新語Skiplagging 「24時間ルール」と「運送と独占の法理」
BBCの新しい言葉skiplagging
BBCで新しい言葉を発見した。ちょうどアフリカ旅行をしており、航空券のトランジット制度を最大限利用していたから、大変興味があった。ロメからセイシェルに移動するときに、アジスアベバに航空会社の費用でホテルを利用できたことと、モーリシャスからマダカスカルに移動するときに、レユニオンに半日近く滞在できたことである。急ぐ旅客には無縁のものであるが、私のように旅を楽しむものには、重宝な航空券である。しかし、skiplaggingはその上を行き、割安の遠距離航空券を購入し、途中のトランジット空港で残りの区間を放棄してしまうという利用の仕方である。そのことは訴訟で争われているようであるが、歴史は繰り返すで、昔のアメリカ鉄道の歴史でもある。
運送と独占の法理
若いころ、国鉄の先輩で上林健二さんといったと思うが、「運送と独占の法理」という論文を書かれた方がいた。鉄道監督局で国有鉄道運賃法の全面改正を担当してたので、興味深く読ませていただいた。アメリカ大陸の鉄道は網の目状に発展してきたから、二地点間を輸送するのにルートは複数設定できる。従って、競争力のある鉄道会社が、ライバル鉄道会社を敗退させるには、遠距離輸送であっても、ライバルを狙い撃ちして割安の運賃設定をしたようである。州際交通員会(ICC)ができて、独占禁止法違反として、このような行為が取り締まられることになった。ICCは、戦後GHQが来た時に、日本の運輸省もICC的な組織に衣替えさせられそうになったと先輩から聞かされていた。何とか抵抗して、その代わり運輸審議会ができたのだという。そのためか、運輸審議会委員は、次官級の給与が支払われたのだという。これは蛇足。距離と運賃の考え方は、通信料金でも踏襲されてきたが、人工衛星経由で通信が行われるようになると、距離云々がナンセンスになってきた。このことも、若いころであるが、確か、角本良平さんの勉強会でしたり顔で発表させていただいた;汗)記憶がある。
日本でのskiplaggingの紹介
さてくだんのBBCの記事であるが、下記サイトに出ている。
http://www.bbc.com/capital/story/20190226-the-travel-trick-that-airlines-hate
出典が明確になっていないが、内容からBBCを参考にしたと思われる日本語の記事は下記サイトである。航空会社に頼まれて記述したのかもしれない。
私は日本語の記事については、facebookで
① 記事に誤りがありますね。鉄道も外に出ることはできます。そもそもラッチがないことが多いはずです。また、最初の区間を放棄することは、運送契約の適用条件に係ることですのでできないということも記事で触れておいた方がいでしょう。なお、原典はBBCの記事ではなかったかと思います。
② BBCではskiplaggingという言葉を使用しています。私からすれば、航空券の安売りも、当初は契約条項違反でした。アメリカの鉄道の独占時代は「運送と独占の法理」というものがあり、近い距離の運賃は遠い距離の運賃より安くなければならないと決められていました。米大陸の鉄道は網の目状ですから、経由の仕方で運賃が恣意的になると、公正取引阻害になるという判断でした。この記事も、もう少し掘り下げた議論が期待できます。なお、トランジットの24時間ルールは、国連観光機関が発表している、国際観光旅客数にも影響します。24時間以上365日以内滞在客がカウントされています。また、航空機を利用したパッケージツアーのルールも、24時間ルールです。
2つのコメントしておいた。知人でもあるので厳しかったかもしれないが、プロであるから一応批判しておいた。事前に相談してくれればアドバイスもできたかもしれない。
運送条件の適用問題
航空券に関しては運送条件が問題となる。世界中を飛び回るのであるから、いつの時点の運送条件であるも大きな要素である。従って、最初の出発地を問題にする。このことは、旅行管理者試験の試験問題に必ず出されるから、きちんと試験を受けた者には常識でもある。私が故郷に近い小松空港から羽田経由でニューヨークまでの往復航空券を購入しても、必ず小松空港から乗らなければならない。運送条件を決定する重要事項であるからだ。このことは合理的である。問題は帰りである。常住地の東京からわざわざ小松まで行く必要性はあまりない。従って搭乗放棄するということもあるであろう。これもskiplaggingである。
24時間ルール
途中下車とトランジットが問題になっている。途中下車は、国鉄運賃時代から今日に至るまで、乗車券の有効期間との関係で論じられ、国内用の旅行管理者試験でも必ず出される問題である。欧州等では長距離の普通列車を中心にラッチがなく駅構外への出入りが自由であることが多く、日本のような途中下車という概念があまりないのではと思われるが、最近では座席指定の列車等も普及して日本と同じようになってきている。しかも、鉄道は構内外が問題となるが、航空は入国あるいは制限区域という、運送とは別の行政判断の世界を対象としており、運送とは一応別のものであるから、論じ方も違うのであろう。
トランジットの24時間ルールは、世界中にネットワークが張り巡らされ、時差を前提とする国際航空の世界では必須の条件である。この影響を受けて、国際統計でも、包括旅行契約でも24時間ルールが国際ルールである。
skiplaggingの合法非合法
訴訟になっているから、いずれ決着がつくであろうが、航空会社の身勝手でもあろう。もし問題なら、かつてのアメリカの鉄道と同じく、そのような航空運賃設定をすることも問題にしなければならない。運送契約とは観念的なものであり、実運送を問題とするなら、コードシェア等ほかにも問題が出てくる。放棄した運送区間の運賃の払い戻しが請求されないのであれば、私には問題はないと思われる。
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