『地方創生のための構造改革』第3章観光政策 論点2「日本における民泊規制緩和に向けた議論」(富川久美子)の記述の抱える問題点
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最終更新日:2023/05/27
旅館、ホテル、宿泊、民泊、不動産賃貸、ルームシェア、引受義務, 観光学評論等
博士論文審査でお世話になった溝尾立教大学観光学部名誉教授から標記の著作物を送付いただいた。NIRAからはいつも定期刊行物を送っていただいているので、その一環かと思っていたら、溝尾先生からの謹呈であった。
民泊について基礎的な論述した物が少ない中で、今回は表題が示すように真正面から取りあげているものであるだけに、期待して読んでみたが、はやり物足りなさが残るものであった。
民泊ビジネス論であればともかく、政策論であるから、きちんとした法制度を論じたうえのものでないと不満が残ってしまうからである。
1 引受義務
まず、旅館業法が、何故法律として存在するかということである。制定時、戦前の治安維持の観点からの色彩が残っていたとはいえ、ポツダム勅令で無効にされたものも存在した時代であり、24年にこの旅館業法が制定された時、宿泊引受義務規定が最大唯一の法律事項であった。あとは、消防法、建築基準法等で処置できるものである。
現在の民泊論議でも、規制緩和により交通事業の運送引き受け義務が廃止される中で、宿泊引受義務が存続しているのは論議があると小生の学位論文等でも問題提起してきたが、逆に法律事項がなくなると、既存宿泊業界が民泊に反対する根拠をなくすこともあり、現在では政治問題化するであろう。しかし、ハンセン氏病患者団体への対応から営業停止がなされた根拠もこの引受義務違反であり、旅行業法に引受義務が存在しないこととバランスをかいていることも認識しておかなければらない。
2 住と宿の関係
次に政策論として、宿と住の深い認識が必要である。
予想に反して、政策論としては宿政策が住政策に先行してる。つまり定住が前提でない社会で内務省により福祉政策が始まったから、旅館業法は、旧来の旅館条例等にならい、下宿営業、簡易宿所営業を、旅館営業とともに規定しているのである。つまり、住政策と宿政策が未分離の状態から始まったのである。
本格的住政策は、戦時政策から始まっている。出征兵士の残された家族保護のため借家人の権利等の保護立法が始まった。戦後判例等により借家人、借地人の権利が強化されため、都市部における不動産投資が進捗せず、定期借家権、借地権制度が制定されたが、公明党等の妥協から新設物件に限定されることとなった。
それでも定期借家権制度の発足により、現在の民泊ビジネスのリスクが少なくなったといえる。
3 宿泊契約と不動産賃貸契約のデマケーションの問題
本論文での最大の問題は、宿泊契約と不動産賃貸契約の認識の深度化の欠如である。自治体が関係業界の政治的対立の中で苦し紛れに運用している30日基準に関する論述が全くないことである。30日は下宿営業が一月を基準としていることから生まれた便宜的なものであり、住と宿の関係を理解すればすぐにわかることでもある。制定時は下宿は1週間単位のビジネスであった。問題は、法的に民事契約としての宿泊契約と不動産賃貸契約の間でどのような法的効果が異なるのかということである。私は溝尾教授の指導で提出した学位論文等でこの点のことも指摘した。結論から言って本質的違いはないのである。歴史的に宿政策が住政策に先行したことからも、衣食住という政策の基本に宿と住は違いはないのである。当事者間の契約で決めることは千差万別であり、本質的なものはないであろう。トイレを提供するか、お風呂を提供するか、等いくらでも違いはある。それは住と宿の問題ではない。
側聞すると、内閣法制局でも両者の違いを説明することは困難であると結論付けたということであるが、その真偽を知りたいところでもある。
従って、民泊論議で、違法民泊云云の議論がなされるが、宿泊契約ではなく、短期の不動産賃貸契約(30日未満)と主張すれば、日本は罪刑法定主義の民主国家であるから、起訴されることはないと、私は理解している。
4 海外との比較
海外の事例研究は私は実施したことがないのであまり詳しくは語れない。
しかし、OECDの統計でも、HOTELとPRIVATE ACCOMODATION を区別しているから、民泊に近いものはあるはずであり、国によってそのウェイトが大きく異なることも事実である。
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