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○『公研』2015年9月号「世界のパワーバランスの変化と日本の安全保障」(細谷雄一)を読んで

公開日: : 最終更新日:2019/07/07 戦跡観光, 歴史は後から作られる」, 軍隊、戦争

市販はされていないが、毎月送られてくる雑誌に公益産業研究調査会が発行する『公研』という雑誌がある。読みごたえのある雑誌で、昔、朝日新聞の田岡俊次さんと日本の船員の確保に関して対談をし、公研に掲載されたことがきっかけで、その後送られてくるようになった。田岡さんには市長時代、政治後援会主催の講演会でスピーチをお願いしたことがあるが、その時の地元の聴講者の一人が、かなり右翼的な発言をして困ったことがあり、迷惑をかけたままである。

2015年9月号に細谷雄一氏の講演録が掲載されていた。極めてわかりやすく、私がよくコメントをするNewspicksにも嫌中的で右翼的な人が多いのだが、これまで違和感を覚えてきたことが、この記事を読んですっきりしたような気になったので、以下まとめてみた。

まず、細谷氏は安全保障法案には積極的な評価をされている。いままでは平時と戦時、個別的自衛権と集団的自衛権というように白黒二元論で考えていたが、今の世界情勢はグレーゾーンで動いている。その部分は従来の憲法解釈では行使不可能だが、今回の法律的な手当てが最大の焦点であるとされる。法律論というよりも立法政策論を主張されている。その立法政策論には理解できるところが多い。反対意見にも「日本の国民やメディアが成熟していない」「ずれた認識をもつ人が首相になるかもしれないという不安が潜在的にある」から「日本が積極的な貢献をすべきでないという議論は一定程度合理的」とされる。私は戦前の観光政策を研究していて、大正デモクラシーの後の1930年代に日本がおかしくなっていったことを認識しているので、その不安をかなり強くもっている。いずれにしても、私自身は憲法論議を回避して法案を提出することには賛同できないと考える。

細谷氏は、安部総理が国会で中国の脅威について指摘したことは必ずしも必要でなかったとされる。中国との関係が修復されれば安全保障法はいらなくなるということになるが、そのようなことではないとする。安部総理の支持者に、嫌中的で靖国神社問題等かなりずれた認識を持つ人が多いのも気になるところである。

細谷氏も日本の戦争目的を「アジアの解放」とすることは歴史研究では既にかなり明確に否定されている。「戦前の日本軍は必ずしも国民の命を守るために使われていたわけではなかった。中国に進出して多くの人を殺し、朝鮮半島を植民地化し、ソ連との戦争に備え、アメリカに奇襲攻撃した」「三百万人を超える日本国民が生命を失い、一千万人ともいわれる中国の人々が死去し、東南アジアも含めると二千万人以上が太平洋戦争でなくなった」とされる。

以上のような歴史認識のもとで、細谷氏は「戦前に日本が軍国主義であったから道を間違えたというのは必ずしも適切な理解ではない」「イラク戦争の時アメリカ一国の軍事費はアメリカ以外のすべての国の軍事費の合計より多かった」「このときのアメリカほど軍国主義の国家はありません」とし、戦前の日本の失敗は統一的な意思決定ができなかったのであるとされる。日本が東南アジアにあるイギリスの植民地を攻撃した場合、アメリカが対日参戦することをチャーチルは求めたがルーズベルトは拒絶。その理由はアメリカはイギリスの植民地で、反植民地主義が建国以来の一貫したイデオロギー。フランスがナチスに占領されても一人も兵隊を送らなかったのだから、イギリスの植民地が侵略されたからといって参戦することはなかったはず。日本がアジアの解放を求めるのであれば、ルーズベルトの提唱する大西洋憲章に賛同すればよかった。アメリカは1946年にフィリピンの独立を合意していた。従ってアメリカと戦争をするときに「アジア解放」は使えないはずであり、そもそも日本の対米開戦の戦略目標は何だったのかわからない。自動車はまだ普及していなかったため、国民生活に石油はそれほど必要ではなく、誰が石油を使うかというと陸軍から回ってこなかった海軍が石油を得るために対米開戦を準備しなければならなかったと言わざるをえない。これが1941年の状況で、国際情勢認識が正しくなかったし、統一的な意思決定ができなかったというのが、軍国主義の最大の問題であった。中国一国との戦争にも勝てない日本が、その戦いを続けながら、アメリカおよびイギリスと戦争をし、更にはソ連との戦争に準備をしていたと論評する。

統一的意思決定ができないことは戦前だけではなく、尖閣沖の中国漁船衝突事故時の外務省、防衛省、海上保安庁もバラバラに鑑定に情報をあげてきたのである。現在はNSCがつくられたが、私は、2015年7月5日のブログでも紹介した西浦進の意見(『昭和陸軍秘録 軍務局軍事課長の幻の証言』(日本経済新聞社))ように、伝統ある大蔵省のような政治に強い秘密が守れる組織でなければ無理であるから、今後とも各省バラバラの対応になると思っている。そのような認識に立てば、海軍、陸軍の争いはなくても、統一的な意思決定は無理と思うものだから、安全保障法にも不安を感じるのである。

中国による南シナ海の実効支配を想定しなければならないとする。南シナ海は海が非常に深いのでアメリカに探知されずに中国の原子力潜水艦が移動できる。日本の対潜技術は高度で米国から期待されているが、日本が情報収集すれば中国は異常接近して体当たりをしてくるから戦争の危険がある。その南シナ海への関与は日本は明確に否定している。南シナ海を通過しなくても石油は輸入できるから、安全保障法の対象外でもあり、自衛隊は関与したくないのである。

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