の技術開発を見通すことは難しいものであり、デルファイ法の限界を示している。夢の乗物の可能性を、アポロ計画で人類は月旅行に成功したが、それがいかに巨費をようするかが現実に明示されて夢はしぼんでしまったと記述されるが、宇宙観光の専門家は大気圏外への旅行はその気になれば商業化できたと考える人が多い。ロケット技術は相当古い技術なのである。それができなかったのはロケット専門家集団の独善性によるのではないかと考える。従って、イーロンマスク等があらためてチャレンジしているのであろう。
「これからは変化の少ない安定した社会が出現する」と記述される。変化が少ないのか多いのかは主観的な部分もあり、何とも言えないが、すぎさって見ればあまり変わり映えしないのかも知れない。固定電話が携帯に変わろうが本質的なことは変わっていないかも知れない。
「日本人の住み方は石の文化の国に比べて変化を受け入れるのに極めて柔軟であった」と感想を記述する。その例として「東京とパリを比べて両者とも路上駐車が増加し交通マヒの恐れがあった」「木の文化の日本は、車庫の義務付けをしたが、19世紀以来の5,6階建ての建物がぎっしり並んでいるパリでは困難」「交通計画もロンドン等をまねて都心まで勇敢に高速道路を開通させたが、先例のはずのロンドンはもっと慎重であった」「追い越してしまったのである」とされる。この点も、観光的には、あまりにも変化の激しい東京は、ロンドン、パリに比べて風格が劣るような感想が今日見られるところから、何とも評価がしにくい。私なら、京都よりもベニスに軍配を上げる。
「貨物輸送量が何故GDPほどには伸びなくなったのであろうか」と記述されるが、輸送量を重量と距離で考える先人の限界であろう。同書には、懐かしい言葉に「少量物品輸送」があらわれる。今では死語になってしまった。「やがて郵便局も国鉄駅もデパートの運送部門も労働不足でまいってしまうことは明らかである」と結論付けるが、小倉昌男さんがまだ宅急便を発足させていなかった時代でもある。ましてやAMAZONなど想像もできなかったのであろう。
それであっても、角本良平氏は尊敬できる先輩である。こよなく交通を愛し、多くの著作を世に出してきた。交通学者とよばれる研究者は大勢存在したが、多くは御用学者である。政府にいたことがないから、その分権威にあこがれる。従って国鉄改革時に日和見が多かったのである。その点では角本氏ははっきりしていた。その後、航空会社と運輸省が対立した時にも日和見の航空交通研究者がいた。三流学者しか交通には関心がないのであろうか、困ったものである。
関連記事
-
観光資源としての「隠れキリシタン」 五体投地、カーバ神殿、アーミッシュとの比較
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産登録された。江戸時代の禁教期にひそかに信仰を続け
-
Nikita Stepanov からの質問
Nikita Stepanov (Saint-Petersburg State Polytechn
-
『訓読と漢語の歴史』福島直恭著 観光とツーリズム
「歴史として記述」と「歴史を記述」するの違い なぜ昔の日本人は、中国語の文章や詩を翻訳する
-
「植民地朝鮮における朝鮮総督府の観光政策」李良姫(メモ)
植民地朝鮮における朝鮮総督府の観光政策 李 良 姫 『北東アジア研究』第13号(2007年3月
-
世界人流観光施策風土記 ネットで見つけたチベット論議
立場によってチベットの評価が大きく違うのは仕方がないので、いろいろ読み漁ってみた。 〇 200
-
国立国会図書館国土交通課福山潤三著「観光立国実現への取り組み ―観光基本法の改正と政策動向を中心に―」調査と情報554号 2006.11.30.
加太氏の著作を読むついでに、観光立国基本法の制定経緯についての国会の資料を久しぶりに読んだ。 そこ
-
脳科学と人工知能 シンポジウムと公研
本日2018年10月13日日本学術会議講堂で開催された標記シンポジウムを傍聴した。傍聴後帰宅したら
-
日本の観光ビジネスが二流どまりである理由
日本の観光ビジネスが二流どまりになるのは、人流に関する国際的システムを創造する姿勢がないからです。
-
加太宏邦の「観光概念の再構成」法政大学 法政志林54巻4号2008年3月 を読んで
加太宏邦の「観光概念の再構成」法政大学 法政志林54巻4号2008年3月の存在をうかつにも最近まで知
-
河口慧海著『チベット旅行記』の記述 「ダージリン賛美が紹介されている」
旅行先としてのチベットは、やはり学校で習った河口慧海の話が頭にあって行ってみたいとおもったのであるか