『幻影の明治』渡辺京二著 日本の兵士が戦場に屍をさらしたのは、国民の自覚よりも(農村)共同体への忠誠、村社会との認識で追い打ちをかけている。惣村意識である。水争いでの隣村との合戦
「第二章 旅順の城は落ちずとも-『坂の上の雲』と日露戦争」
著者は「司馬史観」に手厳しい。昭和、特にその軍隊を否定する「司馬史観」に反発する見方が普通にあるが、著者は、それとは別に司馬遼太郎の歴史認識の誤りや先入観を抉り出す。言われればその通りというしかない。
明治日本のゼロから始まった近代化が成功したのは、世界史上の奇跡と司馬氏は言いたいという点には、昭和の戦争世代である司馬氏の心理的な傷痕が隠れているとする。ロシアに勝てたのは、近代化の達成においてロシアをしのいでいたからだとしたいのである。
すでに「ロシアに勝った」問点においても歴史認識は変化しているが、江戸時代の評価においてさらに変化が激しい
渡辺氏は 幕末の日本人大衆は、馬関戦争では外国軍隊の砲弾運びに協力して(高賃金で雇われたのであろう)、それが売国の所業だとは全く考えていなかったという例を出す
横浜市立大学の昨年の期末試験でも会った回答だが、戊辰戦争で会津藩が官軍に攻められたとき、会津の百姓は官軍に雇われて平気の平左だった。
このことは、中国の民衆の行動にも表れるが、日本の後世の歴史は民衆の態度に否定的。植民地の民衆も同じであったろう。為政者が英国人であろうが土地の支配階級であろうが同じなのだ。
つまり近代国家なる概念が後で作られたものであろうからである。
私もすとんと胸に落ちのは、日露戦争開戦直前、日本の指導者は官民をとわず、戦争を望んではいなかった。山本権平は朝鮮など放棄していいと言っていた。それが馬関戦争で弾運びをしていた民衆が、ついに祖国のために一命を賭する国民に変化していた。それに対して清国の留学生(武田泰淳『秋風、秋雨人を愁殺す』の主人公、1907年紹興で蜂起計画し処刑された女性革命家)が兵士が奴隷のように蔑視されている清国の現状を、中国人が教育を受けていない損害との認識を示している
しかし、日本の兵士が戦場に屍をさらしたのは、国民の自覚よりも(農村)共同体への忠誠、村社会との認識で追い打ちをかけている。惣村意識である。水争いでの隣村との合戦 来世があるイスラムのジハードは違うのであろう。
P.114 最近の研究では、征韓論の言い出しっぺは木戸孝允であり、その実行者は江華島事件の挑発者大久保利通であり、西郷隆盛に征韓の意図があったことが疑われている
巻末の新保祐司氏との対談の中で、『逝きし世の面影』が評判になっても、「日本いいよ、日本いいよ」という本だと誤解されてしまったとあったが、さだめし小生も著者の真意が十分理解できなかった読者の一人だろう。そして「読み巧者」とはとてもいえない。
関連記事
-
-
書評 三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』日本何故いかにして植民地帝国となったのか ビルマの竪琴のラストはスコットランド民謡 共通の歌曲がない 欧州文化と同じ意味でのアジア文化の存在に疑念
植民地帝国へと踏み出す日本 三国干渉が契機 非公式帝国主義 コストをかけなくてすむ方式 不平
-
-
QUORAにみる歴史認識 不平等条約答えは長州藩と明治政府のせいです。今回に限って言えば、長州藩と明治政府が不平等になるように改悪した原因なのです。
日本人があまり知らない、日本の歴史といえば何が思いつきますか? 日米和親条約と日米修好通商条
-
-
『永続敗戦論 戦後日本の核心』、『日米戦争を起こしたのは誰か ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず』『英国が火をつけた「欧米の春」』の三題を読んで
「歴史認識」は観光案内をするガイドブックの役割を持つところから、最近研究を始めている。横浜市立大学論
-
-
『本土の人間は知らないことが、沖縄の人はみんな知っていること』書籍情報社 矢部宏治
p.236 細川護熙首相がアメリカ政府高官から北朝鮮の情勢が緊迫していること等を知らされ、米国は
-
-
『戦争を読む』中川成美 「文学は戦争とともに歩む」は観光も戦争とともに歩む?
もし文学が、人間を語る容れ物だとしたら、まさしく文学は戦争とともに歩んだのである。しかし、近代以降の
-
-
『天皇と日本人』ケネス・ルオフ
P114 マイノリティグループへの関心 p.115 皇室と自衛隊 他の国の象徴君主制と大きく
-
-
書評『大韓民国の物語』李榮薫
韓国の歴史において民族という集団意識が生じるのは二十世紀に入った日本支配下の植民地代のことです。
-
-
QUORA ゴルビーはソ連を潰したのにも関わらず、なぜ評価されているのか?
ゴルバチョフ書記長ってソ連邦を潰した人でもありますよね。人格的に優れた人だったのかもしれませんが
-
-
『元寇』という言葉は江戸時代になって使われ始めた
Wikiでは、「「元寇」という呼称は江戸時代に徳川光圀が編纂を開始した『大日本史』が最初の用例で
-
-
「中国は国際秩序の守護者になるのか?」『公研』2017年3月号No.643鈴木一人
偶然二編の論文を読み、日本のマスコミでは認識できない記述を見つけた。 嫌中ムードを煽り立てる記事が
