観光資源としての明治維新
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歴史は後から作られる」
義務教育やNHKの大河ドラマを通じて、日本国民には明治維新に対するイメージが出来上がっている。
しかし、そのイメージは、歴史学者の考えるものとは大きくずれている。
そのことが、明治維新百五十年にあたり、中央公論の特集記事をはじめとして、改めて浮き彫りにされている。
浮き彫りにされることは好ましいが、観光研究者は改めて自分たちの観光資源論を問い直さなければならない。
観光資源は、研究者の間で文化資源と自然資源に分類することが通例である。
私はそのことを何度も否定して来ているが。
文化財保護法の文化財と文化観光資源も何の疑いもなくほぼ同一視されている。
しかし私は、観光資源は、人間の「興味」が土台であり、フェイクであっても構わないと主張している。
坂本龍馬は武器商・グラバー商会の使い走りであり、吉田松陰は偏狭的なテロリストであると歴史学者はいう。幕府は気にも留めていない小物であったが、自ら過激なことを言って自首してきたので処分せざるを得なかったとする。
そこには、大衆がイメージするものとは大きなギャップがある。
明治維新は決して薩長の下級武士が行ったものではなく、橋本佐内など高級武士が唱えたものの成果だというのが学者である。
忠臣蔵も石川五右衛門も歌舞伎などによりフェイクの部分が多いが、観光客はそれでも楽しんでいるのだから、
高知県や鹿児島県、山口県、京都府は、明治維新の評価が変わっても、観光ビジネスが成り立たなくなるから困るということにはならないであろう。
白虎隊の福島県でも、戊辰戦争はサムライの戦争であり、庶民には関係がなかったとする見方もある。これでは悲劇の観光資源ではなくなってしまう。
しかし、観光研究者の観光資源に関する説明ぶりは、変えてもらわなければならないであろう。一応、サイエンスなのだから。
財団法人JTBは、観光資源台帳を作成し、超A級観光資源を「わが国を代表する資源であり、世界に誇示しうるもの。日本人の誇り、日本のアイデンティティを強く示すもの。人生のうちで一度は訪れたいもの」とするが、「日本人の誇り、日本のアイデンティティを強く示すもの」とするのは表現の行き過ぎかもしれない。フェイクである可能性があるものが含まれていないとは限らない。
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