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国際人流・観光状況の考察と訪日旅行者急増要因の分析(1)

Ⅰ 訪日外客数の急増と福島原発事故の世界の旅行界に与えた影響
明るい話題が少ないのか、訪日外国人客数の急増が世間の話題になっている。政府は訪日外国人を2020年までに4000万人にする目標を定め、マスコミはインバウンド、インバウンドとはやし立てている。
小泉総理の観光立国宣言(2003年施政方針演説)は、観光が政策においても戦後再び市民権を獲得したとされる象徴的出来事であった。堂々と遊びのために税金が使えるようになったわけである。人が移動するという人流を契機にビジネスチャンスが生み出され雇用機会も増加するという着想は間違ってはいない。しかし所得が増加しなければ旅行ができないから、景気低迷下、結局観光もお客さんを引っ張ってくることばかり考えて、自ら積極的に旅行に出かけるという着想が生まれてこなかった。そこに俄かに中国人観光客が急増した。インバウンドの大合唱の始まりである。アジア開発銀行総裁中尾武彦氏が「イタリアのネクタイは周りの国の所得増で価値が高まった。同じ効果は日本でも」と朝日新聞2016年11月1日の朝日新聞朝刊に寄稿されているが、日本の観光資源が良くなったというというより、為替の影響を含めて、周辺国がお金持ちになっただけのことなのである。それよりも日本人がその分貧乏になったという自覚がないことがむしろ問題であろう
GHQに接収されて不足気味であったホテルを整備するための「国際観光ホテル整備法」及び信頼のできる英語のガイドを認定する「旧通訳案内業法(現行通訳案内士法)」が1949年に、占領政策が終了たため、安心して依頼できる旅行会社をアメリカ人にわかるようにするための「旧旅行あっせん業法(現行旅行業法)」が1952年に制定されたことに代表されるように、戦後の日本の観光政策は外貨獲得のためのインバウンド政策が中心であった。というより、終戦後の疲弊状態の中では、アウトバウンド政策はもとより、国内観光政策もなく、インバウンド政策しかなかったのである。1971年、日本のGDPが西ドイツ(当時)を追い越し世界第二位になった年、日本人海外旅行者数が訪日外客数を上回った。アウトバウンド政策の開始の年であり、日本人海外旅行者の保護を強化した旅行業法が施行された。1986年には、円高基調を背景に日本人海外旅行者の数を1990年までに、500万人から1000万にするテンミリオン計画が提唱された。1991年に旧運輸省は、日本人海外旅行者のマナー対策として、社会的に批判を受ける行為や外国で禁止されている行為を説明したビデオやパンフレットを作って、飛行機の中で上映し、ガイドブックに掲載するなどしたものである。
バブル経済崩壊後日本経済は伸び悩む一方、中国経済は目覚ましい発展を遂げ、2009年にはGDPが日本を追い抜き世界第2位となった。2016年には日本の2倍となっており、それと同時に我が国では再びインバウンド政策しか語られなくなった1。

1 アウトバウンドを目的としたテンミリオン計画の時は、インバウンド政策が手薄であるとの国内観光業界からの批判があり、ツーウェイ・ツーリズムを提唱した。今度は再び、インバウンド政策を提唱しているから、日本人の海外旅行をメインとする日本の旅行業者から、アウトバウンド政策への積極策も同時に要請されることとなり、国土交通省は、二国間の双方向の観光交流(ツーウェイツーリズム)を提唱しているが、マスコミでは話題にならない。

2003年約520万人の訪日外客数が、2015年に約2千万人へと約1400万人増加した。その理由は、同期間中に約1100万人が増加した極東地域からの訪問客数、中でも約450万人増加した中国本土からの訪問客数の増加によるところが大きい。欧米からの訪問者数を合算しても約110万人の増加と、香港からの訪問者数の増加数約120万人より少ないのである。
2010年を基準として、世界の旅行客数の伸びを見ると2015年には25%増加している。その大きな要因として、特に中国本土から全世界に出かける旅行者が約2倍に急増したことが考えられる。そのおかげで日本への訪問外客数も急増したのである。

その一方この12年間において、福島原発事故の諸外国へ与えた影響は大きく、世界中のすべての地域で訪日数を大きく減少させ、元の水準にまで回復するのに約2年かかかったと推測される。その後訪日数は増加したものの、中国本土からの訪問客数は2013年に再度減少に転じた。他の地域からの訪日旅行者は増加しており、また中国本土の海外旅行者も増加しているところから、日本と中国の間の特殊要因が原因していると考えられ、2012年9月に日本政府が尖閣諸島の国有化を実施したことに端を発する一連の紛争が大きく影響したものと考えられる。また、他国の社会情勢の変化が中国本土客へ与える影響も日本は無視できなくなっている。2015年韓国は中国本土客の最大のデスティネーションであったが、MERS騒ぎの影響で目的地が日本に変更されたことも訪日外客の急増につながっている2。

2 China Outbound Tourism I n2015「 From January to May 2015, South Korea still ranked as the No.1 destination country. Nevertheless, the situation changed after MERS broke out on May 20th, which meant Japan moved into first place. 」China Outbound Tourism in 2016「 the recent frequent terrorist attacks happened in Europe make many tourists change their way to more safer Asian countries.」と表現されている。
https://www.travelchinaguide.com/tourism/2015statistics/outbound.htm 2016年21月26日
Ⅱ 国際人流・観光の概況
世界の国際人流・観光活動を、金額ベースと人数ベースで概観したものが表1-3(略)である。「観光」活動は主観的な概念を中心とするとするところから、客観的把握が困難であり、業務活動を含めたヒトの移動を把握することに収斂せざるを得ないところがある。従ってより正確には「「楽しみ」のための旅」に限定されない「人流」(本稿付論参照)のほうが字句としては適切なのである。WTO(国連・世界観光機関)では、24時間以上自宅を離れ(「tourist」の字句を使用し、24時間未満の場合は「excursionist」の字句を使用することが通例である。)、365日以内に元の居住地に戻ってきた数を集計している。365日を超えると「migrant」として旅行者「visitor」には含めないことが通例である。また、金額ベースでの集計においては、「観光」活動に国際運送(運送収支)を含める場合(観光収支)と含めない場合(旅行収支)があることにも注意しておかなければならない。運送収支といっても国際航空の収支が大きく、しかも旅行収支と比較しても主要国では全体の1割から3割を占める無視できない割合である。航空関係はICAO、観光関係はWTOという別の国際機関で取り扱っていることが影響していると思われる。

「国際」活動も国境概念が政治的判断を含むものであるだけに、香港、マカオといった特別行政地区及び台湾等の取り扱いに注意しなければならず、国別、地域別と表現を使い分けたりする。また、マレーシア、シンガポール間の陸上移動等のように両国の方針により国際旅客統計に含めない場合も存在する。ロシアでは、旧ソ連国、東欧諸国の統計を含めない処理をして発表しているところから、UNWTOの統計資料とは大きく異なる。国籍の取扱も同様に複雑で、長期滞在者や永住権を持った者は、統計処理上自国民と同様の取扱をすることが通例である。従ってインバウンド、アウトバウンドといっても国籍による分類ではなく、居住地による分類なのである。当然のことながら、金額ベースでの比較は、為替レートを問題が常時存在することに注意が必要である。
注 第一生命経済研究所 主任エコノミスト 藤代宏一「為替とインバウンド需要の関係から、今後の訪日外国人観光客数を推計する」http://blogos.com/article/177998/

そのような制約のもとでも、表1-4(略)をみればおおむね世界の人流・観光の趨勢は認識できる。WTO資料による国際旅行収入、支出では、航空旅客輸送活動は含まれていないものの、米国及び中国が際立っている。仮に航空旅客輸送を含めても米国及び中国のウェイトが高いと思われる。続いで西欧諸国が続くが、収入ではタイ、香港及びマカオ、支出ではカナダ及びロシアに加えて、韓国及びオーストラリアのアジア太平洋諸国が続いている。
人数ベースで概観すると、人口規模が影響する出国人数と支出はおおむね一致するものの、訪問客数と収入は一致せず、訪問客数の多いトルコ、メキシコ及びロシアに代わって、収入の多いタイ、マカオ及び香港がランクインする。収入においては日帰り客(excursionist)を含めた中国本土客の影響があり、人数においては、西洋との距離感の短いトルコ及びロシア、日帰りを含め米国との距離感の短いメキシコがランクインすることになる。いずれにしろ国際旅行支出のトップクラスに常時ランクインしていた日本が、2011年以降トップテンから脱落して順位を徐々に下げている。

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