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現代では観光資源の戦艦大和は戦前は知られていなかった? 歴史は後から作られる例

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 出版・講義資料, 観光資源

『太平洋戦争の大誤解』p.183

日本人も戦前はほとんど知らなかった。戦後アメリカの報道統制が解除されてから有名になった

航空機時代を見越していたのは日本の方である。空母は日本の方が多かった。

https://www.amazon.co.jp/%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8%E3%81%AB%E3%81%AF%E8%BC%89%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84-%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%AE%E5%A4%A7%E8%AA%A4%E8%A7%A3-%E6%AD%A6%E7%94%B0-%E7%9F%A5%E5%BC%98/dp/480130088X

本書の著者である武田知弘氏といえば、戦時中のドイツや日本の社会状況を扱った本を幾つも出しており、それらはかなり面白かった(やや
ドイツ礼賛気味ではあるが)ので、本書に対しても購入する前からかなり期待していたのですが、残念ながら本書だけで得られる知見というものは、ほとんどありませんでした。本書に収録されている話は、日露~大東亜戦争に関する最近の本であれば、大体何らかの形で見ることができます。
ですが、それらを差し引いても、本書には一読の価値がありました。まずは本書の良かった点を挙げると、以下のようになります。

☆☆ 同じネタを扱って、同じ結論にたどり着いても、そこには武田氏の考え、ひと工夫が加えられていて面白い(第1、5、6章)

☆ 武田氏が得意とする経済ネタを使って、明治維新~敗戦までの日本の側面を描く(第3章)

☆☆ 「ソ連」と「共産主義」という、第二次大戦の裏ボス的存在の暗躍と、その暴虐ぶりを徹底的に暴く(第4章)

本書は、とくに第3章の経済ネタと第4章の共産主義ネタに、武田氏らしさが遺憾無く発揮されていて、大変面白かったです。
以下に目次を列記しつつ、各章の感想を少し。購入の参考になれば。

   はじめに

「『軍部が暴走して勝手に戦争を始めてしまった』 『国民はそれに巻き込まれて大変な思いをした』 『軍国主義だった日本が、自由主義の英米に
無謀な戦いを挑み敗れた』 しかし、これらの見方には大きな誤解がある。戦前の日本では、むしろ国民は軍部の後押しをするような面が多分に
あったし、また日本は必ずしも軍国主義一辺倒ではなく、当時の世界的に見れば、かなり自由な国だったのである。英米にしろ、『世界の自由を
守るため』に戦ったわけでは決してなく、自国の立場や利益を守るために戦ったのである」

本書の主旨を上手くまとめた、見事な「まえがき」でした。武田氏がおっしゃるように、本書を読めば、「日本にも正義があり、アメリカ、イギリス、
中国にもそれぞれの正義があった。各国間でそれを調整できなかったために、戦争が勃発した」ことがよくわかります。

   第一章 日米対立の原点は満州だった!?

日米は日露戦争直後から対立していた  アメリカは中国を山分けしようと提案した  「対華21ヵ条の要求」の本当の狙いとは?
「満州事変」最大の原因は鉄道利権だった  日本が国際連盟を脱退した本当の理由  なぜ日本は満州にこだわったのか?

第1章で扱っているネタ自体に目新しさはありませんでしたが、「実はアメリカも満州を狙っていた」「中国を公平に分配しようという(アメリカの)提案」と
いった、押さえておかなければならないネタはしっかりと紹介されていますし、米比戦争(1899~1913)においてアメリカがおこなった、
フィリピンの民間人大虐殺もちゃんと解説されているので、ъ(゚Д゚)グッジョブ!! 日本が満洲にこだわった三つの理由も、しっかりと紹介されています。

   第二章 太平洋戦争にまつわる謎

「真珠湾攻撃」にまつわる不都合な事実  本当は戦争がしたかったルーズベルト  アメリカの最初の標的はドイツだった!?
「ハル・ノート」はルーズベルトの挑発だった  真珠湾攻撃でなぜ米軍は大損害を受けたのか  日本は1年足らずで降伏すると思われていた

第2章では、一章丸々を使って、アメリカ合衆国第32代大統領フランクリン・ルーズベルトを主役に据えて、ルーズベルトが日米戦争に
どのように関わってきたかを解説します。戦争というものは、相手があって初めて開始できるものなので、日本の動きだけに終始して、
戦っている相手の顔が全く見えないアカん本と比べて、本書は立派な仕上がりになっています。この、ウッドロー・ウィルソンと並んで
「這い寄る混沌」の化身としか思えないルーズベルトの不可解な行動は、今や様々な本で紹介されるようになったので、本章でも知っている話が
散見していますが、それを差し引いても面白い章でした。

   第三章 太平洋戦争は経済戦争だった

なぜ日本は戦争に強い国になれたのか?  成長の秘訣は素早いインフラ整備にある  世界市場を席巻したメイド・イン・ジャパン
ブロック経済は「日本排除」が目的だった  第二次大戦の原因は米国の金の独占にある  米英仏の経済政策がヒトラーを生み出した

本章は、「そもそも、なぜ日本はここまで強くなれたのか」を解説する章です。時代を幕末にまで遡り、経済を話題の中心に据えて、日本が
成長してゆく過程を丹念に追ってゆきます。また、同時にアメリカやヨーロッパの経済政策を紹介するとともに、ドイツが経済を回復させる
ことによって、再び台頭する模様も描いてゆきます。本書には、写真が豊富に掲載されているのですが、「オーストリア併合時に、ドイツ系住民から
大歓迎を受けるヒトラー」や「ナチスによるズデーテン地方の併合を喜ぶ、ドイツ系住民」の写真は圧巻でした。そこに写っている市民は狂喜乱舞、
号泣して喜んでいる女性もいるくらいで、当時のヒトラーの人気ぶりがイヤというほどわかります。この辺は、ドイツ推しの武田氏ならではの
解説の仕方ですね。

   第四章 日米対立の裏にあるソ連の影

太平洋戦争のキーマンはソ連だった  日独同盟のきっかけは共産主義だった  ソ連のスパイが近衛内閣のブレーンにいた
日中戦争の泥沼化も共産主義の影響があった  北進をやめると一番得をするのは誰か?  大東亜共栄圏と共産主義の深い関係
エリートはなぜ共産主義に傾倒したか?  アメリカ中枢にもソ連のスパイがいた!?

第四章は、個人的には最も推しの章でした。共産主義の危うさと、その宗主国であったソビエト連邦が、戦前・戦中にどのように日本と
その周囲で跳梁跋扈したのかを解説します。勿論、近衛文麿のダメっぷりも余すことなく描き、それとともに近衛の傍に潜んでいた、
元・朝日新聞記者の尾崎秀実をはじめとするコミンテルンの一員も紹介しています。「共産主義に傾倒した(日本の)エリートたち」が、
いかに「政権の中枢に深く入り込んでいた」かを徹底的に暴きます。そして、そのアカい牙はアメリカにまで・・・。ハッキリ言って、本章は
「SFボディ・スナッチャー」か「遊星からの物体X」かと見紛うほどの、隣人を信じられなくなるホラーな内容でした(おぉ、そういや両作とも
その根底には赤狩りがありましたね)。

   第五章 太平洋戦争にまつわる大誤解

「南京陥落」は日米開戦の分岐点だった  軍部は当初の目標をすべて達成していた  日本軍は昭和19年まで勝っていた!?
米軍も気づかなかったゼロ戦の超技術  日本国民は戦艦大和のことを知らなかった!?  なぜ戦艦大和は無謀な特攻作戦を行ったか?
実は「玉砕」を薦めていなかった日本軍  「捨て石」にされた硫黄島と沖縄  実は大戦果を挙げていた神風特別攻撃隊

第五章では、昨今、人口に膾炙されるようになった話を集めて解説しています。「玉砕」や「特攻」の大誤解を解くために、日本側だけでなく
アメリカ側の資料も使って、詳しく解説します。零戦の「アメリカ軍も気づかなかった工夫」という話は、地味ネタ好きには堪らない内容。
その「工夫」自体は知っていましたが、まさかアメ公が戦後になるまで気づかなかったとは。

   第六章 誰が太平洋戦争を望んだのか?

貧しさを脱するために国民は戦争を望んだ  「超格差社会」が軍部の暴走を招いた  新聞も戦争を熱望していた
統帥権問題という墓穴を掘った政党政治  大敗を招いた最大の原因は政治体制の失敗

終章である第六章では、「『太平洋戦争は、軍部が暴走によって引き起こされた』 『国民は言論統制により言いたいことも言えず、
軍部の横暴に耐え忍んでいた』」という大嘘を、徹底的に暴いてゆく章です。とくに、当時のマスメディアと政治家の愚劣さに対しては、
筆誅を加えるかの如くぶった斬ってゆくので、大変わかりやすく面白かったです。

   あとがき

「第二次世界大戦の勝者はどこか」という問いに対する武田氏の答えは、ちょっと今までに聞いてきた答えとは違っていたので、面白かったです。

・・・以上です。本書の内容には、細部に異論もありましたが、かなり面白いでした。個人的に本書にケチをつけるとすれば、その値段。
定価で1200円+税(人、これを「木下税」と言う)というのは、既知の中身が多い本としてはちょっと高くはないかと。税込で1000円ぐらいが
妥当だと自分は思うのですが。とは言え、一読の価値はある、なかなかの良書。かなりオススメ。

因みに、本書に似た本としては、熊谷充晃氏の「テレビではいまだに言えない昭和・明治の『真実』」がかなり面白いです。
「軍部の暴走」「陸軍の暴走」といった嘘を払拭するとともに、当時の出版メディアの悪辣っぷりをぶった斬った、大変素晴らしい本です。

このレビューが参考になれば幸いです。 (*^ω^*)

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