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北陸新幹線金沢暫定開業雑感

公開日: : 最終更新日:2016/11/25 人流・観光政策への評論

 人口減少が予測される石川県では、北陸新幹線金沢暫定開業により観光客が急増しブームに沸いているが、これからの反動減を予測してか、リピーター獲得策を考えるようになっている。九州新幹線開業でも、関西からの観光客が急増し、その後北陸新幹線に奪い取られるのではとの危機感で、同様の現象が話題にされたが、結果的には九州内の博多集中が加速されているのではと思われる。

1 新幹線開業とその後の反動減

 新幹線は、開業地域を短期的に見ると、延伸による開業効果とその後の反動減の歴史でもある。1972年岡山開業により、倉敷が観光地化した。続く1975年の博多開業は税金が投入されないで開業した新幹線の最後の例でもある。この博多開業により岡山・倉敷の観光客は空前絶後の反動減となった。その後の観光客急増・反動減現象のスタートでもある。
 上越東北新幹線の新潟・仙台開業は、税金投入の歴史でもあるが、東京と結ばれることにより、現在では在来線込みで営業収支は黒字ではないかと思われる。その後、盛岡、山形、秋田、八戸、青森と延伸していった。北陸新幹線も長野まで開業し、いずれも開業効果により地元はにぎわうことにより、リピーター獲得、といっても首都圏の観光客のことであるが、重要な関心事となった。現実は、リピーター獲得問題と同時にストロー現象も問題視されるようになっていった。
 北陸新幹線金沢開業により、東京駅が新幹線のハブステーションとしてその地位がさらに強化されることとなった。青森、秋田、盛岡、山形、仙台、福島、宇都宮、大宮、高崎・前橋、新潟、長野、富山、金沢、横浜、静岡、名古屋、岐阜、京都、大阪、神戸、岡山、広島、博多、熊本、鹿児島の県庁所在地が東京駅やブロック都市とダイレクトに結ばれ、一極集中どころかストロー現象が引き起こされることとなった。
 九州と異なり、金沢、富山にとって幸いであったのは、東京と短時間で直結できたことである。航空機の4倍増の輸送力をもってすれば、廉価な観光資源が造成できるのである。しかしながら、首都圏のJR東日本の各駅では、JR東日本沿線の観光宣伝が豊富にあり、石川富山の観光宣伝は完全に埋没してる。それでも観光客が急増したのは開業効果である。開業効果がなくなれば反動減が予想されるのである。ましてや宿泊単価急騰では廉価な商品は期待できないのである。当然JR東日本は廉価な東北商品に力を入れるのであろう。
 
2 80年前から予測されていた人口減少

 戦争に備えるため陸軍は厚生行政の推進を唱え、1939年に厚生省が設置された。その時点で、中川友長厚生省人口問題研究所調査部長は、欧州先進国の実態から、日本の人口は2千年の1億2千万人をピークに減少すると予測していた。時期が後ろにずれただけで、予測通りであり、これからも間違いなく人口減少は継続する。石川県も例外ではなく、能登、小松市・加賀市の人口は激減し、2060年には80万人を切ると推測される石川県の、人口金沢およびその周辺への一極集中が顕著となると判断しておくことが肝要であろう。人口問題は短期間には解決できないし、石川県だけが特別の解決策を見つけることができることはない。東京の人口を引っ剥がして田舎に連れてくるといった人動政策など戦時でもできなかったことである。

3 北陸新幹線のその後
 

 北陸新幹線は東京と大阪を結ぶものとして計画された。東海道新幹線の補完機能を期待されたからである。金沢在住の人は金沢が最終駅であってほしいと本音で願っているが、人口規模からいって赤字である北陸新幹線が、金沢とまりでは最初から建設されなかったであろう。長野から分岐して新潟と富山に向かう新幹線を選択せず、高崎から新潟へ向かう上越新幹線を選択した時点で無理な話であった。当時大清水トンネルに1兆円かけたのである。
 リニア新幹線が建設され始めたから、北陸新幹線のもつ東海道新幹線の補完機能としての役割が変わってきた。リニアと直結しなければ、巨大都市東京との関係が築けなくなる。北陸新幹線の金沢以遠のルートも、本音でリニアとの連結を考えておかなければ、地域の発展は望めない。リニア完成後の需要減少した東海道新幹線の活用連携との視点も長期的には重要である。福井県、滋賀県の発展もリニア駅アクセスが最も優先される事項である。

4 高速道路の無料化

民主党のマニフェストで有名になった高速道路の無料化であるが、結局自民党政権になり2050年までは無料化されないことが決定された。地方創生に交流人口の拡大が必要であれば、観光客の半数以上が利用する自動車交通のコスト削減が最も効果的であり、それには高速道路の無料化が最も効果的である。しかしいまだに高速道路建設圧力が高く、維持更新投資に回す財政的余力が削減されるものだから、無料化が進まないのである。真剣に観光を中心とした交流人口拡大を考えるのであれば高速道路無料化を推進すべきであろう。石川県道路公社が能登自動車道路を無料化した政策はそのことがわかっているからであろうが、数百円の効果しかないから、県外客の増加には無力である。高速道路無料化には、鉄道会社等の反対が起こるが、自治体の立場では各交通機関が競争することにより交流人口が増えるのであるから推進する立場を貫徹すべきである。そのことによって高速バスの勤務条件も改善される。
なお、バス事業の規制緩和前と後の事故発生件数を比較すると、規制緩和後に減少しているから、規制緩和によって事故が増加したということにはならない。しかしこのことも報道されないから、行政の対応も異なってくるのである。

5 里山里海伝説の誕生

 石川県は能登を里山里海のイメージで人流資源化に取り組んでいる。日本中が里山にプラスイメージをもっているのか、NHK広島放送局も関係している『里山資本主義』も読んでみた。しかし私は、このキーワードの里山に関して、いささか違和感を覚えるのである。
 森林学の泰斗・太田猛彦(東京大学教授)は江戸の里山ははげ山であると記述する。(『森林飽和』NHKブックス)。武井弘一(琉球大学准教授)も江戸時代の水田政策を見直している(『江戸日本の転換点』NHKブックス)。両者とも江戸時代が環境にやさしいエコ社会であるという近年登場した俗説を見直しており、現代人が沿岸を見る眼にも変化をもたらしている。イノシシに代表される鳥獣被害が大きく報道されるが、果たして被害なのであろうか。クマやサルが戻って来るのは当然とも思えるからである。現代社会の里山では総じて生態遷移が進行し始めた。これは太田猛彦が指摘する「里山の奥山化」を意味する。人が山林資源を利用しなければ奥山に変わってゆくのは必然である。里山の原風景ははげ山だらけであったことを浮世絵は証明している。里地・里山論に迎合するマスコミ、学会、自治体に太田猛彦は痛烈な批判をする。日本政府は、里地・里山社会は生物多様性維持・保全のお手本になるとして、「SATOYAMAイニシアティヴ」を発信している。これを歓迎するマスコミ論調の氾濫から、かつての里地・里山システムがすべて持続可能な社会のお手本であったかのような錯覚が国民の間に生まれている。その結果、無批判にエコツーリズムを受け入れる観光学者、自治体が増加してしまった。

6 江戸史観の見直し
 
 江戸イメージの転換の転換が発生している。「歴史は後から造られる」の典型例である。明治以後、江戸時代の社会は、概して否定的に見られてきたが、日本社会が高度経済成長を終了し環境問題など、さまざまな矛盾が露呈した。その結果、低成長で持続可能な経済のモデルが江戸時代にもとめられ、いわゆる薩長史観、マルクス史観が見直されるようになった。武井弘一は、江戸時代にそのような静的な社会があったという見方を再転換させた(『江戸日本の転換点』)。
 江戸時代17世紀の「日本列島改造」により、見渡すかぎり広がるような水田の風景が生まれた。それまで水田は主として山地にあった。加賀藩が近世を通じて開発した新田が約35万石である。18世紀、発展は飽和状態に達し、最大の問題は、地味の低下による肥料の必要が生じた。その結果、草山がつぶされ、干鰯などの肥料が使われるようになった。そのために、農業は貨幣経済の中に巻き込まれた。また、それまであった生態系の循環が壊れた。百姓は貨幣経済に巻き込まれ、草木を丸々刈り取られ棚田となった里山は土砂崩れを起こした。また、新田開発のための土木・治水工事の出費が藩財政も圧迫した。
山崩れや土石流が頻発し、水田には洪水が氾濫し、海岸では飛砂が襲ってきた。日照りが続くと水不足、人々は毎年そのような災害と戦いながら暮らしていた。その最大の原因は森林の劣化だった。そのような意味で、豊かに生い茂った現代の森林と比べると「里山は一種の荒れ地生態系」といっても過言ではなかった。
森林の劣化は洪水氾濫だけではなく飛砂も引き起こした。その防止対策が江戸時代の海岸林の造成であった。戦国時代末期から江戸時代にかけて沿岸地域の人々が大変な苦労を重ねて造成したクロマツ林はれっきとした人工林であり、三百年かけて砂丘を中心に日本の海岸線は緑の帯で覆われるようになった。
森林劣化の大きな原因は生活の向上である。塩の需要が増加し、塩木山の酷使が森林荒廃につながった。中世後期以降陶磁器生産が飛躍的に伸長した。17世紀肥前で連房式登り窯がつくられ本格的磁器生産開始 され、森林劣化を加速した。肥前から加賀九谷に磁器生産技術が伝えられた。加賀九谷焼360年の歴史は加賀海岸誕生の歴史でもあった。
海岸浸食の再認識も必要である。森林劣化がストップした結果なのである。河川からの土砂供給の減少に主要な原因があると、海岸浸食に関する認識を確認する必要がある。「砂丘の浸食量の増加」と「森林の成長による山地からの流出土砂量の減少」は比例する。14世紀頃までは日本全体を見れば山地からの土砂流出量と海岸での浸食量は平衡していたが、飛砂害の増加により、海岸林の造成がはじまった。15世紀以降は人口が千万人規模で増加し、それに伴って山地・森林の劣化による土砂流出が増加した。17世紀に入ると三千万人規模になり、土砂流出量が急激に増加した。そのため以降三百年ほどは砂丘拡大の時代が続いた。
今から百年ほど前から状況が変化した。過去半世紀程度の間には砂丘は縮小する傾向にある。現在は飛砂の害は明らかに少なくなっている。日本の自然環境の大きな変化は、数十年の間に起きた急激でしかも劇的なものである。飛砂の減少を生んだ山地・森林の変化が国土全体に統一的に理解できるようになった。二十世紀におこり今も静かに続く国土の変貌とは何か。一言でいえば太田猛彦が言う『森林飽和』である。
ひところ「自然崩壊」という言葉によって「日本の自然が破壊されている」というイメージが一般に定着したが、そろそろ脱却しなければならない。日本の自然は飽和状態にある。これは自然がたくさんあるから問題がないということではなく、新たな荒廃が始まっている。日本列島における森林は千数百年来人間の活動から直接的に影響を受けている。
森林は二酸化炭素を減少させるという常識があるが、地球温暖化抑制と森林光合成作用は無関係である。樹木成長の間は、森林の蓄積(炭素の蓄積)量は増加するが、一般に樹木が十分に成長すると、吸収量と放出量は一致する。地上にたまった落ち葉や倒木は微生物によって直ちに分解され大量に二酸化炭素を出す。日本は50年ほど前まで森林が衰退していたので現在まで成長中であるが、もうしばらくでおわってしまうと、太田猛彦は『森林飽和』において警告している。

7 小京都金沢

 小京都の代表都市であった金沢が小京都から脱退した。公家文化の京都に対抗して武家文化の金沢だと言いたかったからである。しかしこれは大きな歴史認識の誤りである。京都は秀吉、家康に破壊された武家文化の町である。二条城が中心の町である。だから、全国の小京都は城下町なのである。金沢も城下町だから小京都に参加できたのである。
 城下町は近世の町であるから全国に所在する。むしろ希少価値があるのは中世の町である。中世には、金沢は存在しなかった。北陸であれば越前に存在する。永平寺や勝山、吉崎御坊であろうから、観光資源化を考えるのであれば、これらの資源との連携を考えたほうがいいと私は思っている。越前加賀宗教文化街道はその試みの一つである。

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