孫建軍著『近代日本語の起源』に見る用語「国際」の誕生
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最終更新日:2016/11/25
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用語「観光」を論じるにあたって、国際との関係をこれまで考察してきたが、考えてみると、日本人社会のなかで概念「国際」がいつごろ成立し、用語「国際」がどのように確立していったのかの考察に欠けていたことを、孫建軍氏の『近代日本語の起源』を読んで思い知らされた。
国際はInternationalの訳語として定着している。国際は各国交際というフレーズによる造語のようであるが、1872年までの英華辞典には国際はみられず、Internationalの説明はInternational Lawと強く結びつけられており、国際という用語の由来を究明するには国際法から始める必要があるようである。
国際登場以前は、「諸国ノ際」「万国ノ際」「列国ノ際」の表現であらわれており、現代語「国際」の原点に当たるようである。
しかし「国際」が一般化するまでには時間かかったようである。例の英和対訳袖珍辞書にも国際は見当たらない。
西周は明治30年代以前に概念「国際」を現代語と同様の意味で使用し、表現は「万国ノ際」「両国ノ際」「諸国ノ際」を用いていたが、当時は一般化されていなかった。
箕作麟祥は『国際法』で国際を案出し使用していたが、辞書における定着にはかなり遅かった。
1881年東大の学科改正の際「列国交際法」が「国際法」という科目名に改正され、その後「国際法」は一般社会に深く浸透した。
1930年鉄道省に「国際観光局」が設置された。役人出身の江木大臣は「国際法」を学んでいたであろうから国際がすんなり頭に浮かんだことであろう。
観光がクロスボーダー概念に限定されるかという命題は、クロスボーダー概念が輸入される以前から存在した用語「観光」には想定外のことであろう。概念「観光」は国際法のバックグラウンドのもと生み出されたとすると、当然概念「観光」はクロスボーダー概念に限定される考えられる。その時期は「英和対訳袖珍辞書」出版よりは後のことである。両者の関係(概念「国際」と概念「観光」)は今後の研究課題である。
法令概念及び用語としての観光の発生は明示的に1930年であるといえる。その時点で用語「観光」はクロスボーダー概念に限定されるとする事務方の考え方を尊重すれば、国際観光なる用語は饒舌であるが、概念「観光」がクロスボーダーにとどまらない状態になってきているのであれば、国際に限定させる意味はあったと考えられる。この点は、国内観光事業が、外客のための国内施設の整備という意味で使用されていると考えざるを得ない法令用語の限界を理解するかいなかでもある。
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