Ctripの空予約騒動について 大山鳴動に近い騒ぎ方への反省
「宿泊サイト、予約しない部屋を販売」といった表題でテレビが取り上げ、関係業界内ではやや炎上気味であった。行政も立ち入り検査したからであろうが、Ctripが説明文を報道したことにより、ようやく全体像が明らかになった。
今回の騒動は、三面記事的に表現すると、ネットを利用して、10万円の高級旅館の予約を請け負って、取れなければ黙って返金し、取れれば手数料を稼ぐ阿漕なビジネスを許していいのかという騒ぎである。そのサイトが中国のCtripと日本の子会社であったから、嫌中派の人々は鬼の首を取ったように大騒ぎをした。ハイシーズンの満室の高級旅館だから、取れなければ利用者は泣き寝入りをするだけだというのであるが、さすがに大手新聞は静観していた。高級旅館であることから、代替性が少ないので問題には違いがないが、庶民からすればあまり同情はされない。むしろ供給者側の信用に響くということかもしれない。今回はCtripのサイトであるから、利用者は中国富裕層が中心であろうから、中国政府の問題でもある。なぜ日本の観光庁が素早く動いたのか不思議である。
そもそも、航空では実運送業者のオーバーブッキングが制度として浸透したせいか、メディアも冷静に報道している。実運送業者ではなくて旅行会社が航空機のオーバーブッキングをすることだって、制度的には想定しており、そのために旅程保証責任というものが標準約款で定められている。
業界は架空宿泊在庫と称して問題視した。研究者も大騒ぎしたのだが、私は初期から冷静にこれらの対応に異議を唱えたのだが、全く理解されなかった。
私の主張は、空売りはよく知られている株等では行われている。船の世界で船腹確保が行われてきた。物流では、これを制度的に利用運送としている。実運送より契約運送責任の方が重いのである。航空の世界も、利用航空運送事業が業界を発展させてきた。旅行業界も、請負責任を負うドイツでは利用運送であり、利用宿泊である。日本は旅行業界に力がないから、請負責任はおえず、現行の旅行業約款で、特別補償責任と旅程保証責任を負う形で収まっている。
実は旅行業法は、利用運送についても、利用宿泊についても規定を設けている。しかし、標準約款がないのは、業界が販売しないのと、行政も対応できないからである。このことの理解の欠如が、架空在庫という表現になって表れたわけであり、架空座席販売はJTBでも行っているであろう。だから、飛行場で満席であぶれる人が出るのである。オーバーブッキングというのである。
以下Ctripの冷静な説明文を乗せておく。ここに出てくるリクエスト予約という字句は私も初めて聞いたのあり、不勉強であった。利用契約ではなく、手配の手配といったところであろうか。
当サイトにおけるリクエスト予約に係る問題に関して
謹啓 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
Nasdaq 上場会社シートリップグループ傘下の日本国内ブランド「Trip.com(以下、当サイト)」に関し、先般より報 道されております問題につきまして、弊社の管理不足により、当サイトをご利用いただいているお客様、お取引先各社様、 並びに関係各所の皆様に多大なるご迷惑、ご心配をおかけしておりますこと、深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ござ いません。
今回の件につきましては、皆様からさまざまなご意見を頂戴しており、今後、そうしたご意見も踏まえながら、情報の正 確性に留意するとともに、販売業社の管理につきましては特に厳しく管理、統制して参る所存です。
1、原因について
当サイトは OTP(オンライントラベルプラットフォーム)の販売モデルとして、お客様に対し、より豊富な宿泊施設、宿泊 プランおよび最適な価格をご提供させて頂くことを目指しております。そのため、弊社は直接契約の宿泊施設から宿泊プ ランを仕入れている以外にも、販売業者が扱っている宿泊プランも販売させていただいております。
今回問題となっておりますのは、当サイトにて一部採用しておりました「リクエスト予約」と呼ばれる販売方法に関するも のです。リクエスト予約は海外では比較的よく行われているものですが、日本でのオンライン販売においてはあまり馴染み のないものでありました。
リクエスト予約の販売フローは以下となります。
1) 当サイトにおいて、ご希望のホテルの予約をお申し込み頂く
2) 弊社経由で販売業社にお客様のご希望をお伝えする
3) 販売業社からの予約確定連絡(通常 24 時間以内)を弊社側に頂く
4) お客様に確定連絡を入れる
2、事実内容と対応策について
今後同様の事態を繰り返すことのないよう、12 月 4 日時点で当サイトでのリクエスト予約を停止いたしましたが、そこ までに成立したリクエスト予約において、販売業者からの予約確定連絡を受け、お客様に予約確定のご連絡をしていた ものの、その時点でホテルからの予約確認番号が確認できていなかったものが、計 403 件ございました。
本日 12 月 12 日時点で、各販売業社を通じ、うち 366 件の予約につきましては、問題なく部屋が確保されているこ とを確認いたしました。残りの 37 件の予約につきましては、本日までにホテルからの予約確認番号が確認されなかったた め、弊社として、お客様の権益を守るため、予約キャンセルの処理を行い、当該お客様に対し、以下の対応を進めている ところです。
‐ 部屋のアップグレードもしくは他宿泊施設のご提案。差額がある場合は弊社負担とさせて頂く。
‐ ご希望の部屋を手配できなかった場合、全額返金に加え、当初宿泊料金 1 泊目の 3 倍相当額を賠償させて頂く。
現在のところ、37 件のうち、17 件につきましては、お客様への対応が終了しており、残りの 20 件につきましては、12 月 13 日中に全件、対応を終了させる予定となっております。
また、いくつかのご指摘を頂戴しておりますキャンセル料につきましては、弊社はプラットフォームとして販売業者から提供されている宿泊プランのキャンセルポリシーをそのまま掲載しており、そのため、これまでに一部不適切な内容も掲載されて おりました。今後はキャンセルポリシーの機能を細かく設定できるよう充実させ、販売業者により正確なキャンセルポリシー を提供するように求めてまいります。なお、予約が成立していない場合、弊社がお客様からキャンセル料を頂戴することは 一切ごさい゙ません。
販売業者の管理につきましては、今回、これまで以上に厳格な審査基準を設けました。すでに運用を開始しております が、今後はより一層厳しく管理、統制して参ります。
この度は、弊社の管理不足により、皆様にご迷惑をおかけしておりますこと、改めて深くお詫び申し上げます。今後は、 皆様からいただいた貴重なご意見をもとに、サービスの改善に努めて参りたいと考えております。Trip.com は日本のお客 様に寄り添い、日本の宿泊施設様とパートナーシップを深め、より良いサービスをより多くの皆様にご提供できるように努力
を続けてまいります。
謹白
※当サイトに掲載された情報に誤りがございましたら、ただちに然るべき対応を取らせていただきます。お客様のこ予゙約その 他につきまして、ご意見、こ質゙問がごさい゙ましたら、下記、弊社カスタマーサホー゚トホットライン(年中無休24時間日本語 対応)にご連絡ください。
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