渡辺惣樹『戦争を始めるのは誰か』修正資本主義の真実 メモ
要旨
第一次世界大戦の英国の戦争動機は不純 レイプオブベルギー チャーチルの強硬姿勢
第二次世界大戦の真の原因はベルサイユ体制の不条理であり、チェンバレンの愚策(ポーランド独立保障)であり、ポーランドのあまりにかたくなな対独外交であった。
フランクリンルーズベルトの異常なまでの戦争介入の意思
欧州は独ソの局地戦になるはずであった。日本の真珠湾攻撃はあり得なかった
アマゾン書評1
渡辺惣樹氏の『戦争を始めるのは誰かー歴史修正主義の真実ー』(文春新書・平成29年刊)を読んでみたが、氏の論拠とする、フーバー、ハミルトン・フィッシュなどの歴史観の共通点は幾つかある。
一、共にルーズベルト(民主党)の政敵であり、共和党の政治家であること。特にフーバーは、大統領選挙でルーズベルトに敗北を喫した無念さを持っている。(こういう政治家の「回顧録」などは、「歴史の証言」としての史料価値は高いが、「全体的歴史像」を構成する立場にはない。)
二、共に、アメリカの「孤立主義」の立場に立つ。つまり、ヨーロッパで何が起きても、アメリカは関与しないことが建国以来のアメリカの国是であり、第一次大戦におけるウィルソンの参戦、第二大戦におけるルーズベルトの参戦判断はまちがいである、という立場に立つ。
三、したがってウィルソンの国際連盟、チャーチル=ルーズベルトの国際連合(大西洋憲章)なるものには何らの価値も無いという立場に立つ。
三、共に反共主義者。「ファッシズム」と「共産主義」とどっちが悪いか、という「悪さ比べ」でいうと「共産主義の方がタチが悪い」という立場に立つ。
四、第二次大戦後の、米ソ対立の冷戦構造は、ルーズベルト・チャーチルらの対ソ連政策の誤りから生じたものである。つまり、第二次大戦の結末は、中国の共産化、東欧の共産化など、共産圏の拡大をもたらしただけであった。そのために多くの米国の青年たちが犠牲になった。そのすべての責任はルーズベルトにある。(これは後付の結果論)
これが渡辺惣樹氏の主張する「歴史修正主義」のアウトラインである。
二、
ハミルトン・フィッシュ著『日米開戦の悲劇ー誰が第二次大戦を招いたのかー』(PHP文庫)において岡崎久彦氏は以下のような指摘をしている。
(岡崎久彦(監訳者)のまえがき)
(1)<「国際政治の本質」に立ち戻って考えて、①【ルーズベルトとハミルトン・フィッシュのどちらが正しかったか】、ということである。ルーズベルトのやり方は、不正直であったか、非アメリカ的であったか、という問題から離れて、アメリカの国家戦略として、ルーズベルトが正しかったか、どうかである。>
(2) <米国がいつまでも、世界政治の局外にいることは許されないことは事実であろう。たとえば、アメリカが旧大陸のすべてのコミット面とから手を引くことが非現実的なことは、誰の目にも明らかなことである。それなら、第一次大戦では局外に立てたか、その方が賢明だったか。それが第二次大戦ではどうだったか、という設問をしてみても、答えは程度の問題でしかない。やはり、いつかは②【アメリカは、世界的責任を負うべき宿命も持っていた】のだろう、というより、どの国でも、その国が自分で決めた国是がどうあろうと、国際政治の中で孤立して、それですまされるということはありえない。>
(3)<アメリカの孤立主義、あるいはその裏返しであるモンロー主義と言っても、畢竟、英国海軍(Royal Navy)が七つの海を支配していることが前提であったのだから、英国のヘゲモニーが脅かされれば、これを助けざるを得なかった、というのは歴史上の事実である。その意味では、③【ルーズベルトの方が正しかった】かも知れない。>
(4)<しかし、国際政治に全く無経験なアメリカが、権力政治の本当の意味を理解しないで、旧世界の政治に介入したために、どれだけの過ちを犯したか、ということになると話は別である。特に、東部インテレクチュアルの未熟さをそのまま持って政権を担当したルーズベルト及びその側近の、1910年代、20年代のマルクス・ボーイ独特の、④【共産主義に対する見方の甘さが、ヤルタ協定などにおいて、幾多の錯誤を犯した原因となった】ことは否定し難い。>
すなわち、岡崎久彦氏の見解は以下のように要約できる。
①【ルーズベルトとハミルトン・フィッシュのどちらが正しかったか】、
②【アメリカは、世界的責任を負うべき宿命も持っていた】
③【ルーズベルトの方が正しかった】
④【(ルーズベルト政権の)共産主義に対する見方の甘さが、ヤルタ協定などにおいて、幾多の錯誤を犯した原因となった】
このあたりが、妥当な見解である。やはり「アメリカ孤立主義」に固執したフーバー=フィッシュ史観(渡辺惣樹氏の歴史修正主義)は、基本的に誤っているといわざるを得ない。
その他、参考になるのが
林健太郎著『両大戦間の世界』(講談社学術文庫または文芸春秋版・「大世界史・22」)
である。
関連記事
-
-
ウェストファリア神話
国際観光を論じる際に、文科省からしつこく、「国際」観光とは何かと問われたことを契機に、国際について
-
-
Quoraに見る歴史認識 日本は日清戦争、日露戦争では勝利することができたのに、先の大戦 (第二次世界大戦) ではなぜ敗北に至ったのでしょうか。 日清日露と第二次世界大戦を比較対照して答えていただけたら幸いです。?
日本は日清戦争、日露戦争では勝利することができたのに、先の大戦 (第二次世界大戦) ではなぜ敗北
-
-
Quoraに見る歴史認識 太平洋戦争(大東亜戦争)は侵略戦争だったのでしょうか?
侵略には外交用語として明確な定義があります。計画に基づいて軍事作戦を先制発動することです。
-
-
歴史認識と書評『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏 』長谷川毅
日本降服までの3ヶ月間を焦点に、米ソ間の日本及び極東地域での主導権争いを克明に検証した本。
-
-
QUORAにみる歴史認識 伊藤博文を殺したのは安重根ではないという説を見ました。もし安重根以外が殺したとしたら誰が何の為に殺したのですか?回
伊藤博文を殺したのは安重根ではないという説を見ました。もし安重根以外が殺したとしたら誰が何の為に殺
-
-
広田照幸著『陸軍将校の教育社会史』1997年発行をよんで
同氏の博士論文であり19回サントリー学芸賞受賞作である。原則、博士論文は条件として出版を義務付けられ
-
-
Quora 韓国の方が言う「日本は一度も真摯に謝罪した事が無い」というのは客観的に見て事実ですか?
https://jp.quora.com/%E9%9F%93%E5%9B%BD%E3%81%AE%
-
-
『元寇』という言葉は江戸時代になって使われ始めた
Wikiでは、「「元寇」という呼称は江戸時代に徳川光圀が編纂を開始した『大日本史』が最初の用例で
-
-
山泰幸『江戸の思想闘争』
社会の発見 社会現象は自然現象と未分離であるとする朱子学に対し、伊藤仁斎は自然現象
-
-
QUORA ゴルビーはソ連を潰したのにも関わらず、なぜ評価されているのか?
ゴルバチョフ書記長ってソ連邦を潰した人でもありますよね。人格的に優れた人だったのかもしれませんが