『高速化時代の終わり』を読んで
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最終更新日:2016/11/25
観光学者への辛口評論等~観光学研究発展のため~
久しぶりに金沢出身の国鉄・運輸省OBの角本良平氏の『高速化時代の終わり』を読んでみた。本を整理していて偶然出てきたからである。1975年に書かれた本である。氏は、高名な交通評論家で、国鉄分割民営化を早くから主張していた研究者でもあるが、この時点ではまだ明確にはなっていない。
「高速化時代はひとまず終わった」「貨物はできるだけ「運ばない」工夫をしなければならない」「旅行回数は当然増加するはずのものである」と主張されている。やはり専門家の予測でも将来の技術開発を見通すことは難しいものであり、デルファイ法の限界を示している。夢の乗物の可能性を、アポロ計画で人類は月旅行に成功したが、それがいかに巨費をようするかが現実に明示されて夢はしぼんでしまったと記述されるが、宇宙観光の専門家は大気圏外への旅行はその気になれば商業化できたと考える人が多い。ロケット技術は相当古い技術なのである。それができなかったのはロケット専門家集団の独善性によるのではないかと考える。従って、イーロンマスク等があらためてチャレンジしているのであろう。
「これからは変化の少ない安定した社会が出現する」と記述される。変化が少ないのか多いのかは主観的な部分もあり、何とも言えないが、すぎさって見ればあまり変わり映えしないのかも知れない。固定電話が携帯に変わろうが本質的なことは変わっていないかも知れない。
「日本人の住み方は石の文化の国に比べて変化を受け入れるのに極めて柔軟であった」と感想を記述する。その例として「東京とパリを比べて両者とも路上駐車が増加し交通マヒの恐れがあった」「木の文化の日本は、車庫の義務付けをしたが、19世紀以来の5,6階建ての建物がぎっしり並んでいるパリでは困難」「交通計画もロンドン等をまねて都心まで勇敢に高速道路を開通させたが、先例のはずのロンドンはもっと慎重であった」「追い越してしまったのである」とされる。この点も、観光的には、あまりにも変化の激しい東京は、ロンドン、パリに比べて風格が劣るような感想が今日見られるところから、何とも評価がしにくい。私なら、京都よりもベニスに軍配を上げる。
「貨物輸送量が何故GDPほどには伸びなくなったのであろうか」と記述されるが、輸送量を重量と距離で考える先人の限界であろう。同書には、懐かしい言葉に「少量物品輸送」があらわれる。今では死語になってしまった。「やがて郵便局も国鉄駅もデパートの運送部門も労働不足でまいってしまうことは明らかである」と結論付けるが、小倉昌男さんがまだ宅急便を発足させていなかった時代でもある。ましてやAMAZONなど想像もできなかったのであろう。
それであっても、角本良平氏は尊敬できる先輩である。こよなく交通を愛し、多くの著作を世に出してきた。交通学者とよばれる研究者は大勢存在したが、多くは御用学者である。政府にいたことがないから、その分権威にあこがれる。従って国鉄改革時に日和見が多かったのである。その点では角本氏ははっきりしていた。その後、航空会社と運輸省が対立した時にも日和見の航空交通研究者がいた。三流学者しか交通には関心がないのであろうか、困ったものである。
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